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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
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1-1 招待

今日もまた、朝がきた。


人々は起き出し、準備をして、職場や学校に行く。

当然ここの二人も、例外ではなかった。



「ふー」

出てきたのは、姜芽(きょうが)

いつも通り新聞受けを覗きに来たのだ。


「新聞と…ん、何だこれ?」


郵便物の中に、見慣れない青色の封筒があった。

それは2通あり、それぞれに彼ら二人の名前が宛先として書かれていた。

「俺らあての手紙…?青い封筒なんて珍しいな。とりあえず持ってくか…」





「お、ご苦労さん。丁度チャーハン出来た所だ」


家の中に戻ると、龍神(りゅうしん)の声が聞こえてきた。


「ああ、わかった。いま行くよ」


今は家にはこの二人以外は誰もいないので、生活に必要な事は二人でこなさなければならない。


ここは、人間界とは別に作られた世界「ノワール界」。

そして彼ら二人は、この世界の創造主に選ばれた集団「チームブレイブ」の1人。

しかし、この集団に属する者は誰もかれも、選ばれた者たちとは思えぬ性格をしている。

この二人も、例外ではなかった。


姜芽は人間ではなく、家族や国を守るとされる「守人」という種族だが、それらしい威厳も、正義感もない。

龍神に至っては、心を持たず無差別に人を殺める「殺人鬼」と呼ばれる種族だ。


だがそれでも何でも、誰がなんと言っても彼らはこのチームの一員だ。

それは彼らが勝手に名乗っているのではなく、この世界の創造主が決めたことなのだから。



チャーハンを食べ終わると、早速新聞…ではなく手紙に目を通す。


「そうだ、新聞じゃなくて、この手紙!

俺らに届いてたんだ」


「ん?見せてみろ。…へえ、青い封筒なんて珍しいな。

確かに俺宛の手紙だな、でも態々珍しい封筒に入れてまで送ってくるなんて、一体誰からだろう?」


青の封筒はこの世界では珍しい。

誰からの手紙なのか気にしつつも中の手紙を読んでみる。


「拝啓 姜芽(龍神)へ

そっちの調子はどうだ?

以前は、私の身勝手な動機による野蛮な行為に巻き込んでしまい、大変申し訳なかった。

あの後、私は大いに反省し、心を入れ換えた。

そして、もう二度と悪事に手を染めない、野心を抱かないと誓った。

そして、その証明と心からの詫びの気持ちを込めて、お前たち二人を、以前私が発見した世界に招待したい。

その世界の名は[幻想郷]。

発見した、というよりは偶然流れ着いた、という形だが、実に素晴らしい世界だ!

この手紙を出したら、すぐにそちらへ向かう。恐らくこの手紙をお前たちが読む頃、そちらの家の前に到着するだろう。

是非、信用して、来て欲しい!

                     凛央 」

「…」


姜芽と龍神は、少しの間黙って読んでいた。

凛央は以前、このノワール界の裏にある世界、ドラング界の魔女美嶺(みれい)と共にドラング界を乗っ取ろうとし、このノワール界をも手にしようとした、邪悪な司祭兼科学者。

更には、かつて恐ろしい生物兵器を開発していた会社の幹部でもあった。

その計画は実に巧妙で、二人も何度も踊らされた。


二人が知る限りでは、最後に研究施設の爆発に巻き込まれ、それ以降行方不明になっていたので、取り敢えず死んだ…と思っていたのだが、この手紙が事実であれば、しぶとく生き残っていたようだ。


「なんだよこれ…凛央の奴、今度は何を始めるつもりだ?てかあいつ、死んだんじゃなかったのか?」


「あいつ、あれでもまだ死んでなかったのか…。

全くしぶとい奴だ。しかし、幻想郷…だと…?」


姜芽はこの手紙を書いたのが凛央だというのは信じているが、この手紙の内容自体は信じておらず、次は一体何を企んでいるのか、と怪しんでいる。


しかし、龍神はそうでもないようだ。

姜芽は幻想郷、なんて名前は見たことも聞いたこともないのだが、龍神は知っているのだろうか。


「おいおい、まさか信じてるのか?少なくとも俺は、幻想郷なんて見たことも聞いたこともない。

おおかた、あいつまた何か企んでるんだろ?」


「…。まあ、これが嘘か本当か、表に出てみればわかることさ」


龍神がそう言うので、姜芽も取り敢えず表に出てみることにした。


「手紙には家の前、って書いてあった。本当なら、来る筈だ」


空を見つめて、本当にやって来るのか?と考えながらも待つ。

すると、

「!あれって…!」


空に丸い空間の裂け目ができ、そこから何かが入ってきた。


それは空飛ぶ船のような形で、心なしかどこかで見た事がある…ような形だった。


それはゆっくりと降りてきて、二人の前に着陸した。


船の側面にある、窓のようにも見える入り口が開き、階段が飛び出す。

そして、凛央が降りてきた。


「やあやあ、お二人さん。久しぶりだな!」


凛央は妙に陽気だ。

「…。凛央、本当にお前生きてたのか…」


「凛央、ストレートに聞こうか。今度は一体何を企んでるんだ?何をするつもりだ?」


龍神は、念を押すように聞いた。


すると凛央は少し黙ったが、やがて口を開いた。


「…。

やれやれ、疑り深いやつだ。

だがまあ、そう言われるのは当然だろうな。あんな事をした後ではな…。

だが心配するな、あの手紙にも書いた通り、私は心を入れ換えた。必要のない野望を抱く思考からは足を洗った。もう二度と、悪事はしないと心に誓った。

それに、もし仮に私が何か悪事を企んでいるとしたら、何故態々お前達を呼ぶ?

