8-6 新たな統治者
おびただしい数の触手が渦巻く、その中央にいるモノ。
美しくも禍々しい大輪の花。
その中央に鎮座する、雌しべのような異形。
異形は叫びながら触手を叩きつけてきた。
これ自体は簡単に避けられたが、連続で放ってきた。
それも、叩きつけだけではなく突き刺したり薙ぎ払うようにやってくる。手数も圧倒的に多く、速度も早いため隙がない。
…しかし、実は隙は必要ない。
重要なのは、如何に相手の攻撃を掻い潜って攻めるか。
龍神は飛び込んだ。
伸びる数多の触手のわずかな隙間に。
そして、花の姿を見た…
と同時に、彼の姿は触手に飲み込まれて外からは見えなくなった。
「龍神…!」
それを見るが早いか、姜芽は防御をやめて隙を見せた。
すると、複数の触手が一斉に襲いかかってきた。
それら全てを一点に受け止め、とにかく踏ん張る。
そして同時に体を発火させ、触手を燃やそうと試みた。
触手はたちまち燃え上がり、あっという間に焼け落ちた。
これで龍神の姿が見えるはず…と思いきや、またすぐに新しい触手が生えてきて見えなくなった。
ならばと飛び上がり、斧を剣に変形させ、
「剣技 [レリカルエスト]」
剣に白い光を纏わせて刀身を大きく延長する。
そのまま回転斬りを放ち、触手をすべて切り落とした。
すると、もう触手は生えてこなかった。
そして、触手に隠されていた花びらと萼のような部分が露となった。
花びらと萼は閉じており、中央が山のように高くなっている。そして、花びらは一ヶ所だけ少しめくれている。
と、萼が開き、無数の刺が飛び出して襲ってきた。
いや、長さ的には牙というべきか。
「っとぉ!」
盾で弾き落とし、同時に燃やして使えなくする。
そして全ての牙を落とした後は、盾をブーメランのように投げて四枚ある萼状の部分を切断し、さらに花弁のめくれている部分を切り裂いた。
「…!」
そこには、不気味に蠢く無数の触手に絡み付かれながらも、中央にある、根元が膨らんだ紫の柱?に必死にしがみつく龍神の姿があった。
「龍神!?」
「姜芽…!」
触手は姜芽に気づいたのか、一部が向かってきた。
そのうちの一本をつかむと、籠手が軽く溶けた。
(溶解液か…)
直接攻撃すれば武器が溶けてしまうだろう。
しかし、恐らく炎による攻撃は効果が薄い。
ならば…
「伏せろ!」
素早く龍神は伏せた。
「剣技 [闘剣の斬光]」
抜刀と同時に斬撃を水平に放ち、触手を切り落とす。
ほとんどの触手を切り落とせたが、中央の柱だけは無傷だった。
「どうなってんだ…!?」
「…意地でも開かせてやる!」
二人は根元に刀を刺し、柱に斧を振り下ろし、猛攻撃をしたが全く効かない。
と、突然柱に縦に切れ目が入った。
「…!」
そして柱が開く。
柱の内部の中央に、さらにもう一本柱が存在していた。
その頂点に体を固定した、異形の生物。
それは、サソリとエビとクモを合体させたような生物。
赤い目が8つあり、先端が鋏のようになった白い腕が4本、そして白く細長い脚が10本。
胴体には複数の節があり、口内には無数の小さな牙が蠢くのが垣間見える。
もはや元の人間の面影は全くない、『新たな統治者』がそこにはいた。
異形は二人を見るなり、おぞましい叫びをあげた。
そして脚と鋏状の腕を伸ばし、二人を捕まえようとする。
何とか避けたが花びらは閉じてしまっており、先ほど姜芽が切り裂いた所もいつの間にか塞がっていたため、脱出は出来ない。
姜芽の斬り込みは腕で防がれた。
同時に、別方向から斬りこんだ龍神も同様だった。
そして、二人ともに吹っ飛ばされた。
「余計な抵抗さえしなければ、幸せに暮らせたものを…!」
こんな姿になっても、会話が出来る程度の知能と自我はあるらしい。
そこは凛央と同じ…というべきか、さすが完全適合者というべきか。
「私に楯突いた、その勇気と覚悟は褒めてやる…!お前たち二人は、ここで私が直々に葬ってくれる!」
異形は、二人の首を狙う。
姜芽は素早くジャンプして難を逃れた。
しかし、まだ終わりではない。すぐに残りの二本がくる。
「っ…!!」
武器で腕を受け止めるが、長くは持ちそうにない。
と、龍神が刀を入れて腕を斬ろうとした。が、刀を弾き飛ばされ、花びらを突き破って外まで飛んでいった。
そして、すぐに花びらが塞がる。
「ちっ…!」
龍神は即座に魔法盾を作り出し、鋏の攻撃を防ぐ。
「無駄な足掻きを!お前の運命はもう変えられないのだ、潔く死ね!!」
4本の腕が彼を襲う。
押される龍神を見て、姜芽は斧を振りかぶるが、
「邪魔するな!」
纏められた10本の脚による蹴りを食らい、姜芽は花びらの外へ吹き飛ばされた。
「っ!やばい!」
すぐに戻り花びらを斧と魔弾で攻撃したが、びくともしない。
この様子では、おそらく火も効かないだろう。
「畜生!」
意味もなく、悔しさから拳で花びらを何度も叩く。
そしてへたれこんだ。
…と。
ここで、姜芽の脳裏にある言葉が浮かんだ。
その頃、内部では…
「これで邪魔者はいなくなった…お前たちは二人いるから強い、だから1人づつ殺す」
異形は腕と脚を総動員し、龍神の動きを完全に封じた。
そして、口とも頭そのものとも見えるモノを開いた。
5枚の花弁のようなものの中に、鋭い牙がびっしり並ぶ。
「お前ら二人は別々の方法で殺してやるわ。お前の相方は引き裂く。お前は…私の血肉として喰らってやる」
食い殺されるまであと数秒と言ったところだが、あいにく先程の魔法盾で魔力をほとんど使い果たしたので、この場を脱する攻撃はできない。
少なくとも、致命傷を負わせたり怯ませたりするような攻撃は撃てない。
異形は口を限界まで開き、大きく仰け反った。
「させるかよぉ!!」
姜芽の怒号が飛んできた。
その直後、
「[神滅割り]!」
という声と共に、異形の上半身が斜めに切り裂かれ、花弁内に一気に光がもたらされた。
龍神は直ぐに異形の腕を振りほどき、後ろの空を見上げる。
そこには、巨大かつ異様な魔力をまとう斧を持った姜芽がいた。




