4-4 生命食むもの
千古の時代に生きていた、平凡なる人間のなれの果て。
とある桜の木の下で絶命したが、多くの未練故死にきれず、命を食らう亡霊となり、死をもたらす能力と広い住処、そして狭い世界を与えられた。
夜になると現世を出歩くが、生者に見られることを嫌い、自身の姿を見た者の命を抜き取って食らう。
危険な存在であり、暗闇で淡く光る姿に恐怖を感じる者もいる一方、どこか美しさを感じる者も少なくない。
奥にさらなる扉があった。
鍵はかかっておらず、すんなり開いた。
扉の先は和室となっていた。
そして、その中央に誰かが立っている。フォルムからすると、おそらく若い女だ。
全体的に水色の薄い服を着込んでいるが、髪など一部はピンク色の箇所もある。
その全身はほんのり光っていたのだが、その光り方に、凛はかすかに不気味さを感じた。
しかし同時に、その後ろ姿は凛とした美しさもあった。
「ああ、いたいた。…でもこの感じだと、たぶん…」
あおいの言った通り、と答えるかのように、それは変異を始めた。
まるで「中で何かが動いている」かのように背中の一部が蠢き、全体的に盛り上がる。
やがてそれは破裂し、中から赤く長いものが伸び上がる。
同時に頭も弾け飛び、異形の肉体が生えるように現れる。
さらに服や頭巾が全て破れ、全身がみるみるうちに巨大化していく。
かくして、女は数秒で変異を終えた。
ゆっくりと振り向いたその顔は3つ縦に並んだ紫の目だけを持つという、奇妙なものだった。
そしてその全容は、背中から触手が数本生えた二足歩行の怪物とでも言うべきものだった。
「…!」
化け物はすぐに凛に向かって腕を振るってきた。
しかし指…というか手の先端に爪などはなく、薄い紫色をの光の球を複数飛ばしてきた。
本能的に「あれに当たれば傷を負う」と直感した凛は、ジャンプしてかわしつつ斬撃を放った。
斬撃は化け物の胸部に命中し、血が迸る。
しかし、怯む様子はない。
かと思えば、右腕も続けて振るってきた。こちらは光の球ではなく、濁った茶色の液体を飛ばしてくる。
あおいはそれを避けたが、液体が当たった地面が音を立てて溶けていたことから、先ほどの変異した妖夢と同じような性質を持った毒液であると判断した。
しかも、今度はしっかり自分から吹きかけてくるため、より危険性が高い。
両腕を振るったところで反撃…と思ったら、背中の触手が一斉に伸び上がってから勢いよく落下してきた。
それも一気に全部がまとまってくるのではなく、数本ごとのまとまりとなって数回に渡って振り下ろしてくる。
そして、全ての触手が地面につくと、それらを全て中央にまとめてもう一度振り上げ、凛かあおいの頭上から叩きつけてくるのだ。
凛は剣でガード…いわゆる「パリイ」を試みたが、意外にも攻撃が重く防ぎきれなかった。さらに、触手による攻撃と同時に両方の腕から光球と毒液が飛んできた。
幸いすぐに防御を外して回避に移ったため、腕による攻撃は食らわなかったが、危なかった。
触手をまとめて切り裂こうかとも思ったが、そうするとまた毒液が出てくるかもしれないので気持ちを抑えた。
ひとまず触手が背中に戻るのを確認し、そこから攻撃に移ろうとするが、間髪入れずに腕の攻撃が来た。
しかも今度は球や毒液をかけてくるのではなく、シンプルに腕で薙ぎ払ってきた。
右腕の攻撃をかわしたが、腕が結構太い…と思っていたら、左腕に当たってしまった。右腕と同時に、左腕を高めの位置で振るってきていたのだ。
そして、行動を中断させられたところを狙ってまた触手が伸びてくる。
「スキがないわね…!」
あおいが呟いた。
「あの触手を切りたいけど、腕で防がれそうだし、また毒液が出てきそうなのよね…」
「そうね…何とか、いい方法ないかしら…」
そう言っている間にも、攻撃は飛んでくる。
