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東方訪問記  作者: 明鏡止水
序章
2/64

プロローグ・影

朝がきた。いつもと変わらない、ごく普通の朝が。

人々が起き出してきて、人里はたちまち賑やかになる。

人間の中に混ざる妖怪たちも悪さをせず、人間と仲良く話したり一緒に歩いたりしている。


私は、朝イチで行きつけの団子屋に行く。

先日この団子屋の団子を初めて食べたのだけど、その時、ここの団子が気に入った。

それ以降、1日一回はここにくるのが、ここ数日の日課となっている。

いつもはみたらしを食べてるけど、今日はゴマにした。

これもこれで美味しい。やっぱりここのだんご屋は当たりだ。


店先でだんごを食べながら、空を見上げる。

人間以外にしか感染しない新種の病、通称"狂妖病"の流行から2ヶ月。最近は異変もトラブルも(私が知ってる限り)起きてない。

里は至って穏やかだし、外来人が来たという話も聞こえてこなければ、人間が妖怪や吸血鬼に襲われたという話も聞かない。

まさしく、平和そのものだ。


…隙間の大妖怪が最近姿を見せないのは少し気がかりだけど、まあ大したことじゃない。

こんな日常が、ずっと進んでくれればいいのだけど。




森の中を歩いていたら、何かの気配を感じ、その方向に薙刀を向けた。

「ばあっ!」

…ルーミアが飛び出してきた。


「あら、宵闇の妖怪さん」


「あ!

良いところで会ったのだ、私お腹空いてるから…」


「もしかして、私を食べるつもり?なら喜んで相手するけど?」


「え!?ち、違うよ、軽い冗談だよ…

君に喧嘩を売るような真似はしないのだー」


「そうね。それが身のためね」


「…ねえ、変な噂を知ってる?」


「変な噂?」


「人間や妖怪が、突然暴れだすって噂」


「それ、聞いたことある。

ついさっきまで笑ってたり泣いてたりした奴がいきなり暴れだして、近くの人を襲う…って話でしょ?」


「そうそう。それなんだけど…」


「ただの噂じゃないの?

少なくとも、私の周りではそんな奴見たことないし。あんたもそうでしょ?」


「私も直接見たことはないけど…この話自体は本当っぽい」


「どういうこと?」


「前聞いた話なんだけどね。

この前、お寺である人間の葬式が行われた。式の間、家族は全員泣いていた。

でも突然、家族の人達は一斉に暴れだした。

そして、参列に来てた人達を食い殺した…らしいよ」


「それ本当?」


慧音(けいね)が言ってたのだ。

それに、私もこの前お寺の前を通った時、なんか騒ぎ声を聞いたんだ。あの時は、お寺で何してるんだろ?くらいにしか思わなかったけどね」


「へえ…

でもそれって、単純に精神的にきつくて発狂したとか、そういうのじゃなくて?」


「人間って、発狂して他の人間を食い殺すの?

それに…暴れだした人達は取り押さえられて、医者の前に連れていかれたんだけど、ずっとボーッとしてて、何を聞かれても答えなかったんだって。

その人たちは皆、体のあちこちが変色して、手とか肩が変な形になってたんだって。医者の話だと、人間がこんな変化を遂げるのはおかしい、もしかしたら狂妖病の亜種か、別の種類の新しい病気かもしれない、って…」


「だとしたら今、新しい病気が流行ってるってこと?」


「かも、って話だよ。これ以上は私も知らない。

けど、もし本当にそうだとしたら、前の件があるから怖い。どうすればいいのかな…って」


「まあそうよね。

…それで、私にも意見を聞こうと思ったの?

悪いけど、それは私にもわかんない。」


「そうなのかー…

でも、仕方ないのかー」

ルーミアはそう言って、どこかへ去っていった。


「はあ…」

私は再び歩きだす。

その途中、考えた。

(新しい病気…ねえ。

狂妖病騒ぎが落ち着いたと思ったら、また新しい病が出てくるなんて…)

この話は少し前から聞いていた。でも実際に、その状態に陥った奴を見たことはなかった。

けど、あいつがああ言うってことは…

もしかしたら、本当に新しい病が流行ってきてるのかもしれない。


(それにしても、2ヶ月やそこらの間に、2つも新しい病気が流行るなんて、なんか変じゃない?

