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貧乏魔女は偽王子に告られる

 ダレアモール王国のノアール王子はとても退屈だった。

 

 「はぁー、旅に出たいなー」


 そんなところに、ある新米兵士が入隊してきた。


 その兵士を見た瞬間、ノアール王子は良いアイデアを思いつく。


 そのアイデアは見事成功し、ノアール王子は退屈な王子生活から期限付きで解放されたのだった。



 

「おーい嬢ちゃん?嬢ちゃんてば」

 

 果物屋の主人は困りが顔で、ずっとバナナを見つめている少女に呼びかける。しかし、ひたすらに無視される。


 聞こえないのか?

 

 真顔でずっと何かぶつぶつと言っている様子。


 そのせいで客が店に寄り付かない。さっきパイナップルを買おうとしてくれた婦人まで、あっ!お魚さん屋じゃないと離れていってしまった。


 店の主人は仕方なく紙袋を取り出し、その中に売り物にならない熟しすぎた黒いバナナを5本くらい詰め込む。


 それを嬢ちゃんの元へ持っていく。近づくと声が聞こえた。


 「バナナ・・・、バナナ・・・」


 店の主人はなぜか切なくなった。お金がないのか?バナナ一本60ドルニーなのに。


 「嬢ちゃん、店の前で困るよそうやって。まぁでもそんなにバナナが好きなら、ほら!売り物になんない黒いバナナだけどな!」

 

 店の主人は笑顔で、持っていた紙袋を少女の顔の前にぶら下げる。

 

 クンッ、クンクン。少女は鼻で紙袋の匂いを嗅ぐと、さっきまでの顔が嘘のようにパァッと明るくなった。


 すると少女は紙袋を掴むとありがとうも言わず、そそくさと町の方へと走り去っていってしまった。

 

 今のご時世ああ言う子もいるんだなと、あまり深く考える事なく店の主人は持ち場に戻る。




 2日ぶりのバナナ!私この黒いバナナも好き!


 アロンはバナナを一本取り出す。

 

 熟しすぎて皮を剥いたらバナナがへし折れてしまいそうだった。


 アロンは器用にバナナを剥き食べる。


 あっまー!と頬を綻ばせているところにフードを被った人が近づいて来る。


 「君この辺の子かな?」

 誰この人?とアロンは残りのバナナをいっきに口の中に放り込む。パクッ。


 「全然。カラキザンタ出身よ」


 「そうか、ここからすごく遠い町だね。ところで君、一つ頼まれごとをしてくれないかな?」

 「えっ何?お金くれるの!」


 「まぁ、この手紙をダレアモール王国のノアール王子に渡してくるなら、1万はやろう」


 えっ1万もくれるの!ただ手紙を届けるだけで!アロンはすかさず首を上下に振る。

 「絶対やる!いや、私にやらせて下さい!」


 アロンは久しぶりに敬語を使った。


 


 「あんたら通しなさいよ!」


 「さっきから何度も言ってるだろうが!ここは正式な許可を受けたものしか入れない。いいから帰りなさい」


 アロンがむすっと、門番に難癖をつけようとした時、何故か門番の兵士はいきなり気をつけをした。


 あれ?何事?とアロンは後ろを振り向く。


 するとそこには馬車が止まっており、ちょうどそこから誰かが出て来るところだった。


 出てきた人物はとても顔立ちが整っており、腰には金色の直剣らしきものが下がっていた。


 アロンは直感した。この人がダレアモール王国の王子だと。そして何の躊躇もなくスタスタとその人の所に走って行く。


 途中警戒されたが、王が手で付き人を後ろに下がらさてくれた。


 「ねぇ!あんたがダレアモール王国のアノール?」


 いきなりタメ口タイプかこの子は。と王子はちょっと驚いた。

 「えっあ、そうだけど君は?」


 どうせ星焔の魔女と言ったところで信じてもらえそうにないので、名前に魔女とだけ付けて名乗る。


 「私は魔女のアロン。はいこれ。フードを被った人が私にこれをダレアモール王国のアノール王子に渡して欲しいって頼んできたの」


 フードを被った人?

 王子はその手紙を受け取ると、中身を開ける。


 王子はその手紙の内容を読み終えると、残念そうにため息をつく。手紙をまた元に戻すと王子は小さな声でボソボソと言った。


 「後2週間かー」


 ほとんど聞こえない声で言っていたが、アロンは集中すれば人並み以上には耳が良いので、それが聞こえた。


 アロンは気になり王子に尋ねる。


 「何が後2週間なの?」


 「えっ、いや独り言だよ。あっそれより君、うちに寄っていかないか?せっかくこの手紙をここまで届けてくれたんだ」


 アロンはもちろんその提案に乗り、ルンルンと王様と一緒にダレアモール城に入って行った。




 こんなに食べて良いの!とアロンは目の前に出された料理を美味しそうに食べ始める。


 王子は美味しそうに料理を食べるアロンを見て微笑ましく思った。しかし何故か、胸がドキドキしてしまう。


 この子、ちゃんと見たらすごく可愛い。服装はボロボロだけど。


 そして王子はアロンに恋をした。


 アロンが食事を食べ終えた頃、メイドがテーブルの上を片付け始める。


 アロンは満腹という顔で幸せそうだった。


 しばらくして、王子はアロンを庭園に案内する。

 庭園にはたくさんの花が植えられており、ラベンダーの良い香りが鼻を通り過ぎていく。


 そこには、王子とアロン以外人はいない。

 

