1-1 しがみついて
それはもう一つの物語。
時は、姜芽達の幻想入りが始まる少し前に遡る…
時刻は、朝5時。
まだ日も昇りきらぬ空に、数羽の鳥が舞う。
それを窓から見ながら、ベッドより起き上がる1人の女性。
彼女は清霊凛、ノワール界セントル大陸王妃。
この時間になると自然と目が覚め、居間へ行き、顔を洗い、水を飲み、シャワーを浴び、歯を磨く。
そして台所へ向かい、簡単な食事をとる。
朝食後はまた歯を磨き、部屋に戻る。
ソファーに腰掛け、本を読む。
これが、いつもの彼女のルーティーンだ。
でも今日は少し違う。
朝食を作っている途中で、ふとあくびが出た。
(まだ眠気が取れてないのかしら?)
もう一度顔を洗って、目を覚ました。
朝食と歯磨きを終え、2階の自室に戻り、ソファーに腰掛けて本を開く。
読む本は日替わりで、定期的に新しい本を買ってきている。
今日の本のタイトルは…
『夢幻の境目』
以前本屋で見かけ、気になって買った小説だ。
その内容は、空想が好きなある男が、ある時を境に想像と現実の区別がつかなくなってゆき…
というものだ。
『「こんな…こんなはずは!」
ヘドリンは唸った。まあそれも仕方ないだろう。自分の家であるはずの場所に、巨大な城が建っていたのだから。』
「んー…あんまり面白くないわね」
本を投げ出し、一眠りする事にした。
朝5時半。
だいぶ日が昇り、空は明るくなってきた。
その光に照らされて目を覚ます、黒髪ショートの女。
彼女は薊あおい、人間界出身の殺人鬼。
かつてはこの世界で最も恐ろしい殺人鬼の一人とされていた時期もあった。
今も一定数の者から恐れられているが、そもそもこの世界の殺人鬼は、ドラマや映画に出てくるような素性の知れない凶暴な怪物では決してない。
彼女の朝は意外にもきびきびしている。
5時から5時半の間には起き、顔を洗って歯を磨く。
そして着替えと食事を済ませ、武器の手入れをする。
これが彼女のいつもの朝である。
いつも通り朝食を終え、寝間着から普段着に着替える。
そして3階の自分の部屋に戻り、武器の手入れをしていたのだが…。
「何かしら?」
何やら、外が騒がしい。
下に降りてみると、玄関先で姜芽と龍神が何やら話しているようだった。
(朝っぱらから外で何を喋ってんだか。ま、あたしには関係ないんだけど)
そう思い、部屋に戻った。
「凛さん!!」
凛は、あおいの叫びに起こされた。
「…!?何よ?」
「龍神たちが、どっかいくみたいよ!」
「そうなの?…でも、私たちには関係なくない?」
「そうじゃなくて!変な船が迎えに来てるのよ!」
「…え!?」
ここで凛はようやく起き出し、下へ降りる。
窓から見ると、確かに妙なデザインの船が表にあった。
「あいつらはもう乗り込んだのね…追いましょう!」
すると、船が浮上を始めた。
「あ!」
「急ぐわよ…しがみついてでもついてってやる!」
あおいは、船の縁に飛びついた。
「あ、ちょっと!待ってよ!」
凛もやむを得ず、縁に飛びつく。
その直後船は急激に加速し、やがて世界の狭間へ飛び出した。
「ちょっ…何…これ…!」
「あの二人、どこ行くつもりなのよ!」
二人はとりあえず、船の甲板を目指して登る。
「この船…なんで世界の狭間になんか出たの?」
「別の世界にいくんでしょ?」
「それはわかるんだけど…こっちの方は何にもないんじゃなかった?」
世界の狭間はすでにだいぶ探索されており、地図ならぬ狭間図というものもある。そしてそれによれば、ノワールから見て西に人間界、南にノワールと関係の深い世界であるドラング界、北に人間界の宇宙や地球以外の星へ繋がるワームホールが大量にある「ホールエリア」と呼ばれる空間がある。
しかし、今この船はノワールから見て《《東の方》》に向かっている。凛の記憶が確かならば、狭間の東の方には何もないという調査結果があったはずなのだが…。
「王立調査隊の探索結果なんて、たかが知れてる。ずっと東の方には、まだ知られてない世界があるかもしれないでしょ?
「まあ、あり得ないとは言えないけど…」
「ま、どうでもそのうち着くでしょ。それまで侵入経路でも探してましょ」
「…本気で言ってる?落ちたらどうするの?」
「…それもそうね。仕方ない、着くまで寝てましょ」
という訳で、二人は甲板でごろ寝をし始めた。
最も、二度寝中に叩き起こされてきた凛からすればちょっと嬉しかったのだが。
突然、ドン!!という大きな衝撃が走った。
「な、何!?」
「凛さん!これ、やばいかも…!」
「何が起きたの!?」
「わかんないけど…やばいことだけはわかる!」
「何よそれ!」
そんなこんなで騒いでいるうちに、船は爆発した。
それから、どれほどの時間が経っただろうか。
地面の上で、目を覚ました。
(ここは…?)
辺りを見回してみると、そこはどこかの世界の街中のようだった。
「…大丈夫ですか?」