もしかして、異変?

…いや、まさかね。病気の流行と異変は別物だしね)


それにこの世界にはあいつがいる。

もし異変であるなら、遅かれ早かれあいつが動いてくれる。

今までもそうだった。だから私がどうこうする必要はないだろう。

そう思うと安心できた。


あとは…

帰って昼寝しようかな。




それから1ヶ月。

私は、毎年人里で行われる祭りに参加した。

そして祭りが終わった時、見てしまった。


私のそばを歩いていたカップル。

その男の方がいきなり暴れだして女に襲いかかり、なんと肩を食い散らかした。

そして顔を上げ、次は私に向かってきた。

顔や腕が変色していて、目は焦点が合ってない。

…人間というより、ゾンビのようだった。


私は相手を突き刺した、けどそれだけじゃ死ななかった。

頭から振り下ろして、真っ二つにして、ようやく死んだ。

しかも、その血は紫色だった。

…やっぱり、もうこいつは人間じゃない。


普通の人間が突然半狂乱状態になり、他の人を襲い、食い殺す。

そんな事が本当にあるのか、と疑っていた。

でも、もう疑いようがなかった。



新しい病気じゃないかと医者に聞いてみたら、調査中だと言っていた。


でもこのまま、終息をゆっくり待つわけにもいかない。

そこで何か行動を起こそうと考えた。

でも、具体的にどうするの?

その時、ふと(ゆかり)の事を思い出した。


この所、あいつを全く見かけない。

それに、外来人も全く見ない。あいつは定期的に外来人を連れてくるはずなのに。

医者も、巫女も、最近見ないと言っていた。

…あいつらは定期的に会ってると思ったんだけど。

なんか変じゃない?