腕を振るう、または球と毒液を飛ばしてから触手で叩きつけ…と行動はパターン化されているが、図体が大きい割に動きが素早く、また頭部や触手の根本までも高さがあるためどうにも攻めにくい。
それに、仮にジャンプして攻撃したとしても腕でガードされるだろう。
「動きはローテだから、そこを何とか突きたいけど…」
あおいはそう言って考え、やがてはっと閃いた。
「そうだ!」
「何か、思いついたの?」
「凛さん!次の叩きつけを避けたら、股の下を通って後ろに回りましょう!」
あおいがそう言っている間に、化け物は触手攻撃をしてきた。
凛はそれをかわし、言われた通り股下に飛び込んだ。
すると、突然予想外の行動をされたことに驚いたのか、化け物は後ろを振り返って、一瞬動きを止めた。
そこを見逃さず、凛は急上昇して切り上げを放った。
返り血がかかって服が一部溶けたが、体は無傷だ。
さらに、すかさずあおいも攻撃する。彼女の蹴りは、化け物の後頭部…すなわち触手の根本に命中した。
化け物はそこを押さえて呻いたが、血は出ていない。
「もしかして…!」
何かを思ったのか、あおいは鞭を振るって化け物の頭頂部に攻撃を仕掛けた。
やはり化け物はうめき声をあげたが、それを見てあおいは確信を持ったようだった。
「やっぱり、そうだ!」
「なに…何かわかったの!?」
「こいつの体液には毒がある、でも体術…というか打撃なら、血を出させずに攻撃できる!」
「…!」
あおいは鞭を振り上げ、「縛り上げ」の技を放って化け物の触手と両腕を頭と一緒に縛り上げた。
そして、触手の根本に向かって体術を繰り出した。
「[ウルフブレイク]!」
魔力をまとい、腕を目の前で交差させて体当たりをかます。
さらに、凛も同様に体術で続いた。
「[彗星蹴り]!」
高く飛び上がり、斜めに急降下して蹴りを入れる。
凛は体が細く、腕力はそこまででもないが、身体能力はかなり高いため、体術の威力はあおいほどではないにしても割と高い。
そして、化け物がひときわ大きな唸り声を上げたところで、あおいがフィニッシュブローとばかりに技を決める。
「[払技・剛双龍]」
鞭による強力な薙ぎ払いで、弱点であろう触手の根本と後頭部を攻める。
これが決め手となり、化け物は低い唸り声をあげて倒れた。
そしてその死体は溶けるように崩れ落ち、消滅した。
「倒した…けど、結局何も得られなかったわね」
「いや、そんなことないと思うけど?」
あおいは、化け物の消えた所に落ちていた何かを拾い上げた。
「なにそれ?」
「形代ね。この世界では珍しくもないアイテムだけど…ちょっと持ってみて」
「…?」
言われるがまま受け取った直後、凛は何かを感じ取った。
「これって…」
「そう。これには、何かの記憶が宿ってる…あたしには、目に見える形にすることは出来ないけどね」
「…宿っているのは、霊力ね。顕現してみましょうか」
凛は形代に力を込め、眠っている記憶を呼び覚ませないか試してみた。
しかし、何も浮かび上がることはなかった。
「だめね。理由はわからないけど…私では、これに宿ってる記憶を読み取れない」
「そっか…でも、たぶんこれにはここで何があったのかの記憶が宿ってるんだと思う。とりあえず持っていきましょう。今はわからなくても、いつかわかるかもしれないし」
「そうね。…いずれにせよ、もうこの世界に得られるものはなさそうだわ。現世に戻りましょう」
「それが良さそうね。いつまでもこんな狭っ苦しい死人の世界にいたくないし」
そうして、ふたりは屋敷を後にした。
あおい「もういっそ明言しとくわ。
これからは、毎週金曜日か土曜日の朝更新になります。先週に引き続き更新が1日遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
凛「どうしてこうなるの?」
あおい「他にも書いてる作品があるからね…まあ言い訳でしかないんだけど」




