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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
30/64

7-2 汚れた湖

様々な人外が住まう湖を治める人魚の女王。

あまり姿を見せないためその詳細は知られていないが、美しい声で歌う、人間に対して友好的である、とても臆病な性格をしている、などとも言われる。

現在どうしているのかは不明。

水中はかなり視界が悪かった。

先ほどの魔法のおかげで水中でも目が利くようになっているはずだが、それでも2m先くらいまでしか見えない。


「あいつの薬は本物だったんだな」

姜芽は、ウイルスに汚染されているであろう水に入っても何ともないことに驚いた。

「そりゃあ…な?」

そんな事を言っていると、何かの影が横切った。


「ん…?何かいるな…」

二人は身構える。

視界が悪いため、下手に動く事ができない。


「…来たぞ!」

魚と獣を組み合わせたような外見の化け物が襲いかかってきた。

「炎法 [ブルースローム]」

水中でも威力がある青い火を放つと、化け物は甲高い悲鳴を上げながら泡のように溶けて消滅した。

「多分、まだたくさんいる。気をつけよう」



時折襲ってくる化け物を退けながら水中をくまなく探してみたが、何も見つけられなかった。

「水中に浮かんでるわけではないようだな…なら、次は湖の底に行こう」

そうして、湖底を目指して泳ぐ。

因みに今は水の抵抗を無視できるので、普段よりかなり速く泳ぐ事ができる。


やがて、湖底が見えてきた。

「よし、もう少しだ」

そうして湖底に着地したが、得体のしれないヘドロのようなものが大量にあり歩くのは困難を極めた。


「っ…これじゃ、まともに歩くのも苦労するな…」

たまらず浮上すると、今度はまた化け物が襲ってくる。

「っと!危ねえ!」

龍神がすれ違いざまに化け物を斬り捨てながら言った。


「湖底のどこかにあるんだろうが…地道に探すしかなさそうだ」



視界が悪い中、湖底ギリギリの高さを泳ぎながら探すこと数十分。


「はあ…」

姜芽はため息をついた。


いかんせん自体が広い上、とにかく視界が悪い。水自体が真っ赤なのもあるが、ゴミが大量に漂っている。

一応魔法のおかげで、多少の視界は確保できているが…

現状、現在地も探し物の場所もわからない。

この調子では、一体いつになったら見つかるのやら。


しかも、ここはただ水が汚れているだけの湖ではない。

あの化け物達が、いつ襲ってくるかわからない。

そういえば、ここにはかつて人魚という存在が住んでいたそうだが…。



「現在地、視界、発生源の正体。せめて、このどれかが明確になってくれればなあ…」

そんな事を言いながら捜索を続けていると、再び化け物が襲ってきた。

龍神が刀を構えて一回転し、化け物を真っ二つにする。

ここで、姜芽は初めて「それ」の姿を詳しく見た。

「こいつは…魚か?」


「いや、多分人魚だ」

姜芽には、人魚と言うより半魚人か人面魚に近いように思えるのだが…これもウイルスの影響だろうか。


「さて、さっさと見つけてここからずらかるぞ」

言われるまでもない。引き続き、捜索を続ける。




それからしばらくして、2人はようやくそれらしきものを発見した。

「なんだありゃ?」

湖底のヘドロの中に赤く光る何かが刺さっており、そこから赤い泡が出ている。

「…あれがウイルスの発生源か?」

それはソーラーライトのような形をしていて、中に赤く光るものが入っており、エアーポンプのような感じで泡が出ていた。

「普通に抜けるかな?」

試しに引っ張ってみたが、抜けなかった。

「やっぱり、簡単には抜けないか」


「どうすりゃいいんだ?」


その時、頭上を一際大きなものが横切った。


と、周囲の汚れや濁水が部分的に晴れ上がり、影の主が姿を表した。

それは大きな魚のようだったが、河童のような水掻きのある指、トゲや不気味な肉塊で覆われた体、紫色の鮫のような尾びれ、そして人間とサンショウウオを合わせたような顔…それらを合わせ持つ、化け物だった。

