6-1EX 3つのファイル
ファイルNO.1
タイトル:無題
内容
1245年某日
この世界に来て研究を続ける事数ヶ月、ようやく新しいウイルスの生成に成功した。
もちろんまだ基盤が出来ただけに過ぎず、完成形と言えるものではないが、大きな一歩を踏み出した事は確かだと言える。
こちらへ来るのにはいろいろと手こずったが、このウイルスが完成形となればさぞや素晴らしい成果を上げられるだろう。
肝心のウイルスはBと狂妖病のウイルスを組み合わせたもので、優れた感染力を持つ事、感染体が非常に強い変異を引き起こす事が特徴だ。
具体的にどのような性質を持つのか、これから研究と調査を進めて行こうと思う。
思い返せば、今回の基盤となるウイルスの開発にあたっては、実に多大な努力をした。
ノワールではもはや研究ができなくなった私は、時間をかけてどうにか飛行船を完成させ、この世界の存在を知った。
そして世界の境界を越えられるように船を改良し、この世界を実質的に支配する化け物を嵌め、この世界に入り込んだ。
この化け物がなかなかの曲者で、少々手を焼いたが、まあ結果的には問題はなかった。
あとは、とにかくウイルスの完成を目指す。
これもしばらくかかるだろうが、止まる事はない。
これが終われば、私の計画は最終段階に入るのだ。
私は、何度でも蘇る。
私は、決して諦めない。
ファイルNO.2
タイトル:新型ウイルスの完成
内容
1245年某日
ついに完璧な新型ウイルスが完成した。
名付けて"berserk-α"。
以前開発したウイルスに改良に改良を重ねて完成した、最高傑作と呼べるウイルスだ。
この完成までに紆余曲折あったが、今回の成功は、それを補っても余りあるほどの成功であると思える。
今回のものは、それほどの自信作だ。
その変異性について調べるために、私はまず10人の男女で人間の感染者の経過観察を行った。
このウイルスは生体内に侵入すると細胞内の染色体を利用して猛スピードで増殖し、やがては細胞を破裂·崩壊させる。
そして全身でこれを繰り返し、各器官や組織の働き、形状を著しく変えてゆく。
その結果、感染者は全身の見た目が大きく変わる。
しかし、ここまでは従来のウイルスにもあった性質…というか基本的な事だ。
今回のウイルスに関して、重要かつ特異なのはここからだ。
ウイルスはある程度増殖すると、やがて脳に侵入する。
そして当然ながら脳を破壊するのだが、この際脳以外の器官は破壊せず、寧ろ働きを促進する。
また、脳を破壊すると言っても、このウイルスは破壊の仕方が少々特殊で、大脳新皮質だけをほぼ完全に破壊し、大脳旧皮質や小脳、脳幹の働きは内臓同様に活性化させる。
その結果、感情や理性といった「知性」とも呼ぶべきものがなくなり、生物としての欲求、特に食欲が増幅される。
そして目につくあらゆる動物を捕食しようとする。
結果として、感染体は知性も自我も失い、食欲と殺意のままに獲物を求めて動く、獣のような存在となる。
これだけでも十分なのだが、感染体の知能は生前より低下するもののゼロにはならず、上下関係やある程度の命令·作業なら理解できる事が判明した。
当然ながら、道具や簡単な武器の使用も可能なようだ。
これらの事から、私は新型ウイルスに感染した人間を、ノワールの言語で「生きた人形」を意味する"レノール"と呼ぶことにした。
その姿はフォルムこそ人に近いが、体の至る所から変形した骨や臓器が飛び出し、肌が変色している。
それはまさしく、人外の怪物のそれだ。
さらに亜種と呼べる変異種も複数確認している他、妖怪や魔法使いでも同様の性質を持つ感染体を確認している。
そしてこれは人間に限った話ではないが、このウイルスの最大の特徴は、感染直後には何も起きず、特定の強い感情を抱く事で変異が発現すること、発症の引き金となった感情が強いものであるほど、変異の速度とレベルが上がることにある。
これはこれまでのウイルスにはなかった性質であり、これを上手く利用すれば、変異を起こすまでは知能や外見上の変化がまったくない、使い捨ての疑似的な生体兵器を作ることが出来る。
感染経路に関しては体液感染の他、経口感染·水質汚染による感染も可能。
さらに動物であれば種族問わず感染·変異する。
つまり、多様な種族が存在するこの世界でも異常領域を起こせるということだ。
このウイルスの完成は、私にとって大きなメリットになる。
偶然のパンデミックを装ってウイルスをばら蒔いて、皆を感染させれば、あるいは…
ファイルNO.3
タイトル:無題
内容
今回の計画の肝となるウイルスは、発症と変異に「感情」が大きく関わっているという性質を持つ。
高等生物には感情がある。
その強さを糧として変異性が増し、感情が昂った時にその身を変異させるウイルスというのは、無駄に複雑なしがらみと人並みの理性、及び知能を持っているこの世界の連中を使い捨ての兵器とする上で、非常に都合がいい。
今回のウイルスはまだ完成して間もないが、すでに多くのC.S.T.及びその候補を産み出している。
Bと狂妖病のウイルス。2つの特性を合わせて強化したのは成功だったと言える。
この世界には非常に多くの種族が存在し、その多くは人のような姿をしてはいるが、その実態は未知なる力を持つ、人ならざる存在である。
中にはもはや話が通るかすらも怪しい、「怪物」と呼べる存在もいる。
そんな連中にウイルスを投与すれば、C.S.T.開発の幅が大きく広がるのは当然であり、ウイルスを広く散布すれば、偶発的に新型のC.S.T.ないしその候補が誕生する可能性も高い。
それが今回の目的の一つだが、最も大きな目的はルナスクの復活に向けての商品、転じて資金の調達だ。
ルナスクは、私の活動の原点となったと言える企業。
あそこでの経験があればこそ、私は科学者としての人生を歩めている。
あの企業こそは、私の人生であり、目的だ。
故に、私はいかに倒されようと、ルナスクが潰れようと、諦めたりなどしない。
私は、ルナスクは、不滅なのだ。




