7-5EX 実験体
しばらく進んで、姜芽は「何か」の気配を察して立ち止まった。
いや、気配ではない。間違いなく、近くに何かがいる。
「龍神、動くな!」
「どうした?いきなり…」
「近くに…何かいる!」
「それ」の姿は見えないが、気配は確かに感じる。
姜芽はゆっくりと手を動かして探知結界を張った。すると、すぐにそれの正体を突き止められた。
姜芽はあまり強力な探知結界を張ることは出来ないため、隠れているものの姿を映し出すのは大まかにしか出来ない。
しかし、それの姿を見て、細かく映し出せなくてよかったと思った。
それは、人間の体から頭を取り、代わりにあちこちに目玉や手を付けたような姿の怪物だった。
体表は紫色で、そのおぞましさを助長している。
姜芽が魔弾を放つと、怪物は紫の血を流し、姿を表した。
その全容は、無数の肉塊や人間の内臓や目玉をツギハギしたものに人間の腕を7本つけたようなもの。
そのあまりの異様さに、姜芽は恐怖を覚えた。
気づけば、体が自然に技を繰り出していた。
すると、怪物はあっさりと事切れた。
「なんだ、この化け物は…」
「おおかた、実験で生み出されたものだろう。しかし、ここの連中を使ってこんなのを作れるとはな…」
と、姜芽は龍神の背後から何かの気配を感じた。
「しゃがめ!」
龍神は素早くしゃがみ、姜芽は炎を撃ち出した。
すると、何も見えない空中で火球は歪み、そこにいたモノに火が燃え移った。
それはうめき声を上げながらもだえ苦しみ、やがて倒れた。
「…まだいるぞ!」
姜芽は改めて探知結界を張る。
すると、その辺りにまだ今のと同じ化け物がたくさんいることがわかった。
どれも肉眼では見えないが、二人を狙ってきている。
龍神も探知結界を張り、
「…なるほど、な」
時折見せる、何かを悟ったような微かなほほえみを見せた。
向こうは二人に間違いなく気づいている。
しかし、一気に襲ってはこず、ゆっくりと、ゆっくりと近づいてきている。
「気づいてないと思ってるのか…?」
「わからん。だが、これは向都合だ」
龍神は手を閉じて開き、指先から一筋の稲妻を走らせた。
それは最寄りの化け物に命中し、化け物を痺れさせた。
さらに電撃は、その近くの化け物にも稲妻として伝わり、連鎖的に次々と化け物を痺れさせた。
「…」
龍神が手を構えている間、化け物たちは痺れ続けた。
そして、
「終わりだ」
龍神が手を閉じると、化け物たちの痺れが止まって一斉に地面に落ちた。
「これでいい。…探知に引っかかってない奴はいないよな?」
「そのはずだ。…でも、念の為用心していこう」
二人は探知結界を張りながら、化け物たちの死体の中を進んでいく。
化け物の死体は腐臭も酷く、姜芽は鼻を覆って進んだ。
龍神は、慣れているのか特に反応はしていなかった。
途中で、化け物のうちの一体に何かが書かれた紙が貼られているのに気づいた。
血で汚れてはいたが、それは「103」と書かれているように思えた。
「数字か…?でも何のために?」
「こいつらの耳、なんか見覚えがある…。ん、そういう事か」
龍神は立ちあがり、姜芽の方を向いて言った。
「おそらく、これは実験体。そして元は、月の兎だろう。番号で管理されてたんだ」
「え…」
月の兎、というワードも気になったが、それ以上にこの瞬間、姜芽は全てを理解した。
ここまでに遭遇した化け物。それらも全て、その実験体の一つだったのだ。
「…なるほど。ここまでに出てきた化け物達はみんな、ウイルスの実験体にされた犠牲者だったのか」
「お医者様の言ってた事は本当だったんだな。姫様は、始めからこいつらを実験体として利用するつもりだったのかもしれん」
「けど、誰から実験に…ウイルスに関する知識を得たんだ?…まさか、凛央からか?」
「そうとしか考えられない。《《お師匠様》》にある訳…いや、あっても教える訳…ないからな。とするといよいよ、お嬢様の予言が当たってきたな」
「予言って?」
「前来たときの帰りのことだ。姜芽が里の連中と別れ話をしてる間に、船に咲夜が来たんだ。お嬢様から伝言を預かったから、それを伝えにきた、と言ってな」
具体的に誰の予言なのか明確にされていないが、何となくわかる。
それに、彼がこのような話し方をするのはいつもの事だ。
「それで、何て言ってたんだ?」
「確か…『頭脳の追憶の時、月の影が現れる。地獄を越えた先で、真実にたどり着く。見えざる怪物を退け、影の主に謁見する』…だったな」
「それだけだと、どうもよくわかんないな」
「今言ったのは予言の前半、ほぼほぼ意味がわかってる所だ。後半は、何を意味してるのか現時点ではわからない」
「その予言って、当たるのか?」
「あの方の予言はもれなく当たる。だから覚えてたんだ」
「へえ…」
「言うまでもなく、見えざる怪物ってのは今の化け物のことだったんだろう、とすると、影の主ってのは…」
「今回の黒幕…『姫』ってことか?」
「恐らくな。けど、どんなタイミングで、どこから出てくるのかは全くわからん。用心していこう」