それはこちらを見て、威嚇とばかりに吠えてきた。

「あいつを倒せって事か」


「そのようだな。さっさとやろう」

化け物のまわりに、次々と他の人魚たちが集まってくる。

さらに化け物は、何やら姜芽たちの方を指差して、手を払うように動かした。

すると瞬間的に強烈な水流が起こり、二人は流された。



「姜芽!」

龍神の手を掴み、なんとか壁にぶつからずに済んだ。


「…あれ、あいつはどこ行った?…うわっ!」

突然奇襲され、湖底に叩きつけられた。

この濁水の中でも、向こうにはこちらが見えているらしい。


「これは面倒だな…よし!姜芽、ちょっと待ってろ!」

龍神は一人で水面へ向かって泳いでいった。

「え!?ちょ!おい!」

そうこうしているうちに、化け物たちが姜芽に寄ってきた。

「ちっ…仕方ない!」

近寄ってきたものから1体ずつ仕留める。

しかし、先ほどのボスらしき化け物が他の個体を呼び寄せるため、倒しても倒してもキリがない。

しかもボスは常に姜芽と付かず離れずの距離を保ち、部下が倒される度に新しく呼び寄せる。


このままでは終わらないので、まわりの敵を全て術で吹き飛ばした。

それと丁度同じタイミングで、上…水面から僅かな青い光が差し込んでくるのが見えた。

それに気づいた姜芽は勢いよく浮上し、そのまま水面から飛び出した。

その直後、湖に一筋の雷が落ちた。


「雷法 [月下轟雷]」

龍神が術を使ったのだ。



やがて穏やかになった湖面に、化け物たちの死骸が浮かんできた。

その中には、先ほどのボスらしき化け物の死骸もあった。

強烈な電撃を浴びたからか、それは水中にいたにもかかわらず焦げていた。

「こんな《《わかさぎ》》料理は食いたくねえな」


「いや、あんた魚嫌いだろ…」

皮肉を垂れ流す龍神に、姜芽は割と真面目な反応をした。

「さて…と」

姜芽は死骸を全て上空にあげ、瞬時に燃やし尽くした。

そして水を全て宙に浮かべ、その間に龍神が湖底に刺さっていたものを引き抜く。

「これでよし。というか姜芽、よくわかったな」


「あの光、何回も見てるからな」

姜芽が湖底で見た光は、龍神が電撃を放つ際に発せられる光。故に、あれを見てすぐに湖に雷を落とすのだと察し、湖から飛び出したのだ。

「しかし、随分と派手にやったな」


「面倒だったからな。あ、そうだ。問題の装置は壊れてないよな?」


「多分壊れてないな。これノワールの道具だし、電撃くらいじゃ壊れないだろ」


「なら、それをサンプルがわりに持っていけるな。まずやることは終わった、報告に行こう」






「おーい」


「あ、やってくれた?」


「もちろんだ。湖の底にぶっ刺さってたのはこれだった」


「何これ?」


「俺たちがいた世界の道具だ。こいつがウイルスのエアーポンプになってた」


「ついでに、湖にいた化け物も全滅させといたぜ」


「そう…彼女らのことは残念だけど…これであそこも元に戻る。ありがとう」


「浄化の準備は出来てるのか?」


「勿論よ。早速浄化してこなくちゃ」





それから数時間後…

湖の水は綺麗に浄化され、もとの美しい湖に戻った。

「終わった終わった」


「一度ならず二度までも、同じ外来人に助けて貰うなんとは思わなかった」


「いやいや」


「あなた達のおかげで、なんかやる気が出てきたわ。すぐに診療を再開しましょう」


「それがいいだろうな…」

あ、そうだ、と龍神は言って、こう続けた。

「そう言えば、お姫様は今、如何されておるんだい?」


すると、彼女は顔を曇らせた。

「…その事なんだけど…」


「どうした?何か問題でも?」


「ええ、大問題がね…」


「大問題?詳しく聞かせてくれ」


「単刀直入に言うとね…あの方は、この世界を滅ぼそうとしている」


「!?」

2人は驚いた。


「あいつが一人でか?でも、どうやって?」


「あの方は、地上で人為的パンデミックを引き起こそうとしている。以前に使用されたウイルスを使って、ね」


「!?」


「それってつまり…バイオテロか!?」

姜芽は驚き、思わず声を荒げた。

「バイオテロ…外ではそう呼ぶの?」


「…とりあえず、詳しく聞かせてほしい」


「しばらく前の話なんだけどね。私達は、ある山に住んでいたの。その山には鬼や妖怪もいて、彼らとは上手くやっていた。

ある時、偶然あの方が変な液体を飲んでいるのを見たのよ。聞いたら、新しい薬だって言ってた。

でも、私はあの方に薬を渡した事なんてない。河童から貰ったものかなと思ったんだけど、向こうは知らないと言ってた。だから、あの方に直接薬の出所を聞いたの。そしたら、外から来た者からもらったと仰った」


