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冬の童話祭2026

氷の手

作者: 六福亭

 里の子どもたちが、山へ遠足に出かけました。みなそれぞれ、作ってもらったお弁当や水筒を持って、迷子にならないよう順々に手をつなぎ、はしゃぎながら山道を登ります。


 季節は秋から冬にかわるころでした。山の木々は赤や黄、茶色に頭を染めて、ざわざわと子どもたちの頭上でささやきかわしています。夏頃にいた鳥たちはもっと暖かい場所へ旅立ったのか、妙に静かでした。


 子どもたちは、山全部が自分のものになったような気がして、大声で笑い合ったり、時々駆け出したり、好きな場所でおやつを食べたり、思い思いに過ごします。


 目的地は、山を二時間ほど登ったところにある広い野原です。お昼を少し過ぎたころ、子どもたちは野原に辿り着き、ふかふかちくちくの草っ原にわっと飛び込みました。それから、少し肌寒いけれどもよく晴れた青空の下で、お弁当を食べました。笹の葉でくるんだおむすびに、たまごやきやお漬け物。みかんを持ってきた子もいました。


 昼ご飯を食べた後は、みんなで遊びます。普通の鬼ごっこをした後は、氷鬼をしました。鬼に捕まえられた子は、まるで凍りついたようにその場でじっとしていないといけないのです。他の子が鬼の目を盗んで、氷になった子の股をくぐると、氷が溶けて逃げることができるようになります。


 夢中になって遊んでいると、一人の子の耳元で、聞き慣れない声がしました。


「わたしも、入れて」


「うん! いいよ」

 

 そう答えた瞬間、耳の横をすっと冷たい風が抜けた気がしました。


 白い影が野原を拭き回り、子どもたちに次々と触れていきます。そのたびに子どもはかちんと固まり、その場で動かなくなりました。


 いつのまにか、空を分厚い雲が覆い、雪が降ってきたようです。なみという女の子は急になんだか不安になり、

「もうやめよう」

 と呼びかけました。


 けれど、その時動いている子は、なみの他にはいませんでした。


 雪は強まり、吹雪になりました。けれど誰一人逃げようとしたり、空を見上げたりすらしないのです。近づくと、みなひんやりとした氷の像になっていました。きらきらした雪の結晶にまみれ、肌も髪も目も凍りついた恐ろしい顔を見た途端、なみはわっと泣きだし、走って逃げました。


 吹雪はいっそう激しく叩き降り、なみをここから帰すまいとします。降りつもる雪の重さに負けて、なみはいつしか倒れ、目をつむりました。


 

 気がついた時、なみは知らない家の中の、あたたかい囲炉裏のそばに寝かされていました。囲炉裏には大きなべがかかっていて、きのこやしし肉がぐつぐつと煮えています。


「目が覚めたか」


 土間から上がってきたのは、毛皮を着たひげ面の男でした。深いしわがたくさん刻まれた大きな顔の下半分を、ぼさぼさのひげがおおっています。なみはあわてて、初めて会う男にあいさつをしました。


 男は険しい顔で、なみに言いました。

「お前は、雪にうもれていた。太郎が見つけなければ、今頃は死んでいただろう」

 犬がなみに飛びついて、しきりにしっぽを振りながら顔をなめ回します。太郎と呼ばれたその犬をなでてやりながら、なみは次第に今日起こったことを思い出しました。


「そうだ! みんなが……!」

 

 立ち上がろうとするなみを、男が押しとどめます。

「待て。今は、雪ん子が暴れ回っている。外に出て行ってはいかん」

「でも、みんな氷になっちゃったわ!」

「氷になったのならば、寒さは感じまい」

 男はそう言って、なみを囲炉裏のそばに座らせました。そして、お椀にしし鍋の中身をよそい、なみにくれました。

「今は、食え。吹雪がやんだら、山を下りろ。お前だけでも助かって幸いだったのだ」


 しし鍋はたしかにおいしく、体の芯から温まります。けれど汁をすすりながら、なみの目からぽろりと涙が一粒こぼれ落ちました。


「おじさん、雪ん子ってなに?」

「雪ん子は、山の魔物だ。冬がやってくると雪をふらし、木々を凍らせる。何百年も昔から山にいるが、心も体もまだ子どものようだといわれている」

「凍らせたみんなを、どうするの?」

 まさか、食べてしまうのだろうかとなみは思いました。けれども、男はゆっくりと首を振りました。

「分からん。魔物の考えることは」

 なみは囲炉裏の火を見つめながら、静かにしし肉やきのこを食べました。


 山小屋で一晩泊まらせてもらうことになったなみは、男が出してくれた古いふとんにくるまって眠りました。太郎がなみにくっついて、あたためてくれます。男のいびきを聞きながら、なみは夢を見ました。


 夢の中で、なみは友達みんなと遊んでいます。けれどその中で一人だけ、見覚えのない子が混ざっているのです。その子は誰よりも足が早く、鬼になった時はとうとうみんなを捕まえてしまいました。けれど逃げる時は、他の子達にぶつかってしまったり、転んだりして、すぐ鬼に捕まってしまうのです。


 その子は、笑っていました。なみと目が合うと、うなずいて合図をしました。その時なみはたしかに、その子と友達でした。


 翌朝目が覚めても、吹雪はやんでいませんでした。けれどなみは強引に小屋を出ると男に言い、囲炉裏の火種を少しばかり分けてもらいました。そして、火種を入れた竹の筒を握りしめ、野原へと駆けだしていきます。


 氷の像が転々と建ち、冷たい風が吹き荒れる野原で、なみは力いっぱい叫びます。


「火鬼をしよう! わたしが鬼ね!」


 そして、氷の像を次々と捕まえ、火種を上手く使ってその氷を溶かしていきました。とかされてぼうっと座り込んだり、辺りを見回す子どもたちの中を、一人の子が逃げ回っています。その背中を追いかけに追いかけ、なみはとうとう、転んだその子の背中に触れました。


「つかまえた!」


 その瞬間、背中を向けたその子は大笑いしながらなみの手をすり抜け、まだ暗い空へと飛んでいきました。


 ぼうぜんと見上げるなみの目の前で、空はぐんぐんと晴れていきます。雪はとけ、子どもたちがわっとなみにかけよりました。


 なみと子どもたちは、仲良く連れ立って山を下りていきました。


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