以前あれだけ散々邪魔をされた厄介者を現場へ呼ぶなんて事を、あえて邪魔者を増やすような事を、私がわざわざすると思うか?

私がそんなに馬鹿だと思うか?

…おっと、誤解されては困る。

あくまでも仮にそうだったら、という事であって、一切の野望や裏はない。これは本当だ。」


確かに、その通りだ。

以前戦ってわかった通り、凛央はそんな馬鹿ではない。

とすると、本当に改心したのだろうか。


「なら、本当なんだな?」


「もちろんだとも。でなければ、あんな世界の事をお前たちに知らせる筈も、連れていく筈もないだろう?」


「まあ、もし何か企んでたとして、その場ですぐに潰せるって意味では、ついていった方がいいな」


「とにかく、きてくれるんだな?

ならよかった。さあ、早速乗り込んでくれ!」


凛央に手を引かれ、船に乗り込む姜芽。


「お、おい!待てよ」


姜芽が乗ったのに、龍神は乗らないという訳にはいかない。


「わかったよ、俺も行くよ」


「そう来なければなあ。

さあ、ではいざ、幻想郷へ向けて、出発だ!」


船がゆっくりと浮かび上がる。


「なあ、その幻想郷って、結局どんな世界なんだよ?

おれは見たことも聞いたこともないんだが?」


姜芽の質問に答えたのは、凛央ではなかった。


「…まあ、あそこは本当にあるんだったら行ってみたいとは思ってたしな…

いい機会だ、この際どんな形でもいいから行ってみよう」


やはり、龍神は知っているようだ。


「さっきから思ってたんだけど、龍神はそこの事を知ってるのか?」


その答えを、彼が聞く事はなかった。



ガシャン!


「な、何事だ!?」


「心配するな。世界を脱出するために空間に裂け目を作り、そこを通る。そのときにくる衝撃だ。

モニターにも、どこの異常も出ていない」


「なんだそうなのか?」


そして、取り敢えず座ろうとしたその時、


「おい、来てみろよ!」


という龍神の声が聞こえてきた。

龍神は窓を覗いていた。


「どうした?」


「外を見てみろ。なんかすごいぞ!」


言われるがままに外を覗いてみると、そこには不思議な空間が広がっていた。


「おお、確かにすげえ…」


黒い空間に白、水色、赤、黄色…様々な色の線が伸びている。そしてその線は、どの色の線も一本だけだったが、直線ではなく、所々でぐにゃぐにゃと曲がっていた。


「なんか、綺麗だ。

凛央はこれを見ながら飛んでたのか…」

そんなことを呟いていると、


「二人とも聞いてほしい。予定ルートに乗ったので、あと30分程で目的地につく。その間、適当に時間潰しをしててくれ。なんなら、船内を自由に探索してもらっても構わない。危ない物は特にないし、使っている部屋自体、あまりないからな。

但し、機関室にだけは入らないで欲しい。別に何かあるという訳じゃないが、ただ、この船の心臓部故に、下手に内部機器に触られて、もし機器に異常をきたしたりしては困る、そういうことだ。いいな?」


と言われた。


「わかったわかった。じゃ、そうさせてもらうよ」


龍神は素直に応じたので、姜芽もそうすることにした。


…もちろん、すぐに船内を探索するつもりだった。


龍神はどうか知らないが、少なくとも姜芽は凛央を完全に信じた訳ではない。


この船内、そしてこの後でもし何か企んでいる、裏で進めている、というのを暗示するような言動があれば、すぐに凛央を叩き潰す。


そしてもし、この船の中にそのための道具か何かがあれば、決定的な証拠となる。


それに、仮に凛央が次の世界でも何かしようとしているとして、もしここで化けの皮を剥ぎ、凛央を倒せれば、奴の被害を被る新たな世界を、一つ減らすことができる。

凛央の計画をまた一つ、阻止できる。



そのためにも、やはりこの船の中を徹底的に調べ尽くさなければ。

そう思ったのだ。


「じゃ、俺たちはちょっと探索させてもらうぜ」


そう伝えて、扉の向こうへ行った。


『生日姜芽』

今回の主人公。元は人間だったが、この世界に来た時に「防人」という異人になり、その後紆余曲折の末に「守人」となった。

火を操る[炎操]の能力を持ち、剣や槍に変形する斧を用いる。


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