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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
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1-3 異変

世界を覆う結界の守り人。

先祖代々続くその銘と力は、この世界で最も強大で崇高なものの一つとされる。

古の時代より続く系譜を継ぐ者。

それは世界の守り手であり、物語の中心となる人物だった。

(どこだここは…?)


視界が真っ暗で、。体が動かない。

すぐに、自分が瓦礫に埋もれているのだと気づいた。


(触った感じだと…木材か?)

このくらいなら、吹き飛ばせそうだ。


姜芽は人間ではなく、異人だ。

異人は人間の数十〜数百倍の身体能力を有している。

なので、この程度のものを吹き飛ばすのは容易い。



瓦礫を一気に吹き飛ばして辺りを見渡すと、ここが何かの建物の中だとわかった。

正面には障子張りの扉があり、床は瓦礫が散乱していたが畳張りなのがわかった。ここは和室のようだ。


(なんか古くさい部屋だな。古民家か?)


行く手を阻む瓦礫を可能な限り後ろへよけ、前へ進む。


(すげー邪魔だなこれ。ま、俺のせいなんだけど…)


出口までは僅かな距離ではあったが、瓦礫をよけて歩くのには意外と苦労した。


「…しかし、どこなんだここは」


外に出て前を見ると、そこには鳥居らしきものがあった。とすれば…

(神社?ってことは、ここは和風ベースの世界なのか…?)

姜芽の考えが強ち間違ってはいなかった事は、後になってわかった。


後ろを振り返ると、そこには2つの建物が見えた。

一つは今出てきた建物の隣にあった。今出てきた建物は屋根に見事な穴が空いていた。

「あれ、そう言えば龍神はどこだ…?」

とその時、何かが空から降ってくるような音が聞こえてきた。そして、何かが今姜芽が出てきた建物に落ちてきた。

「なんだ!?」


姜芽は急いで建物の中に戻った。



落ちてきたのは龍神だった。

彼は着地に成功したようで、普通に瓦礫の山の中に立っていた。

ただし、両足で赤い布のようなものを踏んでいた。恐らくこれが衝撃を吸収してくれたのだろう。

「龍神!」


「姜芽!無事だったか」


「ああ。てか、ここはなんて世界なんだろうな?

外で鳥居を見つけたから、神社だってことはわかったけど…」


「そうか…」


「それにしてもここ、なんか古くさい感じだよな」


「古きよきって奴じゃないか…?

とりあえずここには誰もいなさそうだ、外に行こう」




そして二人が建物の外に出て、鳥居をくぐろうとしたその時、


「待ちなさい…」

後ろから声が聞こえてきた。


「…?」

「…!?」


その声に、二人は思わず動きを止めた。


というのも、その声が穏やかだが並々ならぬ殺意と怒気に満ちた声だったからだ。


さらにその声の主は続ける。

「貴方達、さっきから黙って聞いてれば…

いきなり空から降ってきて神社を破壊し、古くさいとか何とか言った上に私をガン無視して踏みつけるとは…」


どうやら、声の主に知らず知らずのうちに迷惑をかけていたようだが…


遂に二人は同時に振り向いた。

すると、そこには…


顔程もある赤いリボンをつけた女が、怒りの形相で佇んでいた。

当たり前ではあるが、姜芽には誰なのか全くわからなかった。

しかし龍神は、

「こいつは…てことは、ここは…!」

と呟いていた。

この人物が誰なのかわかっているのだろうか。


「こいつを知ってるのか!?ならなんとかならないか!」


「なんとか、って言われても…」


そんな事を喋っていると、女は、

「何をぶつぶつ言ってるのよ…!」

と言って、手を(かざ)した。すると、赤と白の光線のようなものが飛んできた。


「あぶない!」

ぼんやり立っていた姜芽は龍神に突き飛ばされたおかげで無事だった。


「なんなんだよ一体…!」


そう聞く姜芽に、龍神は、


「喋ってる場合じゃない!」

とだけ答えた。


何が何だかわからなかった。


「とにかく、避ければいいんだな?」

とりあえずそう言った。

しかし、それをする必要はなかった。


女に向かって、龍神が飛びかかった。

「…!?」


てっきり、龍神が女に斬りかかるのかと思ったがしかし、そうではなかった。


「はっ!」


龍神は女を軽く叩いただけだった。


「な、何してんだ…!?」


「な…何するの!」


「俺達は敵じゃない!話を聞け、霊夢!」

すると、女が動きを止めた。

「…あんた、何で私の名前を知ってるの?」


そして、その女はゆっくりと降りてきた。


「…まあ、私もあなた達に聞きたい事が山ほどあるし。

わかった、聞きましょう」





「じゃ、改めて聞くけど…貴方達は何者なの?