「外から…?それ、本当に薬か?」


「私もそう思ったから、念のため調べます、結果が出るまで飲用はお控え下さいと言ったのだけど、聞かなかった。

それからまもなくして、数人の鬼が異常な興奮状態になる事件が連日のように起きた。当時は、集団で悪酔いしたんだろう…というくらいにしか思わなかったけどね。

でもそんな鬼たちを見て、あの方が変に笑ってたのはなんだか不気味だったわ。

そしてとうとう、あの方は私におかしな質問をしてくるようになった。薬は風呂のように浸っても大丈夫か、薬に完全に適合するにはどうすればいいか…なんてね」


「それって…」

どう考えても怪しい。

この時点で、姜芽も龍神も結末の見当がついていた。

「いくらなんでもおかしいから、本当に薬なのですか?姫様にそんな物は必要ないのでは?やはり調べます、と言ったの。でも、これは信頼できる外来人から貰った魔力の薬だから、何も心配はいらない。これは今の私に絶対に必要なものだ、と言って聞かなかったのよ」


「そして?」


「私はどうしても納得いかなかった。だから、ある日の深夜に密かに"薬"を汲んで、調べた。そうしたら、これは薬なんかじゃなくて、新種のウイルスだとわかった。

まさかと思って、先日暴れた鬼たちの血を取ってそれも調べた。すると、同じウイルスが出てきた」


「…!」


「私は全てを悟った。それで、私は…いても立ってもいられなくなって、翌朝、すぐに姫様の元へ走った。そして、全てを知った」


「全て…」


「そう。あの方は、あれが未知のウイルスである事を知った上で、あくまでも"戯れ"として鬼達に投与していたの。

その上で、自らはウイルスを持続的に摂取していた。早い話、あの方は鬼達で生体実験をしていたのよ」


「恐ろしいことするな…でも、なんでそんな事を?」


「詳しくは教えてくれなかったけど、『世界を変える』って。いずれは下界にもウイルスを拡散し、新たな世界に住む資格がある者を選別する…とも言ってたわ」


「それじゃ、凛央と同じ穴の(むじな)じゃないか」


「もはや、今の姫様には何を言っても無駄だと…私には、この方を止められないと思った。だから、地上の誰かに助けを請おうと、山を降りた。でもその後、記憶がなくなって…」


「…なるほど。この一件、凛央が絡んでると見て間違いなさそうだな」


「だな。あいつなら…」


「凛央って、前の異変の黒幕?そいつが、姫様と何の関係が?…まさか」


「わかるだろ。お姫様にそんなものを渡す奴は、他にいない」


「でも、私の記憶がなくなったのは…?」


「あいつは能力を奪うだけでなく、記憶も奪えたはずだ。凛央は全てを見ていて、あんたの口封じをしたんだよ」


「そういう事だったのね…」


「けど、今回のは多少楽そうだ」


「どうして?」


「あんたは、お姫様の場所を知ってるだろ?」


「ええ…別の所に行っていなければね」


「そして、まだ地上にはウイルスは広まってないんだろ?」


「今把握してる限りではね…」


「なら、前よりマシだ。そいつの居場所を教えてほしい」


「あの方は、月夜廟(つきよびょう)という所にいるはず」

すると、龍神が首をかしげた。

「月夜廟?そんなの聞いたことないぞ?」


「私たちが元いた山の奥地に、新しく建てられた所なの。

きっと、あの方は今もあそこにいる」


「山って…妖怪の山か?」


「前は確かにそう呼ばれてたわね。でも、今は創世の山と名を変えてるのよ」


「すごい名前だな」


「あそこから「創世」が始まるって意味があるそうよ」


「へえ…あれ?でも、あそこには確か…」


「恐らく、みんな姫様の戯れの犠牲になったのでしょうね」


「戯れ…か」

つまりは、ただのお遊びということか。

ある意味、凛央よりも恐ろしい動機だ。

「あの方は、まずは山に住まう者全てにウイルスを投与すると言っていた。私があそこにいた時点で、すでに山全体の半分近くの者が感染していただろうから、今頃は…。

でも、どんなに悲惨な事が起きても、どんな恐ろしい怪物が生まれても、あの方は笑顔のままでしょうね。あの方にとって、全ては「戯れ」でしかないのよ」


「恐ろしいお姫様だな」


「まあ、あいつならあり得ん事でもねえな。その山ってのは、どこにあるんだ?」


「ここを裏口から出て、真っ直ぐ進んでいけばある…お願い。どうか、あの方の野望を食い止めて」


「ああ、約束する」







姜芽「なんかヤバめな展開になってきてないか?」


龍神「そうだな…」


姜芽「そういえば、湖の掃除をした時、なんでわかさぎ料理がどうたら…なんて言ってたんだ?」


龍神「さあてなあ…?まあ原作を知ってる方なら薄々わかるんじゃないかと思うぜ?」


姜芽「…?てか、後半にちょくちょく出てきたお姫様、って誰だよ?」


龍神「それはおいおいわかってくるさ。

あと、ここからは原作ガン無視あるいはオリジナルの設定が目立ってきますのでご了承ください。それでは」


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