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友情が刻んだ破滅の連番

作者: Tom Eny

友情が刻んだ破滅の連番


1. 友情が作った「破滅の連番」


2005年、夏。俺、和也の人生は、その日、自ら掘った破滅の穴の上に立っていた。すべては、他人のものを奪い、独占することで成り立っていた、悪癖の連鎖だった。富を独占し、**「自分だけが特別な存在」**だと証明したい。


アスファルトの熱気が、陽炎のように歪んだ視界の奥で宝くじ売り場の赤い『夢』の文字を揺らしていた。宝くじを握る手のひらには、すでに汗の湿り気が張り付いていた。


「4人分、計8枚の宝くじ。どうする、和也」


俺は即座に主張した。「バラで買おうぜ。バラの方が、当たる気がする」 バラ。連続性がなければ、抜き取った番号の痕跡を隠しやすい、独占のための**「安全な逃げ場」**だった。


しかし、健吾が俺の意見を押し切った。「和也、何言ってんだ。連番で買って、みんなの夢を切れ目なく繋げようぜ」


俺は渋々、連続した番号の8枚の連番を購入することになった。連番の紙の端が指先に食い込む感触が不快だった。


数日後、当選を確認した。手が震えで紙をクシャリと鳴らした。8枚の連番の中に、**1等とその前後賞(合計3枚)**が収まっていた。巨額の富。


俺は迷うことなく3枚すべてを抜き取り、独占した。抜き取った後の連番の列に、ひやりとする空隙が生まれたのを指先が捉えた。俺は目を固く閉じ、その**「穴」**の感触を意識から排除した。


「さあ、ハズれた宝くじも入れようぜ!」俺は他の誰にも確認させる間を与えず、残ったハズレ券5枚をアルミ缶に放り込み、蓋を閉めた。


アルミ缶の蓋を閉じる『カシュッ』という乾いた音が、まるで証拠隠滅の銃声のように耳の奥に響いた。


「もうチェックしたよ。ハズレだった。まあ、ガキの夢なんてこんなもんだ」


その夜、タイムカプセルを埋める穴を掘る際、掘り返した土の生臭い匂いが、俺の罪の匂いのように鼻腔に残った。


2. 偽りの成功と「穴」の告発


<緩和 1:偽りの平穏>


20年後、秋。俺は当選金を元手に巨額の富を築き、タワーマンションで悠々自適の生活を送っていた。すべては裏切りが生んだ幻影の成功だ。何の代償もなかったと、俺は信じていた。


俺たちは再会した。俺は、友人たちを見下す優越感と保身のため、貧乏なフリを続けた。タイムカプセルを掘り出し、ハズレ券5枚を皆で確認する。「やっぱりハズレだったな!」


皆と笑い合う平和な再会の雰囲気に、俺は油断していた。


<緊張への転換>


だが、その夜。健吾が俺の袖口の下に見えた高級腕時計に気づいた。


健吾:「和也、それ、ずいぶんいい時計だな。成功したんだな」


俺:「その声には、鋭い違和感が刺さっていた。」


健吾の中で、俺の偽装と過去の悪癖の記憶が結びついた。彼は、自分が信じた**「連番=友情の誓い」**が裏切られたのではないか、という憤りから再調査を決意した。


<緩和 2:一時的な安堵>


腕時計の指摘は恐ろしかったが、数週間が経っても何も起きなかった。俺は自分自身に言い聞かせた。「連番の偶然だ。すぐにバレることはない。」不安の中で、俺の生活は無理やり平穏を装いながら続いていった。


<極限の緊張>


ある夜。俺はタワーマンションにいたが、健吾からのメッセージを見た瞬間、背筋を凍らせるような冷気を感じた。窓の外の夜景は、冷たいガラス一枚隔てた、無関心な光の群れだった。


「和也。お前が埋めたくじは、連番の規則性が崩れていた。俺はあの5枚の券の番号を調べ直した。間にはっきりと**『穴』**が開いている。


抜けていた3枚の連番、それが1等とその前後賞と完全に一致する」


俺の計画は、俺自身が最も避けようとしたはずの連番の持つ**「穴」**という、動かせない物理的な真実によって破られた。


3. 裏切りの終焉


健吾の追及は、俺の人生の根幹を突き破った。


「お前がバラにこだわったのは、もし当たった時の独占を有利にするためだ。お前のその小心な独占欲を、俺は知っていた」


「だが、俺が純粋に友情を信じて連番を主張したことが、皮肉にもお前を告発する動かぬ証拠になったんだ。」


「お前は友情を裏切った瞬間から、破滅への道を歩んでいた」


「その独占欲は、昔の借りパクや踏み倒しと同じ、お前の卑劣な習慣の連鎖だ。お前の人生は、最初から俺たちの富と、自分自身の富を破壊する裏切りの連鎖で成り立っていたんだ。そして、お前がその連鎖の最後の駒だ」


窓に映る俺の顔は、20年前、宝くじを抜き取った時の、汗と欲望に歪んだ卑しい顔と寸分違わなかった。俺は何も変わっていなかった。ただ、裏切りの規模が大きくなっただけだ。


健吾の純粋な友情が生んだ**「連番の穴」**は、20年の時を経て俺の人生を破壊し尽くす、破滅の穴へと変わっていた。


友情という純粋な『連番』こそが、最も冷徹な告発者だった。 偽りの成功は、音を立てて崩れ去った。


タワーマンションの最上階。俺は、冷たいガラスに額を押し付けたまま、ただ夜景を見つめていた。その冷たさが、20年前の汗の湿り気を洗い流すかのように感じられた。


遠く、サイレンの音が小さく、聞こえた。

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