そっちは私の事を知ってるみたいだけど、二人とも見たことない格好してるし、おおかた外から来たんでしょ?」


「俺達はな…」


「いいよ、俺が説明する」


「そうか?じゃ頼む」


「では改めて…俺は龍神。で、こっちが姜芽。

俺らは知り合いにこの世界に連れてこられた。

けど向かう途中に事故が起こって、漂着する形でここに来た…って訳だ」


「ふーん…

その知り合いって奴は何者なの?」


「俺たちと同じ世界出身の奴だ。

どこで知ったのやら、ここの事を知ってたみたいでな」


「あんたもここを元から知ってた風な言い方だけど」


「ああそうさ。俺はここの事を知ってる。

勿論、お前の事もな」


「何で私達の事を知ってるわけ?ここの事は外には秘密にされてるはずなんだけど」


「あー、そういやそういう設定だっけか…」


「は?設定って何よ?」


「信じられないだろうが…

お前らは、外の奴らには創作の物語の登場人物として知られてるんだ。そいつらの殆どは、お前らが実在するとは思ってない。

かくいう俺も、ここが実在するとは思わなんだ」


「ふーん。で、あんた達の目的は何?」


「単なる旅だ。こんな事を言うと疑われるかもしれんが、決して悪意はない」


「へえ。なら悪い事は言わないから、さっさと帰りなさい」


「疑ってるのか?」


「どちらかと言えば疑ってるけど…大事なのはそこじゃない。今は二つの異変が同時に起きてるから、旅行なんて出来ないと思うわよ」


「異変?」


「二つって…何と何だ?」


「どっちにも正式な名前はないんだけど…

1つは地形の変動ね」


「どういう事だ?」


「そのままよ。ただ、それもかなり異常なもの。川が干上がったり、土地の一部が裂けてもり上がったり、逆に下がったり…とにかく、今までにないくらい大きな変動があちこちで起きてるのよ」


「ほほう。2つ目は?」


「人間の突然の狂暴化…。

それまで大人しかった人間が、突然暴れだして他の人間や妖怪を襲い、傷つける。

酷い時には、相手を殺してしまう程にね…」


「なんでそんな事が?」


「それがわかんないから異変って言うのよ」


「そうか…それはいつぐらいから起きてるんだ?」


「土地の変化は半年くらい前で、人間の狂暴化は1ヶ月くらい前かしら。

あ、あと異変とはちょっと違うけど、3ヶ月くらい前に変な病気の流行もあったわね」


「変な病気?」


「いきなり暴れ出したり、理性を失って他人に噛みついたりするようになる病気よ。人間以外しか罹らないから狂妖病なんて言われて、一時期はすごい恐れられてたけど、そのうち薬が作られて静まったの。

今の異変と関係があるかはわからないけどね」


「ふーん…?」


「何よ?」


「今異変が起きてるんだろ?なのにお前は動かないのか?」


「動く…って、私にはどうにもできないわよ」


「え?」

龍神が目を丸くした。

「いや、こっちがえ?なんだけど」


「いや、お前は異変解決の第一人者だろうが」


「は?何言ってんの?私はあくまでも一介の人間、強い訳でもなきゃ、特殊な能力がある訳でもない。

そんな奴が異変解決なんか出来ると思う?」


「?お前、飛べなかったっけ?」


「当たり前でしょ」


「??さっき撃ってた弾は?」


「あー、あれはね…なんか撃てるやつよ。

大した威力はないからこけおどしでしかないわ」


「なんか撃てるって…」


「あれを撃てる事にはちょっと前に気づいたんだけど、

何なのか私にもよくわかんないのよ」


「???じゃ、お前の仕事は…?」


「知ってるんならわかるでしょ?ここの巫女、ただそれだけよ」


「…????」


「ねえ、さっきから何なの?私がしゃべる度にあれ、おかしいな…って言いたげな顔してるけど」


「いや、だって本当におかしいぞ?

お前は飛べるし、それなりには強いはずだ」


「寝ぼけてんの?

強かったら今頃こんなとこで隠れてなんかいないわよ」


「えええええ…?????」

心なしか、龍神が心の底から困惑しているように思える。

「龍神…?」


「…こりゃ、確かにのんびり旅行なんぞしてる場合じゃなさそうだな」


「は?」


「異変、というか事件は3つ起きてるらしい。

そしてお前がこんなだってことは、他の奴らも影響を受けてるに違いない」


「何の話をしてるの?」


「まあ…そうだな。

この世界…もといお前らに、今までにない危機が迫っているとだけ言っておこう」


「それ、どういう事?」


「説明の時間はない。

行動開始だ、姜芽。急がないと手遅れになる」


「あ、ああ!」


「待って!」


「どうした?」


「一応これ持ってって」


「なんだ?」


「地図よ。今となってはあまり役に立たないけどね。

でもないよりはマシでしょ?」


「まあ…そうだな。よし、行くぞ!」




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