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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
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3-1 人里

千古より生きてきた、不思議な雰囲気をまとう存在。

人々を癒す心優しい医者だが、残忍な殺戮や非道な実験を平気で行う恐ろしい面も持っている。

出自は不明だが、自ら人ならざるものになることを選んだ人間とも、別の世界から来た人物とも言われる。

「あっと、こんな事してる場合じゃないな。姜芽を見つけないと」

龍神は顔を上げた。


霧そのものが今の化け物の産み出したものだったのか、霧はきれいに消えていた。


辺りを見渡すと、ここは荒野のようだった。

そして、東側には集落が見える。

姜芽の姿が見当たらない事から、もう里に行っているのだろうと判断した。




姜芽は、一本の赤い橋の前で待っていた。

「遅かったな」


「悪い悪い。ちょっと、邪魔が入っちまってな」 

姜芽は、返り血を浴びた龍神の姿を見て察したようだった。


「…そうか。まず、行こう」



橋を渡った先は、いかにもな雰囲気の場所だった。

着物を着た人々、人力車、障子貼りの建物。

まさに、時代劇の世界だ。


「ここ、江戸村…とかじゃないよな。なんか、すごい古き良き時代の日本…って感じだが」


「半分正解、だな」


「えっ?」


「ここは紛れもなく日本だ…俺達が昔いたのと同じ次元、同じ時代のな」


「…どういうことだ?」


「この世界は、日本のある山奥にあってな。ずーっと、遥か遠い昔からあり続けてると言われてる。

しかし、二重の結界で守られているために、結界の外…"外の世界"からは見えないし、認識も出来ない。

だが、ある特定の条件を満たす者は、外からこっちに来たり、こっちと外を自由に行き来したりするらしい」


「へえ…あれ、外から来た奴はどうなるんだ?」


「基本的にはこっちに永住だな。一応外に出れなくはないらしいが、時間制限がある上に、外ではここの事を絶対に言いふらしてはならない、という掟がある」


姜芽は、少しばかり捻くれた事を考えた。

「もし、その掟を破って、外でここの事を言ったらどうなるんだ?」


「簡単さ。この世界の番人にとっ捕まって、殺される。

奴は常日頃から外とこことの境目を監視してるからな、すぐバレるさ」


「番人…?」


「ああ、まあ自分では賢者とか名乗ってるがな。

俺に言わせりゃ、見た目の割に歳食ったb…」


ここで、龍神は口を押えた。


「…おっと、こいつは失礼。ここでは言っちゃいけない事、やっちゃいけない事ってのがあるからな」


暗黙のマナーや了解、というやつだろうか。

龍神が、そんなものをはばかるのは珍しい。


「珍しいな、そんなこと言うなんて」


「いやー…なんせ、唐突にどこでもーなドアと同じような事をしてくる方だからな」


「は?」


「要はな、空間の隙間をいじくってどこにでも行ける、最強のワープ能力持ちなんだよ。

たぶん、俺らの事も現在進行系で見てる」


「それで、何か変な動きをしたら姿を現して…って寸法か」


「そういう事な」


恐ろしい奴がいるものだ。

これでは、おちおち行動できない。


「マジか…おっかないな」


「ああ、一回出てきて貰ったほうがこっちとしても助かるんだがな…」


そんな会話をしながら歩いていくと、一人の少年に声をかけられた。


「お兄さんたち、変な格好してるね。

もしかして、外の世界から来た人?」


「ああ、そうだ」


「ならよかった。先生が、お兄さん達に会いたいって言ってたよ」


「先生?」


「そう、僕らの怪我とか病気を治してくれる先生」

龍神は、それでわかったようだった。

「あー、あいつか。どこにいるんだっけ?」


「この先の角を曲がった所の、緑ののれんが出てる建物にいるよ。じゃ、僕は行くね」


「ああ。すまないな」


少年が行ってしまうと、姜芽は龍神に尋ねた。

「先生、って誰だ?」


「ここで唯一の医者さ。戦闘面でも、大層な腕をお持ちの化け…いや、お方だ」

化け物、と言いかけたあたり、そいつも"妖怪"なのだろうか。

大丈夫なのか?と半信半疑になりながらも向かう。



少年の言った建物はすぐに見つかった。

何かの模様が描かれたのれんをくぐると、そこは何かの店のようだった。


「ここだな。おーい」

姜芽が声を張り上げた。



…が、返事はない。


「誰もいないか…?」

と、その時。


「はーい」

奥から、高い声がした。


「はいはい、ちょっと待ってよ」


「誰だ?」

姜芽に答えるように、声の主が姿を表した。

それは、青と赤の独特のカラーリングの服を着ており、青地に赤い十字の入った帽子を被った、銀髪の女だった。


「ごめんなさいね。つい、熱が入り過ぎちゃって」


「いやいや、気にしなくていい」


「…誰だ?」


