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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
35/64

8-1 悪姫顕現

千古の時代より生きる、月の姫君。

穢れた地上との関わりを絶った世界で孤独に生き続けていたが、やがて心のゆとりを失い、極度に刺激を求めるようになった。

凛央の甘言に惑わされ、楽園での新たな惨劇の元凶となって尚、その心は止まらない。




突然、風景が変わった。

これまでのような荒れた山道から、綺麗に道が整備された竹林になったのだ。


姜芽にも何となくわかった。

いよいよ黒幕…「姫」の居城に、近づいてきたのだと。

どんな奴なのかは知らないが、そいつがこの世界で再びパンデミックを、バイオテロを引き起こそうとしている。

何としても、食い止めて見せる。


しかしその前に、相手の事を少しでも知りたい、とも思った。

「黒幕…「姫」って言ったよな。どんな奴なんだ?龍神は、知ってるんだろ?教えてくれ」


龍神は、ひと息ついて話しだした。

「蓬莱山輝夜…それが、奴の名だ。『蓬莱人』という特別な種族で、不老不死の肉体を持つ。夫や家族を作る事もなければ、働く事も病に罹る事もなく、ただ久遠を生きるだけの存在。妹紅や永琳も、元は奴の手下みたいなものだ。お医者様は良心に従って生きたようだが、残りの御二人さんは違ったらしい」


「不老不死…か。俺たちに少し近いものがあるな」

姜芽達は加齢せず病気にもならないが、不死身ではない。


「確かにな。だが、俺たちとあいつとは決定的な違いがある。それは…」


「力の有無」

突然、そんな声が聞こえた。

声の主は…

「…!」

なんと、本人が目の前に現れた。

その姿を見た第一印象は、優雅な紫の着物を着た、黒長髪の美女。

こんな美しい女が、今回の黒幕なのか…

姜芽は、そう思った。


「わざわざ来て貰って、その上すぐに私の他己紹介をしてくれるなんて、ご苦労様」

次に、輝夜は龍神の方を向いて言った。

「私の事を相方さんに紹介してくれたのは嬉しいけど、いくつか気に入らない所があったわ」


「何か間違ってたか?」


「ええ。永琳は良心なんかに従ったんじゃない」  


「と言うと?」


「あいつは、単に私の得た力が恐ろしくて逃げただけ。所詮、下等な鬼どもや下界の連中と同じ、新たな世界に住まう資格のない奴だったのよ」


「てことは、今のお前には必要ないと言うことか?」


「当然でしょ?あんな奴がいなくとも、今の私には至高にして究極の力がある。…この世の全てを変えられる程の力が、ね」


姜芽は、燃え滾る炎のように言った、

「…その力は、容易く何千人も殺せる代物なんだぞ!命を弄んで、何も思わないのか!?」


「逆に、何を思えと言うの?私にとってはただのお遊びだもの。それに、彼らは化け物じゃない。『犠牲者』とでも言うべきかしら」


「犠牲者だと?」


「聞いたと思うけど、一応教えといてあげる。私は1年ちょっと前、外から来たという女に出会った。その女は、私に得体の知れない薬をくれると言ってきた」


十中八九、凛央のことだろう。

輝夜は、続けた。


「最初は限りなく怪しいと思った。けど、彼女の話を聞いてるうちに、次第に試してみたくなったの。彼女は話上手で、外の事を…私が知らない事を沢山教えてくれた。その中に、例の薬の運用方法や注意点もあった。そしてある時、この薬は正しい使い方をすれば大きなメリットがあると聞いたのをきっかけに、使ってみる事にした」


「そして、鬼どもに試験的に投与したと?」


「早い話、そういうこと。『力の薬』。これは『適合』できれば優れた能力を得られる。けど、できなければ自我を失い、凶暴な怪物になる…と聞いた。

意味はよくわからなかったけど、使い方さえ守れば問題ないことはわかった。そして私は、彼女に言われた通り時間をかけて、少しずつ量を増やして薬を飲んだ。そして今では…」


輝夜は右手を出したかと思うと、手首から先がたちまち不気味な色をした、蠢く触手のようなものになった。


「この通り。薬の力は、ほぼ完全に取り込むことができたわ」

触手がうねうねと蠢く様は、異様なほど不気味だった。


「そのうち、「適合」できなかった奴がどうなるのか、興味が湧いてきた。だから、鬼どもの酒に薬を混ぜた。すると奴らは女から聞いた通り、理性らしい理性のない怪物になって、仲間を襲うようになった。全部見させてもらったけど、実に愉快な光景だったわ!」


「…」


「そのうち、腑抜け女が薬をやめろとか言ってきたけど無視した。そしたらあいつは私を裏切って、全てを地上の連中に話そうとした。だから外の女に話して、あいつから私たちと薬に関する全ての記憶を消してもらった。

その後は兎たちとも遊んでやって、山にも薬を流した。これだけの数に投与すれば、一人くらいは適合できるかと思ったんだけど、誰もできなかった。でも、仕方ないわ。山の連中はみんな、「不適合者」だったってことなんだから」


適合出来なかった、ということはつまり…。

やはり、こいつがしている事は凛央と同じだと、姜芽は思った。


「私は決めたの。この力で、世界を作り変えると。こんなつまらない、下らない世界はもううんざり。私がこの『力の薬』を使って、全てを変える。適合した者…選ばれた者だけの、新たな世界を作るのよ!

