2-5 分析
「…」
扉の向こうには、両手両足を縄で壁や柱にくくりつけられた、5体の生きた化け物がいた。
しかもその中には…
「…!?」
「あれ、阿求?なんでここに…?」
凛たちが殺したはずの人間だったものもいた。
「彼女を知ってるの?」
「ええ、街で最初に会った人だから…」
「そう…でも見ての通り、彼女はもう人間じゃない」
他の化け物同様に紫の瞳をぎらつかせ、咆哮とも唸りともとれる声を上げて、両手を縛る縄を引きちぎらんばかりに引っ張って暴れ、凛達に食らいつこうとしている。
こうなるともう、目の前のこれは人間ではないのだと認識せざるを得ない。
「どうして、こんな事を…?」
凛は、若干声を震わせて聞いた。
「もちろん、研究のためよ」
「研究?」
「この化け物たちはさっきも言った通り、1ヶ月くらい前から現れるようになったの。最初はその行動パターンからしてゾンビの亜種のようなものだと考えたのだけど、それは少し違った」
ゾンビのようなもの、というのは凛達も考えた事だった。
「じゃ、何だって言うの?」
「彼らは、生物としては間違いなく死んでいる。そして、呪いや魔法の類いで動いているわけではない。こんなこと初めてよ。…それはさておき、私は彼らがなぜ動いているのかを探るため、ここで彼らを調べていたの」
「それで、何かわかったの?」
「ええ。彼らを動かしているのは、ある種の未知のウイルス。変異した者を数人集めて脳を調べてみたら、全員から見たことのないウイルスが見つかった。彼らはそのウイルスに操られているに過ぎないのよ」
「人間を生きた人形に変えるウイルス…って訳か。
どっかで聞いたような話ね」
「あなた達なら信じてくれると思うんだけど、このウイルスはいろいろとおかしいのよ…自然発生したものとしてはね」
最後の一文は、妙に重々しく感じられた。
「…それはつまり」
「何者かが新種のウイルスを作り、ばらまいた可能性がある。何より、これが自然発生したものでない決定的な証拠を私は掴んでいるわ」
「それは一体…」
「3ヶ月くらい前に、狂犬病に似た症状を示し、人間には感染せず妖怪などにばかり感染する新種の病気が流行したんだけど、私はそれを狂妖病と名付け、里の者にも協力してもらって対策·治療を急いだ。その結果、1ヶ月程度で撲滅する事が出来た。
今回のウイルスは、その時のウイルスと同じ遺伝子を持ってるのよ…全く別の、これまた未知のウイルスの遺伝子と半分ずつね」
「2つのウイルスが融合した、ってこと?
そんなこと、起こりうるの?」
「無くはないけど、そうそう起こる事じゃない。
こうも新しいウイルスが連続で生まれるのは、この世界の自然ではあり得ない。あり得るとしたら…」
「人為的に作成されたウイルス、って訳ね。
としたら、私達と同じ世界の者が関わっている可能性があるわね」
「え?」
今度は永琳が凛に聞いた。
「私達のいた世界では、特定のウイルスを改造したり、複数種類を混ぜたりして新しいウイルスを作る、ってことを行っていた組織があったの。
だから、もしかしたら…」
「ウイルスを改良していたということ?でも、その行為自体はダメではないと思うのだけど」
「奴らがウイルスを弄ってたのは、善行のためなんかじゃない。生き物を生体兵器…異形の化け物に変えて、戦争をしている地域なんかに売りさばくためよ。
奴らの中には、故意にウイルスを漏洩させて一つの国を地獄に変えた末、滅ぼした奴もいるらしいわ」
「…恐ろしい話ね」
「あいつらもその類いなら、対策は一つ。感染した奴らを片っ端から殺して、未感染の奴を守ってやること。…そうそう。あいにくだけど、奴らを助けるなんてことは難しいと思うわよ」
「そんなの、わかってる。彼らは一度生物として死んでいるのだから、生き返るはずがない。…わかった、私も外で彼らを見かけたら、さっきのように何も思わずに殺す。それでいいでしょう?」
「まあ、そうなるわね…」
「あんたにすりゃ、慣れたもんでしょ?あんたは医者だけど、同時にイカれた殺人者でもある。今更、何かを感じることはないわ」
「…よく知ってること」
医者でありながら、殺人者であるとは。
矛盾しているように思えるが、なぜだか疑う気にはなれなかった。
「しかし、それを踏まえて考えると尚更警戒が必要ね。人間たちに、感染者に近づかないように言っておきましょう。あと、まともな魔法使いや妖怪には、感染者を見つけ次第排除するように通達するわ」
「それがいいでしょうね。まともな奴がどれだけいるのか知らないけど、この世界まで化け物だらけになるのはごめんだからね」
あおいの台詞には、珍しく純粋な願いが込められていた。
「お医者様ー!いませんかー!」
入り口の方から声が飛んできた。
「あら、患者だわ。
ごめんなさい、ちょっと行ってくるわね」
永琳はそう言って出ていった。
「はあ…」
凛は座椅子に腰かけ、ため息をついた。
「どうしたのよ?」
「姜芽達、本当にどこに行ったのかしら…」
「心配しなくても大丈夫でしょ。どこかにはいるらしいし、それに…仮にうちらが見つけれなくても、あいつらはどんな状況からでも帰ってくる。それはよーくわかってるでしょ?」
「そう…それもそうね。あの二人なら、きっと大丈夫だわ」
ちょうど話が一段落ついた時、彼女が戻ってきた。
「悪いけど、ちょっと往診に行ってくるわ。
傷を負っているなら、そこの箱の中身を自由に使っていいから。それじゃあね」
そう言い残し、彼女は出掛けていった。
薬を使って軽い手当てをした。
「うちらももうここに用はないし、行きましょうか」
「そうね、そうしましょう」
という訳で、二人は外に出た。