「私は永琳。この世界の医者よ」


「医者…ねえ」


「人間がいる所には、医者がいるものでしょう?」


「へえ…悪いが、俺たちは患者じゃない。今回の…」

と姜芽が言いかけた所、

「異変に関する情報、でしょう?」


「え?」

意外な発言だった。


「あなた達、外来人でしょ?それで、異変解決のために動いてる所なんでしょう」


「ま、まあそうだな。でも、なんで俺達が事件を解決しようとしてるってわかった…いや、思ったんだ?」


「前に占ってもらったからね」


「占ってもらった?」


「この里には、人間の占い師がいるんだけど…以前、彼女に一つ占ってもらったの。

そうしたら、いずれ二人組の外来人の男がやってきて、異変解決のために奮闘してくれる、って言われたのよ。

同時に、彼らは私の元へ来るとも言われた。

だから、待ってたのよ」


「待ってた…ねえ…」

難しい表情をする姜芽に対して、龍神はいつもと変わらない顔をしていた。


「なら、何か情報があるのか?」


「もちろん。まあ、あまり有用なものではないかもしれないけど…」


「まず話してくれ」


「わかった。まず、ここ半年間、異様な地殻変動が起きてるのは聞いた?」


「らしいな。詳しくは知らんが」


「最近は収まってきたんだけどね、ひと月くらい前までは、土地そのものが大きく移動したり、川や山が消えたり、もしくは逆に突然現れたり、もう訳がわからない事になってたのよ。

幸い、里はさほど影響を受けてないのだけど…それでも、他の所はかなり大きな影響を受けてる。建物が潰された所もあるそうよ」


「そりゃ、異常だな…でも、最近は起きてないんだな?」


「ええ。でもその代わり、あの化け物達が現れるようになった」


「あいつらか…」

ここまでにも何度か見た化け物。

ゾンビのようだが、何か違った。


「私は今、彼らが何者なのか調べてるんだけど、未だ確かな答えにはたどり着いてない。

ただ…現時点では、言える事が二つあるわ」


「それは何だ?」


「一つは、生物としては間違いなく死んでいること」


「だろうな。じゃあ、なんで人を襲うんだ?」


「それがわからないの。そもそも奴らは、人を襲うどころか、立って動く事自体があり得ないのよ。でも、それがなぜか出来ている…」


「あんたとしては、どうお考えなんだ?」


「知能を持たず、本能的に他者を襲っているようだから、何か新種の寄生生物に寄生されたか、あるいは何者かに呪術のようなものをかけられて操られている、と考えているわ」

あの化け物が、かつてノワールで見た化け物と同類かはわからないが、もしそうであるなら、彼女の考えは強ち間違いではないだろう。

かつてノワールで見られたバーサク、セカンドアンデッド、などと呼ばれる化け物は、みなある種のウイルスや細菌に感染した者のなれの果てだったからだ。


「なるほどな。で、2つ目は?」


「それはね、さっきまで普通に生きていた者が、突然変異することがあるということ」


これは意外だった。

ノワールにいた化け物は、あくまでも死人や瀕死の者が変異したものであり、普通に生きている限りは何も起こらない事が多かったからだ。


「そんな事があるのか?」


「ええ。

さっきまで普通に笑ったり泣いたりしていた者が、突然紫の血を吐いて倒れるのよ。そしてそれはすぐに変異して、化け物になって近くの者に襲い掛かる。

しかも、いつ、誰がそうなるかわからない。おかげで、今はみんな一人でいる始末よ。私の所にだって、しばらく誰も来てないわ」


言われてみれば、外で二人以上で歩いている者を見なかった。


「それじゃ、あんたも商売あがったりだろ」


「いえ、正直、むしろありがたいのよ。こうして、あの化け物達について調べる時間が出来るから」


「そっか。てか、今日はあんた一人なのか?」


龍神がそう言うと、彼女は首をかしげた。

「一人…って?」


「いや、あんたはいっつも助手を連れてるって聞いたんだが」


「…なんの話?私に助手なんていないんだけど」


「え?じゃ、あんた今まで一人でやってきたのか?」


「ええ。私には肉親も友達もいない。ここ数千万年間、ずっと一人でやってきたわよ?」


「…?」

今度は龍神が首をかしげた。


「おかしいな。外で聞いた話だと、あんたにはお友達とかご主人様とかペットとかいたはずだ。

それに、あんたは千万単位じゃ効かないくらいの年月を生きてたはずだが」


「…あなた、一体どうやって私達の事を?」


龍神は、口をつぐんだ。


「申し訳ないが、それは言えない。

ただ、良からぬ方法ではないとだけ言っておく」


「ふーん…。

まず、私はあなた達を疑ってはいない。

あなた達は、私達に味方してくれるのでしょう?」


「ああ、それだけは確かだ」


「なら、ここから大通りに出て、南に行くといいわ。

私が占ってもらった占い師がいるはず」


「占い師…か。何かヒントをくれるかもな」


「わかった。ありがとうな」




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