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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
31/64

7-3 創世の山

念写のような能力を持つ天狗の一種。

この世界では有名な新聞記者で、戦闘は弱いが、職業と相性のいい能力を持っているため他の者より有利に活動できている。

悪意のある記事や痛々しい記事を書くことで知られており、その癖のある文章に食いつく読者も少なくない。

一連の騒ぎが起きて間もなく「姫」の企てに気づき、その姿を消した。




風を扱うことに特化した天狗の一種。

その能力は攻守ともに汎用性があり、移動の大きな手助けにもなっている。

やはり著名な新聞記者であるものの、しばしば誇張された事実を広めていた。

「姫」の計画が始まって間もなく姿を消し、現在に至るまでその行方はわかっていない。


そうして、2人はいざ問題の山へ入山した。

「ここはどんな山なんだ?」


「俺が知ってる限りだと、天狗とか鬼とかが沢山いたはずだ。今は化け物だらけだろうが」

とは言え、見た限り特におかしな所はなく、妙な気配もない。

「見た感じ、普通の山だけどな…」


「甘いな。多分もう少し歩くと…」

龍神が言い終わる前に、茂みから何かが飛び出してきた。

それは翼のある人間?で、二人を見ると顔全体を花びらのように開いた。

6つに裂け、開いた顔の内側には無数の小さな目や牙のような突起があり、その様子は率直に嫌悪感と不気味さを煽る。


姜芽は反射的に火を放った。

化け物は高速で移動して躱し、姜芽の視界から姿を消した。


「…くそ、どこ行った!」

姜芽がキョロキョロしていると、槍を片手に龍神に奇襲をかけてきた。

「うおっと!」

龍神は槍を受け止め、電撃を流して感電させて撃ち落とし、首に刀を刺した。

「こりゃ、天狗だな…」

それを引き金に、二人のまわりの茂みや木の裏全てから気配を感じた。

「いるな…」


「ああ…」

囲まれているのはわかるが、向こうの正確な場所がわからない以上、出てくるのを待つしかない。



叫び声をあげながら、一体の天狗が襲いかかってきた。

姜芽は突き出してきた槍を盾で受け止め、相手の体を炎上させた。

それを皮切りに、あちこちから次々と天狗が襲いかかってくる。

「ウォーブレイク!」

斧を持ち、自身がコマのように回転する技を放つ。

これで、今群がってきた天狗は全て片付けられた。

「もう出てこないよな?」


「と思いたいが…あいつらはやたらと数が多いからな、早めに抜けよう」






しばらく進むと、再び天狗の集団が襲ってきた。

今度は剣持ちだ。

「またか!」

姜芽は身構えたが、龍神が先を行った。

空黒いエネルギーの塊を波動として飛ばした。

天狗は波動に飲まれてもがいたが、やがて動かなくなり、落ちた。

「…闇の術か」


「ああ。…!」

倒した天狗の後ろから、大量の敵が現れた。

「…とっとと終わらせるぞ!」


「言われるまでもない!炎法 [鳳凰降臨]」

姜芽が地上の敵を焼き払い、

「闇法 [混沌に帰す泡影]」

龍神が空中及び地上の残存敵全てを闇の中へ葬り去る。

これで、今現れた天狗は全て倒した。

「よし、今のうちに登ろう!」

二人は走り出した。





ノンストップで走り続けて、どれくらい経っただろう。

あの後、なぜか敵がぱったり現れなくなった。

ここまでの道は一本道だが、所々道が蛇行しているところや落石がある所、道が崩れている所があり、少々登りづらい。

加えて傾斜が少々急になってきた。



「はあ…疲れた!ちょっと休もう!」

姜芽はそう言って、道のど真ん中に倒れた。

「道のど真ん中で寝っ転がるなよ…まあ、疲れたのはわかる。ここは安全そうだし…ちょいと休憩するか」

道端の大きめの石に腰掛け、休むことにした。




龍神は大人しく座って休んでいたが、姜芽はそのまま眠ってしまった。

この所色々と忙しく、疲れが溜まっていたからだろうか。

それとも、昨日は珍しくなかなか寝付けなかったからか。

何にせよ、彼は倒れて数秒で眠りについてしまった。







龍神は座ったまま俯き、しばし物思いに耽っていたが、ふと何かの気配を感じて顔を上げた。

あたりを見渡してみるが、怪しいものは見当たらない。

木の裏にも、頭の上にも、後ろにも、何もいない。

姜芽も、寝たままだ。

「…あれ?気のせいか?」

こういう時は大抵、気のせい…ではない。

素早く後ろを振り返る…が、やはり何もいない。


