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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
17/64

5-3 化け猫

魔力で変異した猫の化け物。

人間の死者の肉体や骨・魂を操る能力を持ち、闇と火には強いが、光には弱い。

元々は烏の化け物などと共にこいしの姉に仕えていたが、現在は洗脳され正気を失っている。

「…!!」


こいしの頭は裂け、醜い赤色の肉塊が飛び出した。

目は大きく見開かれ、胸から鋭い骨が飛び出した。

足からも、腕からも、血が迸り、異形の姿を現す。


見る間にこいしは、おぞましい怪物となった。


「ずいぶん早いご登場だな…!」


龍神の言葉に反応するように、怪物は彼に襲いかかった。

異様なまでに太くいかつくなったその両腕で、彼を挟み込もうとした。


「おっと」

龍神はバク宙をして躱しつつ、魔導書を取り出して魔法を放った。

「[カオス]」


威力自体は控えめだが、相手の魔法や属性への耐性を無視して攻撃できる闇の魔法。

演出としては、最初に一つの小さな黒い球体が現れ、そこから放射状に黒と白の光線が飛び散り、最後には球体自体も爆発四散する、というもの。


姜芽は魔法系ではないし、闇よりは光に適性があるので、あまり深くは知らない。

だが、あの演出はなかなか好きだったりする。


龍神が闇に適性があり、かつ優れた魔力を持っているので、必然的にあの魔法をよく見かける。


怪物は、多少はダメージを受けたようだった。

そして、龍神目掛けて緑色の液体を吐きかけてきた。

龍神は着地直後だったのもあり、食らってしまった。


それは酸のようだった…体が溶けて崩れるような事はなかったが、それでも皮膚の広い範囲が溶け、激痛が走った。


「大丈夫か!」


「あ…あぁ…」

そうしているうちに姜芽の事も狙ってきたので、ジャンプで躱す。

そして背後に回り込み、自身も魔導書を開いた。


「[フレイマー]」

こちらは火の上級魔法。

姜芽の足元から大きな火球が浮き出し、一度爆散。

その後、7つの欠片に分かれた火が一斉に相手に襲いかかる、というもの。


ノワールの魔導書を用いた魔法には基本的に初級・中級・上級・超上級の四段階があり、上のものほど威力がある一方、魔力や使用者の技量、適性が求められるようになる。

姜芽は上級魔法ならいくつか使えるが、超上級となると火属性と光属性しか使えない。


とは言え、大抵の敵には上級魔法でも十分通る。

なので、今回もまた、火の上級魔法を使った。


ダメージ自体は通ったようだったが、致命傷には至っておらず、反撃もしてきた。

怪物は左腕を細長い形状に変え、それを鞭のようにして薙ぎ払う。

結構なパワーがあり、姜芽は霧の中壁にぶち当たるまで吹っ飛ばされた。


「…」

背中を強く打ったが、どうにか立ち上がって戻った。


「姜芽…無事か!」


「ああ。…しかし、地味に耐えるな」


「変異して耐久も上がったか…。だが、こんなので時間食ってる場合じゃないんだよな」


龍神は怪物の飛びかかりを避けながら、魔弾を放った。

そして怪物が怯み、動きを止めた隙に、姜芽が飛び込んだ。


「[バイルバラッド]」

斧に魔力を込め、その頭の肉塊に勢いよく振り下ろす。

血が迸り、怪物は膝をつく。

姜芽はそこに、体術を決めた。


「[マッドスプラッシュ]」


姜芽のアッパーようの一撃で、怪物は血を飛び散らせながら倒れた。


…と思ったら、また立ち上がってきた。

「しぶといな」

姜芽がもう一度斧を振り下ろすと、今度は確実に息の根が止まった。






後は、ひたすら進むしかない…のだが、前が全く見えないので、闇雲に進んでいく他ない。

そして…



「おっと、出てきたな…」

少し進むと、例の化け物が出てくる。

今度のは、地上で見かけたものよりも力が強かったり、棍棒などの武器を持っていたりした。

龍神曰く、「妖怪ベースのもの」だという。


「雑魚妖怪どもを感染させたか…。まあ、大した事はないだろうけどな」


「でも、この視界じゃ危ないぞ」


「それもそうだな。気を付けていこう」


道としては、段差やトラップなどもなく、至って平坦なものだった。

時折現れる化け物も、大して強くもない。


やはり、視界がネックになっている。

真っ黒な霧…

それは、あたりを夜のようにしている。


「龍神、この霧…」


「ああ、ただの霧じゃないな」

二人とも、この霧から魔力を感じていた。

恐らくは、何者かが二人を妨害しようとしているのだろう。


「…っ」

そうしている間にも化け物が現れ、姜芽に襲いかかる。

噛みつきを避け、後頭部に斧を振るうと、そのまま首を切断できた。


「ふう…危ないな。早いとこ、この霧を抜けたいな」

 

