5-1 呪われた館へ
最初はあおいがムチを振るった。
向こうの鎌を弾き飛ばそうという魂胆だったのだろうが、その目論みは失敗した。
ただ、手を痛めつけることには成功した。
「…地獄でも見たことない武器だ。けど、今ので何となく使い方はわかったよ」
何か仕掛けてくる前に、凛は斬りかかった。
攻撃が通り、ガードしてきた腕を切って血を流させた。 ノワールの死神とは異なり、肉体を伴う実体があるようだ。
「っ…ちょっと痛いね」
女はそう言いつつ、距離を取った。
「そんならこっちも見せてやるか。[ヘルズラック]」
空中に、水平に5本の刃が現れ、回転しながら一斉に飛んできた。
あおいは結界を張り、凛は剣を振るって撃ち落とす。
攻撃を防がれるとすぐ、追撃してきた。
「[スカルマーモ]」
真っ黒い、頭蓋骨のようにも見える球体を複数生成し、これまた一斉に飛ばしてきた。
今度のは剣では防げないと判断し、あおいと同じように結界を張って防いだ。
「[光霊剣]」
剣を構えてその場で一回転し、光の力と霊力を込めた攻撃を放つ。
光に弱いのか、それとも霊力に弱いのか、死神は大きなダメージを受けたようだった。
「[アーサーの刻印]」
バックした女の体に霊力の紋章を刻み、叩き割るように剣を振り下ろす。
すると、女はもうほぼ瀕死の状態となった。
「…」
「なに?まだやる気なの?」
「…あ、あたしは…死神だ。こんな…こんなこと…で…魂を…逃がすなんて…!」
「やっぱり死神なのね」
凛は剣を納めた。
向こうが驚いている間に手を伸ばし、死神の全身を白い球体に封じた。
「悪いけど、死神なら私の敵。たとえ襲ってこなかったとしても、いずれはこうしてた」
そして、詠唱する。
「奥義 [霊界還元・邪封珠破]」
球体に亀裂が入り、中の死神ごと砕け散った。
あたりにはバラバラになった死神の手首や顔、足などが散乱したが、血は一滴も出ていない。
これが、凛達霊騎士の技…死神や怨霊の類いの存在を、確実に殺す技だ。
「これで、いいわよね?」
「ええ。…先を急ぎましょう」
川を飛び越えてしばらく進むと、やがて豊かな緑の広がる草原が見えてきた。
その草からは、確かに生命を感じた。
そのまま進んでいくと、青い空に緑の草原が広がる場所に出た。
左手には、大きな湖も見える…水は血のように赤いが。
入ってきた時とは違う所に出たようだが、とにかく現世に戻ってこられたようだ。
「帰ってこられたわね」
「ええ。凛さんのおかげね」
「けど、これからどうすればいいのかしら…」
「そうねえ…あっ」
あおいは、遠くに見える赤い屋敷を指差した。
「あそこに行ってみましょ。どうせヒントも何もないんだし、行くだけ…ね?」
「確かに、ここで考えあぐねてても始まらない。何か情報があるかもしれないし、行ってみましょうか」
館に向かう道中で、数体の化け物がいた。
別に嬉しいわけではないが、少しばかり懐かしい気持ちになった。
そうして、館の門の前までやってきたのだが…
「あれ?なんかおかしいわね」
あおいが首をかしげる。
門は中途半端に開いており、館自体の入口の扉も開いている。
その上、門の向こうに何かいる…フォルムは人型だが、全身が黒っぽい赤色をしており、体の割に不自然なほど大きな頭を左右にふらふらと動かしている。
そして、体には破れた緑色の服らしきものがわずかに付着している。
「何あれ…」
「あおいさんも知らないの?」
「知らないわよ。あんなの見たことない。大方、変異した化け物でしょうけど」
「そうなの。…確かに、そうっぽいわね」
幸い、まだこちらには気づいていないように見える。
凛は左の手のひらを化け物に向け、魔弾を撃ち出した。
化け物は入口の扉まで吹き飛び、気持ちの悪い動きで起き上がった。
そして異様に小さな4つの目でこちらを捉えると、目とは逆に異様に大きな口を開けて咆哮を上げた。
あおいがその口に鉄球を撃ち込み、ムチを大きく振り上げる。
バシンという音と共に、化け物は後ろ向きに倒れる。
しかし、すぐに起き上がった。
化け物は両手を伸ばしてきた。
元々人間のものより短かったが、なんとゴムのように長く伸びて2人を掴もうとしてきた。
凛はその手を斬ったのだが、斬り落とした手がウネウネと動いて足にからみついてきた。
それを引き剥がそうとしているうちに、化け物は目を閉じて紫の液体を水鉄砲のように飛ばしてきた。
冥界の時と同じく、避けたほうがいい。そう判断した凛は、手を引き剥がすのを一旦やめて左に軽く飛んだ。
液体は門にかかったが、門を溶かすことはなかった。
そして、化け物は体を大きくのけぞらせ、口に挟まった鉄球を勢いよく吐き出した。
凛がそれを避ける前に、あおいが結界を張って防いだ。
ところで、手はまだしつこくからみついてくる。
頭にきた凛は、全身から霊力を放って手を吹き飛ばした。
すると手は動かなくなり、蒸発して消えた。
「霊力に弱いのかしら…?」
「かもね。試してみて!」
あおいは囮になると宣言し、化け物の毒液を躱しつつ横に回って近づく。
近づいてきたことを感じた化け物は口を開け、再生した手を伸ばしてあおいを掴もうとする。しかし、あおいはムチを地面に叩きつけ、その先端を支点にして空中で逆立ちして回避した。
その隙に、凛は霊力の波動を放つ。
波動を受けた化け物は、突風にあおられたかのように転がっていき、壁にぶつかると溶けて赤黒い液体となった。
「やっぱり、霊力に弱かったのね」
「そうみたい。さあ、入口は開いてるし、突入しましょう!」