と、ここで気になったのは道の真ん中で寝ている姜芽…ではなく、その影。

「…まさかな…」

試しに石を投げ込んでみると、何かに当たったかのように跳ね返った。


そして、影の中から大きな蛇のような生物が現れ、向かってきた。

間一髪回避すると、蛇はそのまま大きな木の裏に消えてしまった。

すぐに立ち上がってその木の裏を覗いたが、蛇はいなかった。

その刹那、蛇は地に伸びる自らの影から伸びてきた。

不意を突かれたが、なんとか今度も噛みつかれる前に回避できた。


体勢を立て直し、改めて蛇を見ると、その背中には鳥のような羽が生えており、顔には濁った黒色の目玉が3つ。

頭部の後ろ側の両側面には、触手のようなものも生えている。

さらには全身が腐敗しているのか、酷い悪臭を放っている。

「自然の蛇じゃないな…誰かの成れの果てか?」


ここで、姜芽が目を覚ました。

「ん…寝ちまってたか…」


「起きたか、姜芽!」


「どうしt…わっ!」

蛇は姜芽の声に気づくと、自分自身の影に潜り込んで消えてしまった。


「なんだ…今の!」


「わからんが、影に入れるらしい。厄介だな…」


「…!どこ行った…!」

身構えてあたりを見渡すが、既に気配はなくなっていた。

しばらく待ってみても、出てこない。


「…取り敢えず行こう」




警戒しながら山を登る。

終わりがなく、延々と続いているようにも思える山道。

それを、延々と進んでいく。

時折、大きな鳥のような影が二人を追い越して地を横切る。

気にはなったが、はっきりとその姿を見ることはなかった。




しばらく登ると、道の木々や草は疎らになり、石がごろごろした荒れ地に変わってきた。

同時に、少しばかり肌寒く感じられるようになってきた。

いよいよ山頂に近づいてきたのか。


「お、ついたぞ」

斜面が終わり、山頂に到着した。

そこには広大な荒れ地が広がっており、所々に岩や雑草があるのみで、他には何もない。

「随分と殺風景なとこだな」


「あれ、何もない…?これは、どういう…。ん、まさか…?…こりゃあ、だいぶまずくないか…?あいつらがいないって事は、この山はもう…」

龍神は、この荒れ地を見て何かぶつぶつと喋っている。



と、いきなり強風が吹いてきた。

いや、強いなんてものではない。台風か、あるいは竜巻のような、猛烈な風だ。

「ぬぉっ…!?」

2人は足に魔力を込めて地面に貼り付いたが、これだけでは耐えられないと判断し掴まるものを探した。だが、周りには何もない。辺りに転がっていた岩は、ほとんど吹き飛ばされてしまっていた。


そこで、姜芽は斧を、龍神は刀を地面に思い切り刺して固定し、それに掴まった。

「姜芽…!」


「っ…大丈夫だ…!」


「違う…風上を…!」


「風上…!?」

風が吹いてくる方向を見ると、崖から少し離れた空中に巨大な鷹のような生物がおり、それが羽ばたいて風を起こしていた。

「あれって…」


「姜芽…少し耐えれるか?」


「…何する気だ!?」


「見てろ…!」

龍神は少しずつ鷹に近づく。

そして立ち止まり、術を唱えて雷を落とした。

鷹は黒焦げになり、崖の下へ落ちていった。それと同時に、風も止んだ。

龍神は鷹が崖下の地面に叩きつけられ、動かなくなったのを見届け、姜芽の安否を確認した。

「…姜芽!大丈夫か!?」


「ああ…何だったんだ、今のは…」


「たぶん、記者の天狗どもだ…しかしまあ、まさか《《ご自身が》》三面記事を賑わす存在になるとは。よほどネタがなかったらしいな」

龍神が、俄に意味のわからないことをぼやく。

「あんなにあった岩が、殆ど飛ばされちまったな。本当に凄い風だった。…」


「どうした?」


「まだ、山が続いてる…」

姜芽の視線の先には、今二人がいる山よりさらに高い山がそびえていた。

その山頂は雲に覆われている。

「あっちが本命か」


「余計登るの大変そうだな…飛んでいくか」

と、先ほど鷹が落ちていった崖の下から、例の蛇が飛び上がってきた。

蛇は翼を器用に動かして飛び、二人を威嚇してきたが、まだ生きていたらしい鷹が飛び上がってきたのを見ると、そちらへ注意を向けた。

両者はたちまち取っ組み合いを始め、乱闘を繰り広げながら崖の下へ消えていった。


「痛いメンヘラとウザい新聞記者か…相変わらず、仲悪いんだな」


龍神の謎の発言をもはや拾わず、姜芽は言う。

「早く行け、って事っぽいな。行こう」

2人は、向こうの山に向かうべく飛び立った。




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