「それは無理だね」

高い声と共に、霧の中から赤髪の女が現れた。


「…お前は!」


「あんたは…あたしを知ってるね?でも、言わなくていい。だって、あんた達は…この霧の中から出られないんだから」


女が両手に青い光の玉を作り出すと、化け物たちが現れる。

そして、それらが一斉に向かってくる。


「っ!」


「あんたでも、こいつらの事は知らないだろう?こいつらは、とある方からもらった、新しいあたしの下僕さ」


「となると…やっぱり、こいつらはゾンビの類いか!」


「うーん、厳密にはちょっと違うんだけど…まあ、そんなところだね。

こいつらはほぼ無限にいる。あたしがいる限りは…ね」


それを聞いて、姜芽は理解した。

「なるほど…。つまりは、お前を倒せばケリがつくわけだな」


「察しが良いね。けど、あんた達にあたしを殺れるかな?」


女は青いドクロの形をした魔弾を生成し、

「[レイスマター]」

一斉に飛ばしてきた。


姜芽は手から火を放ち、それらを焼き払った。

「へえ、あんた火かい。なら、仲良くなれそうだね」


「化け物と仲良くなるのは勘弁だな」


「化け物?言ってくれるね。うちらに言わせりゃ、あんた達の方がよっぽど化け物だけどねぇ」


「俺達は異人、進化した人間だ」


「そうかい。ならあたしも妖怪…進化した猫だ。化け物呼ばわりしないでもらおうか」


そして、女は次は巨大なガス状の手を生成してきた。

「二人まとめて潰してやるよ…[ネクログローヴァー]」


手はぱっと広がり、二人を握ろうとしてきた。

「[ストーム]」

龍神が風魔法を使い、手を吹き飛ばす。


「ちっ…あんた、ウザいから先にやらせてもらうね」


女は、目を光らせて手を上げた。

「[亡者の行進]」

霧の中から、大量の化け物が現れる。


「!」

姜芽は斧を構えたが、奴らの狙いは龍神だけのようだ。

「大家族だな…。いいぜ、まとめて相手してやる」

龍神は刀を顔の前で横に構え、そして…


「奥義 [猛る雷神の剣舞]」

猛スピードで飛び回り、雷の力を宿した刀で敵を全て斬りつける。

結果的に、数秒で化け物を全滅させた。


「なっ…!あんた、何者だ…!」

女は、驚きの声をあげた。


「お前が知る必要はない。なぜなら…」


ここで、彼の背後から姜芽が高々とジャンプしてくる。

そして、女目掛けて斧を振り下ろした。


「…」

女は斧を躱したが、その直後に女の足元の床が割れ、同時に燃え上がった。


「奥義 [燃ゆる大地の叩き割り]」


姜芽は、さりげなく技を使っていたのだ。


「がっ…!」

女は割れ目に飲み込まれそうになったが、辛うじて回避。

そして、次は姜芽を捉えた。


「あんたも厄介だね…これで片付けてやる!屍符 [デスロード]」


女が手を払うと、女の前の床から姜芽に向けて一直線に黒い人の手のようなものが連鎖的に現れ、掴もうとしてきた。

姜芽はそれをジャンプで躱しつつ、女に斬りかかる。


「斧技 [ヴォルトスタンプ]」


女は黒い結界を張って防いだ。



それを見て、姜芽は俄に驚いた。

いや、姜芽だけではない。龍神もだ。


なぜなら、それは明らかにノワールの術だったからだ。


「…!」


「驚いたかい?今のは…他ならぬあんた達の世界の術。

あの方から、教えてもらったのさ」


今のは、ノワールの闇の術。

となると…


「[マゥル]」

虚空に黒い球体が現れ、その中心から吸い込まれるように消える。

そして、姜芽の胸元に現れて破裂するようにして攻撃してくる。


「…!」

これは、ノワールの闇魔法だ。

「どうだい?懐かしいだろう?」


「…」


そして、女はさらに技を使った。

「[グルードール]」

紫色の霧が現れ、二人に向かってくる。


「[ホワイトフラッシュ]!」

姜芽が光の術を唱えると、霧は消えた。


「ぐあっ…!」


心なしか、いまので女がダメージを受けたようにも思えた。

「…そうか。お前、光に弱いのか…」


「…くっ、気付いたか。けど、それを知った所で、あんた達にはどうにもきないだろう!」


「できるんだな、それが!」


姜芽は斧を構え、術を放つ。


「光法 [白夜の霧]」


闇の中に、白い霧が放たれる。



それを受けた女は、もがき苦しんだ。


「あぁっ…!」


「やっぱりアンデッド使いだな。雷法 [サンダースパイン]」


龍神が雷で攻撃する術を使った所に、姜芽は技を決める。


「斧技 [骸体断]」


斧を横に振るい、女の腹を水平に切る。


血を飛び散らし、女は倒れた。





『術と魔法』

ノワールでは魔法は誰でも扱える。

魔法のうち、異人が扱えるもので、かつ人間が使う魔法より強力なものを術と呼ぶ。

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