…思い返せば、前の狂妖病騒動の時も変だった。

(今回もそうだけど)異変と言ってもいい状況なのに、例の巫女が動かない。

何かおかしいような気がする。


今は、多くの住人が特にいつもとかわりなく過ごしている。

しかし、このままだとこの世界が狂う…いや、もう狂ってるのかもしれない。

とにかく、何もしないのはいけない、今の幻想郷は何かがおかしいと、私の中の何かが伝えている。

私はたまらずに走り出した。



とりあえず紫の家にきた。

いつもはあいつがいないまでも、式神たちがいるはず。

でも今回は誰もいなかった。

この時、私は「疑い」が「確信」に変わりつつあった。


家に上がる。

リビングの机に、何か書かれた紙が置かれている…



     「再構築計画」指示書


今回のウイルスについて

今回使用するのは狂犬病の遺伝子を組み換え、霊長類を除く哺乳類にのみ感染·変異するように改良した"狂妖病"と、bの遺伝子を組み合わせたウイルスである。

現段階で判明している自覚症状として、感染者は手足の震え、発汗、発熱、続いて骨や筋肉組織の変質、自我の消失、昏睡、狂暴化を引き起こす。

まだ開発段階であるため不明な点が多く、データも不足している。 

そこで今回、このウイルスの研究を飛躍的に進めるためのプランを企画した。それが今回の計画である。


パンデミック

開発したウイルスのサンプルを散布し、人為的パンデミックを引き起こす。

目的は各種族間での感染ルートと感染確率の調査、感染者の変貌などの情報及び感染体のサンプル·臨床データの確保。


使用サンプルと散布手段

ver1.2.4を使用し、専用散布機を用いて散布する。

散布場所は人里上空と妖怪の山とする。

妖怪の山は既に制圧済みだが感染者に襲われる可能性を考慮し、早急に作戦を遂行し、撤退すること。

また、神社には近寄らないこと。

今回の計画の遂行にあたり、妨げになり得る者は前もって動きを封じておくので、その点に関しては心配は不要。


感染スピードと感染拡大の予想

計算では、一人の感染者が出た場合、地上全域が3日程度で壊滅状態になるという結果が出た。

一人の感染者の場合でもこのような凄まじい結果が出たので、実際に空中から大量に散布するとなれば、どれほどの速度で感染が拡大していくのか想像もつかない。


任務

至って簡単。

ウイルス散布機を作戦のポイントまで動かし、作動させる。

そして速やかに撤収する。これだけだ。


最後に

今回の計画は、私にとっても一大プロジェクトだ。

諸君らの働きに、私は期待している。

この計画の向こうには、全てが完璧な、新しい世界がある。

私の目的は、この惨めで浅はかな、偽りの楽園の再構築。

本計画はその第一歩となる。必ず成功させろ!    」




「…」

私は言葉を失った。

今の異変を解決するどころか、もっと重大な事を知ってしまった。

これの意味はなんとなくわかる…

外から来た何者かが、この世界を滅ぼそうとしている。

そして紫がこれまで人前に現れなかったのは…。

紫の家にこんなものがある理由は…。


「これはこれは、能面娘ではないか」

後ろから声がした。

そこには、1人の女が立っていた。

私よりも背が高くて、見慣れない服を着てる。

外来人に違いない。


「…あんた!この紙の内容、どういうこと!?

紫は?紫はどこにいるの!?」


「内容はそのままだ。

そして八雲紫はもうこの世に存在しない」


「存在しない…?って、どういうこと?

ていうか、あんたは…」


「お察しの通り、私は外界から来た。

ある目的のため、今日までさまざまな事を行ってきた。異変を解決できる連中が動き出さなかったのも、私の所業だ」


「なんでそんな事を…」


「それを読んでわからなかったか?私がこの世界を再構築するためだ」


「ふざけないで!再構築もなにも、病気をばら蒔いて、いい事なんてある訳ない!

この世界は、あんたなんかのものじゃない!

今すぐ、この世界を出ていきなさい!」


「その言葉に従うと思うか?

計画は既に遂行された。あとはウイルスの拡大を待つのみ」


「もう…?てことは、まさか!」


「今の疫病の流行は、私が起こしたものだ。

今は自覚症状のある者が少ないだけ。これからどんどん増えていく。

人間のみならず、あらゆる種族に拡大して行き、最後にはこの世界の住人全てに広がる。

それからもう一つ、面白い事を教えてやろう。

感染者はみな、あるタイミングで怪物化する。

即ち、いずれこの世界の住人全てが、異形の化物になる。勿論お前も、お前のお仲間もな…」


「そんなこと、私が許さない!ここで、あんたの首を落とす!」

私は薙刀を抜いた。

でもその途端、何故か体が動かなくなった。


「な…!」


「…愚かな。血の気の多い奴と愚か者は、いつでも損をする。

だがお前の場合は行動力が元で、身を滅ぼすことになる。

この世界の哀れな住人どもと同じ、人形となる…」


「私は人形なんかじゃないし、絶対そんなものにならない」


「口では何とでも言える。実に人間臭い妖怪だな」


「私をどうする気?殺すつもり?」


「殺す訳がない。大切な人形…いや、商品のベースなのだからな」


「商品…?」

こいつの言ってる意味はよくわからない。

けど…


「私はどうなってもいい…けど、覚えときなさいよ!」


「何をだ?」


「あんたの企みは失敗する。いつか、あんたの計画を止める奴が絶対に現れる。あんたの計画は、途中で挫折するわ、絶対に…」


「遺言がそれか。(つくづく)哀れな妖怪だな。大人しくしていれば、気づかぬうちに死ねたものを」

女は私に針?みたいな物を刺した。

これはただの針じゃない。何かが入ってくるような感じが…


「がっ…何…これ…?」

そして…

私は意識を失った。






「この世で損をするのは馬鹿だとばかり思っていたが、違ったようだな。あまりに賢すぎる、知りすぎるのも考えものだ。

しかし…こいつなら優秀な素体になるだろう」



女は妖怪を持ち上げた。


「さて、再構築の続きだ。

楽園の住人どもよ、諸君らが優秀な兵器になる日を心待ちにしているぞ…」










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