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2 一目惚れのブランデー

「一目惚れだったんだ」


「っ!?、急にどうなさったんですか?」

唐突な告白にリキュールでむせそうになる。薬草の風味をツンと鼻に感じた。


「マリーがすごく綺麗で。雷が落ちたような衝撃だったよ」

「ふふっ、大げさですね。街で噂の貴公子様が何をおっしゃいますか」

「なんだい?それ」


◆◆◆


『ちょっとマリー!あなた貴公子様とデートしていたそうじゃない!!』

『アンナ!…貴公子様、って?』


仕事が一段落し、お昼休憩になった頃。

学生時代からの親友のアンナが店に飛び込んできた。


『ほら、あの商人の、ノア様!すごく有名なのよ!』

『少しお茶をご一緒しただけよ。アンナ、紅茶飲む?』


『飲みたい!…とにかくね、その少しがものすごい事なのよ!女性の影がないことで有名なんだから』

『そう、なんだ』

あの時と同じ、紅茶にブランデーを数滴。よくうちに来るアンナのお気に入りでもある。

カップを2つテーブルに置くとアンナはありがとう、と言って飲み始める。


(急に飛び込んでくるのもお昼休みだし、お礼もちゃんとしてくれるし。本当に素敵な子)


『でも正直ね、マリーならお似合いだと思ったわ』

『買いかぶりすぎ。貴公子様なんでしょう?本当にきれいな方だったもの』


その瞬間、アンナはずいっと身を乗り出した。


『好感を、持ったのね?』

『え、あ、うん…』

『話してみてどうだった?』

『楽しかった、です』


『じゃあ決まりね。次の約束はした?劇場?いや、街を散策するのも——』

『待って、そんな急に…』


『マリー。白馬の王子様はね、あなたから迎えに行くのよ。先月の会を忘れたのかしら?』

『うっ、』


先月、私は恋人が欲しいとアンナに泣きついた。

そうして音楽会—とは名ばかりのお見合いパーティーに一緒に行ったのだが雰囲気に圧倒され退場。


『その節は…』


その次の週のことだった。ノアさんから手紙が届いたのは。


——マリーさん、僕と結婚してください——


◆◆◆


「絶対にマリーを取られたくなくてね。手続きを終え次第、すぐに手紙を送りつけた」

「びっくりしました。結婚だなんて、2回しか会ってないのに」

「僕もびっくりだよ。まさか自分がそんなタイプだったなんてね」


ほとんど同じタイミングで、私とノアさんはリキュールの最後の1滴を飲み干した。

「…そろそろ劇場に向かおうか?」

「はい!」


◆◆◆


当然、我が家は大騒ぎになった。


『マリー…まだ早くはないか?もう少しだけ…』

『「お父さんと結婚する!」って言っていたじゃないか…』


くしゃりと新聞を握りしめてあたふたするパパ。

ガクガクと私を揺さぶるお兄ちゃん。

冷静に見えるが、手元の刺繍針に糸が通っていないママ。


『私、最強のお嫁さんになる!』


◆◆◆


「ようこそ、我がサーカスショーへ!」


オープニングと同時に曲芸が始まり、私達は一気にサーカスの世界に引き込まれた。


「すごいっ!今人が、人が飛びましたよ!…わ、体が柔らかい!骨がないみたいです!」

「ははっ、本当だね」


見たこともないショーにずっと鳥肌が止まらない。まるで別の世界に来たみたいだ。

「次は獅子のショーみたいだよ。火の輪をくぐるのかな?」

「楽しみです!」


パッと照明に照らされ、現れたのは大きな獅子。本でしか見たことのない生物がそこにいる。

長いムチを持った女性が持ってきたのは、火の輪。


グルルルルっ


タッ———


(跳んだ…)


わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


人間が、これほど感動する場面。そう多く立ち会うことはできないだろう。


◆◆◆



『マリー…すごく綺麗よ』

『本当に。自慢の娘ね』


アンナとママに化粧の最終チェックをしてもらう。

友人と母親に褒められるのは気恥ずかしくて、不思議な気分だった。


(今日は、私が完璧なお嫁さんになる日)



「新婦、入場」


わぁぁぁぁぁ…


静かなざわめきと拍手の音が波のように押し寄せる。

いつもよりも高いハイヒールと長いドレスに苦戦しながら、一歩、一歩。


あっという間だった。手紙が届いて、手続きをして。

ノアさんの手際が良すぎてたった数ヶ月で結婚式までたどり着いたのだ。


「マリーさん。すごく、お綺麗です」

「ノアさんもとっても素敵です」


幼い私が憧れた、シルクのドレスに華やかなパールと白い花。


「———誓いますか?」


「「誓います」」


パチパチパチパチパチ——


その瞬間、思った。


(あれ、何か足りない…ああ、()()()()はないんだ)


そして、私はノアさんのネクタイを掴み

ぐっと引き寄せて、持っていたブーケで2人の顔を隠しながら。


『っ、?!??』


口付けた。


わぁぁぁぁぁぁぁっ!!


空気が揺れるような歓声と、戸惑っているノアさんを見上げながら自覚する。




(私は転生者。だから、寿命はあと10年)



ブランデー・ティー

女性でも堂々と飲めるお酒、として広がった。医師や看護師の間では、「夜のブランデーティーは最良の安眠薬」と言われることもあったとか。

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