4-3 化物剣士
向こうは剣を斜めに構え、辺りに魂を浮かべて回転させた後に斬りかかってきた。
その速さはまさしく神速と呼ぶにふさわしいものだった。
凛はそれを剣で受け止めつつ半歩下がり、左足を軸に回転しつつ斬った。
向こうは素早く飛び上がり、白い球体を剣に集めて斬撃として飛ばしてきた。
それもまた速度が速かったが、斬撃系の攻撃を受け流す「刃返し」の技を使って回避した。
「[精霊武斬]」
剣を振り上げ、古の騎士の精霊を召喚しつつ振り下ろす技を繰り出す。生身の人間に当たれば即死する技だが、女は血は流せど倒れなかった。
向こうが硬直している間に「白光剣」を繰り出す。
これは光の力を集め、剣を振るうと同時に飛ばす遠距離系の技で、その名の通り光属性を持つ。
今度は、避けられなかった。先ほどの「零下閃」の影響で移動速度が低下していたようで、それが幸いだったか。
再び飛んできた斬撃を避け、「ローリングソード」を放つ。
その場で低く浮遊し、数回縦に回転してから攻撃するこの技は、使用者の技量に応じて威力が上昇する「熟練技」と呼ばれるカテゴリーの技で、凛が扱えば高い威力となる。
回転をつけてからの直接攻撃。
それはおびただしい血を噴き出させ、さながら斬首の瞬間を捉えたかのように残酷な光景となった。
「…」
女は倒れ、動かなくなった。
「これでいいかしら」
「いや、まだよ!」
あおいの声と同時に、女は立ち上がってきた。
腹と胸が大きく裂け、血まみれになっているが、その足取りはふらついてすらいない。
まるで機械のように、こちらを睨んで剣を構える。
「なっ…!これだけやって、何ともないなんて…!」
「そりゃ、こいつはどんなに痛めつけても死なないからね!」
「えっ…!?」
凛が驚いていると、あおいはムチを振るって女をきつく縛り上げた。
女は声にならない声を上げる。
そして、その体から白く、これまでよりも大きめの魂が抜け出してきた。
「凛さん!これを斬って!」
言われるがまま、凛は剣を振るった。
するとわたあめを斬ったようなふんわりした感触が走り、魂は真っ二つになって消えた。
女は目を見開き、叫ぶように口を大きく開けて動かなくなった。
「オーケー!」
あおいは女の拘束を解いた。
「これでよかったの…?」
「仕方ないわ、必要経費よ」
「必要経費…?」
「ええ。どうせ、まともに話したって効率良くないしね」
と、何やらミシミシという音が聞こえた。
その音は、女の方からだった。
振り向くと、女の背中がボコボコと盛り上がっていた。それが何を意味するか、すぐにわかった。
「来た来た…!」
2人が身構えた直後、女は変異を始めた。
背中を突き破り、何かが生えてきた。
赤黒く、人の手にも似た形をしたそれは、まるで死体から生えるキノコのようでもあった。
そして、それはたちまち大きく伸び上がっていき、巨大な植物のようになった。
その上部は、花が咲いたかのように膨れた肉塊となっていた。
「あらまあ、何ともグロテスクな櫻ねえ。こんなの、おじいちゃんにもご主人様にも見せらんないわ」
あおいはそう言いつつ、鞭を振るった。
肉塊の中から伸びる6本の触手をまとめて打ち払うと、側面から別の触手が生えて襲ってきた。
あおいは上体を動かしてそれを回避する。
凛には、その動きがさながら剣を振るう騎士のそれのように見えた。
反射的に「刃返し」を使って攻撃を防ぎ、カウンターを決めて1本の触手の先端を切り落とした。すると、その切り口から紫色の液体が噴き出した。
その液体は凛の髪にかかり、青緑のそれの一部を黒く変色させて溶かした。
「髪が…!」
「毒液みたいな感じになってるのね…なら一応気をつけましょ!」
凛は術を唱え、体を薄い結界で包んだ。こうすれば、液体やガスによる攻撃を防ぐことができる。
「あの塊が怪しいわね…」
剣を構え、高速で飛び上がって肉塊を斬りつける。直接やると毒液がかかるため、少し離れて斬撃を飛ばして攻撃するという形だが。
「凛さん、そのまま行って…あっ!」
あおいは吹き飛ばされた。
触手で突かれたその胸は、凛の髪のように服の一部が黒くなって溶けていた。
「っ…なんか、硫酸浴びてるみたい…!」
硫酸なんて浴びたことがあるのか。まああおいは殺人鬼で、あらゆる拷問器具や劇薬を扱った経験があるだろうから、不思議はないが。
と、気を取られている間に本体の攻撃を受けた。
両手と両足に触手が巻き付いて動きを封じられ、本体の一部が開いて内部が露呈した。
それは、紫色の血管が通ったピンク色の蠢く肉壁…という気持ちの悪いものだった。
「…っ!!」
凛は全身から霊気を放ち、収束させて魔弾のように撃った。それは見事肉壁に命中し、そのまま相手を怯ませることに成功した。
その隙に、触手を振りほどいて離れた。
凛が離れたのを察知したのか、化け物の肉塊の開いていた部分は閉じられた。
「あの中が弱点なのかしら」
「そうっぽいわね。それなら…」
あおいは、化け物の頭上に大きな尖った岩を作り出してまっすぐに落とした。
すると、化け物はおびただしい血と毒液の入り混じった液体を噴き出し、うなり声を上げながら崩れ落ちた。
「…あれ?今のでもう終わり?」
「なんか拍子抜けしちゃった。でも、倒せたならいいわよね」
「そうね。あとは、あの大食らい様とお話しなきゃ」
あおい「しれっと一日遅れたわね」
凛「ごめんなさい。でもね、言い訳させてもらえば、続きを考えるのも大変なのよ」
あおい「それは仕方ないわよ。でもまあ、この話が完結したあとの第二部の構想はもうあるらしいけどね」
凛「そうなの?」
あおい「ええ。あたし達とはまた違ったオリキャラが主人公になるらしいわ。あとなんか、旧作の連中も出てくるって聞いたわよ」
凛「なに、旧作って…」
あおい「わかる奴にはわかる話よ。今までの話よりもっとエグくなるみたいだから、一応注意ね。まあまだ先の話なんだけど」
凛「というか、そんなの考える暇あるんなら今のストーリーを考えなさいよ」
あおい「それが出来れば苦労しないのよ」




