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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
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2-1 遭遇

奇妙な収集癖を持ち、森の奥でひっそりと暮らす、感情を表に出さない男。

それは人間と妖怪の混血であり、幾千の時を生きてきた。



男勝りな性格と口調を持つ、手癖の悪い魔女。

その正体はある伝説の魔女に拾われ、育てられた人間。

良き師匠を持ったが、第二の伝説にはなれなかったようだ。



あれから数時間。

二人は、とある森に来ていた。

といっても、龍神が具体的な理由も何も説明せずに姜芽を引っ張って来たのだが。


「なあ…ここに何かあるのか?」


「何かある、ってほどじゃないが…

ただ、何だ。せっかく幻想入りしたんだし、お友達に挨拶しておきたくてな」


「お友達?」


「ああ。『普通』の魔法使いさんだ。確か霊夢の仲良しさんだと思ったんだが…」


「なあ、さっきから思ってたんだけど、なんでここの事をそんなに知ってるんだ?」


すると龍神は、そうだな…とつぶやき、

「強いて言えば、いろんなジャンルのゲームをやってたから、か?」

と言った。


「は?」


「ほら、お喋りは後だ。さっさと行くぞ」


龍神の言葉の意味が気になる。

確かに、人間界にいた時の龍神はゲーム好きで、いろんなジャンルをやっていた。

しかし、その多くは姜芽が好きなものと被っていた。


龍神が知っていて姜芽が知らないゲーム、ということだろうか。

なら、わかるわけがない。





しばらく進むと、突然木々の間から妙なものが飛び出してきた。

フォルムは人間のようだが、体のあちこちが傷ついており、一部の箇所は腐敗している。

しかも、目の焦点があっておらず、唸るのみで言葉を喋らない。


普通の者が見れば驚き混乱するだろうが、彼らは違う。

「はっ!」

即座に反応し、姜芽が頭を斧で叩き割る。

そして、倒れた所を龍神が刀で追撃する。


「これは…」


「妖怪ベースの化け物か。

まさか、ここでも異常区画が起きてるとはな」

異常区画とは姜芽たちの世界の言葉で、何らかの理由で他者を襲って仲間を増やすゾンビのような存在が大量に発生し、その増殖を制御出来ない状況が生まれており、一般の人々の脅威になる、という事象を指す。