適合できなかった奴のことは、私は知らない。大きな計画には、犠牲と邪魔がつきものだもの」


「それじゃ、これからお前は…」


「実を言うと、私はまだ完全に薬の力を手に入れてはいないの。だから、まずはそれを済ませてからね」


「どういうことだ」


「私はまだ、全身を変異させることはできない。だから濃度の高い薬の中に浸って、完全に薬の力を取り込むつもりなの。全身の細胞を自由に変異させられるようになれば、私はこの世界の頂点に立てる。そうなったらこの山を降りて、地上全土に薬をばらまくつもりよ。最終的には、全てを1から作り直す。そして…長らく実現しなかった、私の望む世界を作る!最高の刺激が、娯楽があり、選ばれた高貴な者達だけが暮らす、究極の世界をね!」


龍神も、呆れたように言った。

「狂ってるな…」


姜芽は、ただ斧を構えた。

「今はまだ、完全には力を取り込んでないんだな?なら、今のうちに倒すだけだ」


「外の者が、私に刃向かうというの?なんの力もないのに、私に楯突く者がいたなんて。…いいわ」

輝夜は、奇妙なデザインの刀を抜いた。

「そろそろ強い奴とやり合いたかったし。楽しませてよね?」


姜芽は斬りかかった。

やはり受け止められたが、龍神が電撃で痺れさせた隙をついて胸を刺した。

「…?なに…?」

輝夜は少々驚いたようだった。

「何をしたの…?」

龍神が雷の力で痺れさせた事に気づいていないようだ。

「何だっていいだろう。あんたにだってご立派な能力があるんだし」


「…なぜあなたがそれを知っているの?まあ、どうでもいいけどね。私は薬の力を得るかわりに全ての特性と能力を捨てた。だから今の私に能力はないし、不老不死でもない。身体的には、ただの人間と大差ないわ」


「そうか。で、その代わりに『薬』の力があるわけだ…」


「そういうことよ」


そんな会話をしながら、2人がかりで攻撃する。

龍神はあくまで気を引き付けつつ、隙を見て痺れさせて動きを止める役で、本格的な攻撃は姜芽が行う。

それを何度か繰り返していると、輝夜が口を開いた。

「どんなカラクリかはよくわからないけど、このままじゃ分が悪いのはよくわかったわ。そして…」


輝夜は言葉を切ると同時に、手を止めた。

そして勢いよく刀を降り、二人を弾き飛ばした。

「悪いけど、私はこんなことをしてる時間はないのよ。あなた達の相手をしてられるのは、ここまで」

輝夜は刀をしまい、後ろを向いた。

「待て!」

姜芽の声に、輝夜は振り向く事なく答えた。

「安心なさい。お前たちの相手は、私じゃない」


「なんだと?」


「言い忘れてたけど、薬を飲んだのは私だけじゃない。お前達の相手は、そいつにさせる」

姜芽は発言の意味がわからなかったが、龍神はそれとなく理解した。

「…さては、あいつか!」


そして、上から見覚えのある影が飛び降りてきた。






「久しぶりだなぁ…お二人さんよ」

かつて、2度に渡って二人の前に現れた存在。

それが、現れた。


「…妹紅!」


「お前…まだ生きてたのか!」


「当然だろう?私は不死身だ。それと、この世界じゃ殺されても甦る…はごく普通の事だ」


「あなた、彼らと何だか深い因縁があるらしいわね?折角だし、ここでその因縁を晴らすといいわ。私は早く計画を進めたいの。できるだけ時間を稼いで頂戴。…期待してるわよ?いつもの場所…"月夜廟"で待ってるからね?」


「もちろんだ。こいつらにこれ以上、邪魔はさせない」


輝夜は優しく微笑み、姿を消した。



姜芽「思ったんだけどよ、輝夜…だっけ。あいつの名前は『てるよ』だって言ってたけど、漢字にすると『かぐや』とも読めるよな」


龍神「そうだな。実際、どっちが正解なのかわかんないんだよな」


姜芽「え?」


龍神「あいつは、一応はかぐや姫ってことになってる。で、俺は原作はやったことなくてな。あいつの名前の読みに関しては、『てるよ』の事もあれば『かぐや』の事もある…って認識だ。とりあえず『てるよ』と呼ぶ」


姜芽「なら、俺もそうするか」

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