 王子は勇気を振りぼる。

 「アロン!僕、君に伝えたい事がある!」

 「何?」

 「そのっ、僕と、結婚してくれないか!」


 アロンはにっこり笑って言う。


 「結婚したら、一生お腹いっぱいご飯食べさせてくれるの!」


 「えっ、まぁ一生はどうかな」

 「はぁ?何でよ。あんたこの王国の王子様でしょ?」


 王子は決心したように言う。

 「実を言うと僕、本当は王子なんかじゃないんだ。名前もノアールじゃない」


 え?この人何言ってんの?って顔でアロンは王子を見続ける。


 「本当の名前は、カイル。カイル・フローランって言うんだ」

 

 「訳あって、ノアール様の代わりに王子をやってて、元はこの城の新米兵士だったんだ。ある日、ノアール様に呼ばれて。君、僕と顔が似てるから1ヶ月くらい王子やってくれないかって頼まれたんだ」


 「じゃあ、あんた今まで偽王子やってたって事!良くばれなかったね。だとしてもそんなんで私と結婚なんて


 カイルは俯く。だよねー、俺となんかと結婚してくれないよね。しかしこんな可愛い子、諦めるわけにはいかない!

 

 「後2週間でアノール様が戻って来られるんだ。そしたら、僕もこの王子生活も終わって庶民に戻る。兵士としての職は失ったけど、その代わりに100万ドルニーもらえる話がついてるんだ」


 100万ドルニー!そんなにあったら一生暮らせんじゃん!とアロンはその提案を即座に呑んだ。


 「えーそうなの!私あなたと結婚する!」


 本当に!おっしゃーとカイルはガッツポーズをとり、頭の中で明るい未来を想像した。


 そうして、アノール王子が戻るまで、アロンは客人としてお城生活を楽しんだのだった。




 「乾杯!」

 カイルとアロンはダレアモール酒場で飲んだくれていた。


 もちろんアロンはバナナジュースだ。


 やっほー!無事カイルはアノール様と密かに交代し、100万ドルニーを受け取った。


 しかし何故か、アノール様が旅の途中で貰ったという何かの卵も渡される。これいらないから君にあげるよと。


 「ねぇー、それ何の卵なの?」

 「うーん、わからないな。結構大きいけど」


 ちょうどその時、いきなり卵に亀裂が入った。


 2人はおー!とそれを見つめる。

 ピキッ、ピキピキ!


 そして卵が割れた。


 中から出てきたのはドラゴンの赤ちゃんだった。


 ドラゴンの赤ちゃんはあくびをする。


 「何この子!ちょー可愛いんですけど!」

 しかしカイルはドラゴンの赤ちゃんを急いで麻袋の中にしまってしまう。


 「ちょっと何してんのよ!可哀想じゃない!」


 「ダメだって、ドラゴンの赤ちゃんなんて珍しすぎて、もし見つかったらどうなるかわからないんだよ」


 「じゃ、そのドラゴンを売れば大金ゲットじゃない!」


 カイルはため息をつく。さっきまでちょー可愛いって言ってたのに。


 とりあえず、2人は急いで会計を済ませて、その場を後にする。


 


 人目がない高原で、再びカイルは麻袋からドラゴンの赤ちゃんを取りだす。


 どうやら寝ていたらしく目を半目で辺りを見回していた。


 「この子どうするの?」


 「うーん、とりあえず僕らで育てようか。大きくならないうちは大人しいはずだし」


 「じゃ名前付けなきゃ!そうねー、バナナ!」

 「えー何でバナナなんだよ」

 「だって黄色いんだもん!バナナ以外ないでしょ」


 するとドラゴンの赤ちゃんはよちよちと立ち上がった。


 「えー見て!バナナ立ったよ!」


 カイルは少し気まずくなる。やめて!何か聞こえ方がまずいから。


 「ねぇー、バナナはやめようよ。もっと良い名前があると思うんだけど」


 アロンがドラゴンの赤ちゃんを抱き上げ、カイルの方を睨み付ける。


 「良いの!もうこの子はバナナで決まったの。ほら!バナナも嬉しいって!よしよし」


 全然嬉しそうに見えないけど。ドラゴンの赤ちゃんはゲホッゲホッとすると、口から火の粉が飛びだす。


 ボッ!

 麻袋にダイレクトにヒット。


 あーー!!お金が!!


 カイルは急いで麻袋の火を消して中を確かめる。


 あ、終わった。全て終わった。


 残りの99万ドルニーは全て炭と化していた。


 「おーい、カイル?聞こえてんの?」


 カイルは膝をついて固まっていた。


 カイルはアロンの方に振り向く。


 「ごめん。お金全部燃えちゃった」


 それを聞きアロンも言葉を失う。どんどん顔が青ざめていく。


 その後はしばらく喧嘩が続いた。


 「何でそんなところに大事なお金入れておくのよ!」


 「しょうがないでしょ、これしか入れるものが無かったんだから!」


 そしてドラゴンの赤ちゃんはあくびをして、また眠りについた。

 



 「ねぇーこれからどうすんの」

 死んだ顔で2人は天を見上げていた。


 カイルはアロンの方を向き控えめな声で言う

 「結婚は・・・」


 「何の話しだっけ?」


 「えーと、あっそうだ。ドラゴンの赤ちゃんを売れば100万ドルニー以上はもらえるよ!」


 「はぁ?バナナは売らないから」


 さっきまでアロンも売ろうって考えてたのに。


 カイルはがっくりと俯く。


 アロンは微笑みながら、寝ているバナナをなでなでする。


 こうしてアロンは、竜のバナナと無職のカイルを引き連れて旅をすることになったのだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。


ぜひ面白いと思った方は、星5をつけてくださると大変うれしいです。


面白くない、改善が必要と思われた方は星1でも構いません。


下のほうにお進みいただけたら☆☆☆☆☆の欄がございます。


今後とも面白い作品を投稿していきます。


最後に気になる、と思った方はブックマークもよろしくお願いします。

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