困ったことに
さて、これからどうしようか。
家はない、かといって行くあてもない。
追い出されたというわけではない、ただ一人暮らすことを決めただけだ。
それでも現実になってみると思った以上に困難しかない。
途方に暮れている時に来ていた上着のポケットをまさぐって、一枚の名刺を見つけた。
そこに書かれていたのはとある場所の住所と名前。
たよるものもなく、そこへと俺は向かうことにした。
向かった場所は大阪府手野市、そこにある立ち入りが禁止された場所のすぐそばにある中洲と呼ばれるところだ。
名刺の場所を確認して、単純な一般民家のようなところに入る。
「あの、すこしお直によろしいでしょうか」
「セールスなら間に合っていますんで、お引き取りを」
少女が一人昔ながらの羽はたきで中においてある品物の誇りを払っているところだった。
カウンター越しに向こう側には男が一人、椅子に座って新聞紙を隅々まで見ている。
「……何か御用で?」
新聞紙を読んでいた男性が俺に向かって声をかける。
目はまだ新聞紙から離さない、それでもなお何かしらの威圧的な感じはひしひしと感じる。
用がないなら帰れ、というのは少女も同じ気持ちのようだ。
「以前、ここの名刺をもらって、困ったことがあるなら助けてやると言われたことが……」
ようやく新聞紙から顔を上げる、ここまできてやっと客人として迎えられたようだ。
「ふむ、椅子とお茶を」
「はーい」
はたきをカウンターの上において、少女はよいしょっとと言いつつ、カウンターの下側にある通用口を通って男の横へ。
そこから、俺にはまだ見えていないドアを通ってどこかへと消えた。
「さて、こちらへどうぞ」
椅子は背もたれも何もない、4つ足の丸椅子だった。
そこに座ると、面接で儲けているかのような居心地の悪さを覚える。
「名刺、と言いましたね。今は持っていますか?」
「ええ、こちらにありますが」
見ても、と彼が言うので俺は持っていた名刺を彼にそのまま渡す。
裏返したり表にしたり、隅々まで何かを確認しているのは間違いない。
「いいでしょう、それでどうされましたか。浮気調査でしょうか、それとも身に覚えのない脅迫でしょうか」
「単純に家がなくなりました」
俺はそうして包み隠さずいろいろなことを話す。
しばらくしてさっきの少女が急須と取っ手がない湯のみを持ってきてくれた。
「どうぞー」
「ああ、ありがとうございます」
言いながら俺は彼からの評定を待っている。
とはいってもここがほぼ最後の頼みの綱ということになっていて、これ以上の策は見当たらない。
「……いいでしょう。あなたが次の場所を見つけるまでの間、ここに住んでもらってもいいでしょう。ただし、条件があります」
「条件とは?」
「ここで働いてもらいます。簡単に言えば私の手伝いをしてほしいということです」
ここが何屋なのかは、これだけ見ても想像がつかない。
でもそれを飲むしか、俺には道はなかった。