ただし、実際には生体兵器が原因であることが多いため、バイオテロと呼ぶこともある。


「異常区画…って、なんで断言できるんだ?」


「見てわかんないか?こいつはノワールの異常区画にいた化け物とそっくりだ。

俺の知る限り、東方の世界にこんなものはいない。

てことは、この世界は既にノワールの者の干渉を受けて影響が出ている…と考えるのが筋だろう」


姜芽達の世界…すなわちノワール界では、これまでに幾度も異常区画が起きた。

それらの原因となった病原体は各自で異なったが、いずれの場所でも大量のゾンビのような化け物が跋扈し、強大でおぞましい異形の化け物が現れた。

龍神は何度もそんな場所をくぐり抜けてきた。

姜芽も、一度だけだが遭遇したことがある。

あの時は、生きた心地がしなかった。

馴染みのある町中にいながら、いつ自分や仲間が死ぬかわからない、もしやられたら仲間でも殺さねばならない…。

そんな、おぞましい経験を数年前にしたのだ。


「…そうか。

だとしたら、早く何とかしないとな」


「ああ。元凶は恐らく凛央だろうが、たどり着くまでが苦労だろうな」

凛央はかつてノワールで何度も異常区画…もといバイオテロを発生させた「ルナスク」という製薬企業の幹部で、姜芽達とも何度も衝突した。

だから、始めから怪しいと(うたぐ)っていたのだ。


「始まってから、どのくらい経ってるんだろうな」


「それはわからない。まだあまり経ってないとは思うが…。

まず、あいつの安否を確認するためにも急ごう」


どんどん森の奥へと進んでいく。

初めてくる所なのに、龍神は道がわかるのだろうか。



その途中、またしても化け物が現れた。

それは、姜芽が首を撥ねて仕留めた。

そして…




「ありゃ、ここは」

龍神が拍子抜けな声を出す。


「なんだ、道間違えたのか?」

そこは、ある小さな建物の前だった。

外に様々な物が無造作に置かれており、骨董屋のようにも思える。


「いや、間違えた…のか…?まあいい」

龍神は、建物の扉を開いて入った。




ガラクタとも思える物が所狭しと並んだ部屋。

その奥で、一人本を読む金髪の男がいた。

「…客か?」


「まあそんなとこだ」

彼は、眼鏡越しに二人を見、そしてにわかに驚いた。


「…ん?なんだ、外来人か?」


「ご名答。俺は龍神、こっちが姜芽。

あんたは相変わらずだな、香琳さんよ」

香琳と呼ばれたその男は、龍神を鋭い目で見た。


「…なぜ僕の名を知っている?」


「あんたがモノを集めているのと同じような理由だ」

男は、納得したのか呆れたのか、ため息をついた。


「そうか。ならば何のためここに来たんだ?」


「あんたの顔を見るため、あと例の魔女さんに会うため、かな」


「へえ。ならあいにくだが、今彼女はここにはいない」


「ほう。じゃ、ちょっと話をさせてくれないか?」


「別にいいが…」

龍神は適当な椅子に腰掛けた。

姜芽は…座っていいかわからないので立ったまま。


「じゃ、何から話そうか…」


ここで、すかさず姜芽が食い込む。

「なあ、結局こいつは誰なんだ?」


「ああ、こいつは…まあ香琳って呼べばオッケーだ。

変な物を集める癖がある男で、人間と妖怪の混血だったと思ったな」

相変わらずストレートな言い方だな、と思った。


「まあ、そうだな。僕はそんな所だ。

で、君たちは外から来たんだな?」


「ああ。あ、姜芽、ここでは別の世界の事を外の世界って言うからな?」


「わかった。色々聞きたい事はあるんだが、まず妖怪ってのはなんだ?」


「この世界にいる、恐怖の塊の化け物…ま、要はノワールで言う所の異形みたいなもんだ。

この世界には、異人みたいな感じで色んな種族がいてな。妖怪はその中の一種だよ」


「へえ。で、この男はそれと人間のハーフと?」


「そうだ。僕はこの世界でも数少ない半人半妖だ。

寿命も身体能力も人間より遥かに優れている」


「そうか…」

と、ここで店の入口が開いた。


「おーい、香琳ー」


「ん、来たな…」

その様子を見て、龍神は何やら喜んだ。

「おっ、お出ましだな」


「なあ香琳、また森に例の…

って、誰だお前ら」


それは黒い帽子とスカートに身を包んだ金髪の魔女だった。

「おお、普通の魔法使いさんじゃあないか。お会いできて光栄だぜ」


「な、なんだお前…気持ち悪いな」

ここで姜芽がフォローに入る。

「あ、ごめんな。俺は姜芽、こいつは龍神。

俺等は…まあ、外の世界?から来たんだ」


「へえ、そうか外来人か。私は魔理沙ってんだ。

…ま、知ってるかも知れないけどな」


「ああ知ってるよ。霊夢のお友達だもんな」


「そ、そうだな…まったく、なんで知ってるんだよ…」


「詳しくは知らないが、趣味で僕らの事を調べてるんだそうだ」

香琳が言った。


「うわっ、何だよそれ…」


姜芽は問いを投げかける。

「なあ、あんたは今回の事件に関して何か知ってる事はないか?」


「無いな。せいぜい化け物が出てることくらいだな」


「化け物?」


「ここに来るまでに見なかったか?体中が傷ついて腐ったような化け物だ。ある時突然、人間や妖怪があんな姿になる。そして、まわりの奴を襲うようになるんだ」


「襲われた奴はどうなるんだ?」

薄々わかってはいるが、一応聞いてみた。

「襲われた奴は、死んだか死んでないかに関係なく、しばらく時間が経った後に同じ化け物になる。

だから、化け物の増殖を防ぐには殺すしかないんだ」


やはりそうか。

ノワールの異常区画と同じパターンだ。

「…辛くないか?」


「辛いぜ。でも、仕方ないんだ。やらなきゃ私達がやられるんだからな」


「それでいい。変な優しさは命取りになるからな」


「…なんだ、お前らこんな経験あるのか?」


「ああ。俺達のいた世界でも、似たような事が何度か起こったからな」


「そうか。

じゃ、今回の異変はお前らの世界の奴が元凶なのか?」


「恐らくは」

姜芽も龍神も、それはまず間違いないと思っていた。


「じゃ、解決はある程度任せていいのか?」


「基本的にはそうだ…な。ただ、感染を…化け物の増殖を防ぐにはみんなの協力が必要だ。里だっけ?人間が集まってる所の守りなんかはそっちでやって欲しい。

この世界を消したくはないからな」


「どういうことだ?」


「俺達のいた世界でこういう状況になった所は、もれなく最終的に消滅してるんだ」

それを聞いた二人の顔は、姜芽達には見覚えがあるものだった。


「ただ、今はヤツがどこにいるかわからん。情報集めがしたい」


「なら、人里に行くといいぜ。あそこなら、話を聞けそうな奴がいっぱいいる」


「あー、あそこな。確かにそうだな。あれ、ここからどの方角だ?」


「東だよ東。ずっと東に行けばあるぜ」


「わかった。姜芽、行こう」







 


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