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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
14/64

4-3 謁見

この地域を実質的に支配する、血塗れの吸血鬼。

幼いながら、どこか高貴な印象を受けるその姿を見た人間は、生きて館を出る事は叶わない。

神と呼ばれた存在が鍛えた名槍を扱うとも、相手の辿る運命を見通す能力を持っているとも言われる。


道中ではちょくちょく、妙なものが襲いかかってきた。

それは、羽の生えた人間のメイド…のようなものだった。


龍神によれば、あれはここの主の牙にかかった人間の成れの果てであるという。

「この世界では、吸血鬼に殺された人間はまずゾンビになる。で、それは日光に当たると消滅する。

でも、それは肉体だけの話で、魂は消えずに彷徨い続ける。

その魂を作り物の肉体に閉じ込めたものが、あれだ。

『妖精メイド』なんて呼ばれてるが、妖精でもなければメイドでもない。ただの、生きた死人…化け物どもの奴隷だ」


それらは、いずれも短剣を持って襲いかかってきた。

姜芽からすると少し分が悪い相手だが、さほど苦戦はせずに蹴散らせた。


「数は結構だが、大したことないな」


「そりゃ、戦闘員みたいなもんだからな。

それより、ここのボスがメインなんでな」


そんな会話をしながら進んでいくうちに、立派な両開きの扉の前に来た。


「ここ…っぽいな」


「だな。…あ、ちょっと待ってくれ」

龍神はなぜかサングラスをかけ、ワイヤレスイヤホンを耳に入れた。


謎の行為に疑問を感じながらも、姜芽は左側、龍神は右側の取っ手を掴む。


「準備はいいか?

ここの領主様は、短気で血の気の多いお方だ。

くれぐれも失礼なく…そして、退屈させないようにな」


「…了解だ」


「それじゃ、行くぞ…!」


二人は、力いっぱい扉を引いた。





そこには、この館に入る時からここまでに出会った二人が。

「あれ、お前らは…」


「さっきぶりだな」


「お二人揃って、なんでここにいる?」


「あんた達の最期を…見届けるためよ」

メイドは、落とされた腕を辛うじて繋げたらしく、まだ繋ぎ目の部分を押えている。


「そうかそうかい。で…」

龍神が言いかけた時、向こうの二人の間にいた人物が喋った。


「二人の外来人よ、よくぞここまで来た」


それは後ろを向いたまま、語りかけてきた。


「ん…なんだ、もしかしてあんたが…?」


「そう…私がこの館の主。名前は…言うまでもないか。

お前の相方が、何もかも知っているはずだからな」


龍神は、鼻で笑った。

「さすがだな、お嬢様。よーくわかっておられる…」


「当然でしょう。ここにお前達が来ることも、今までのお前達の動向も、全てお見通しよ。

でも…ここに来たのは命取りだった」


そして、女は振り向いた。


「私は、この世界で最悪の悪魔と呼ばれる吸血鬼。

外来人よ…せっかくだ。お前達には、私が直々に洗礼を見舞ってやる」


蝙蝠ようの翼を生やした女。

その顔は子供のようだが、どこか高貴な印象を受ける、不思議な顔だった。

「洗礼…だと?」


「そう。

私の前に現れた者は、誰であろうと殺す。

しかし、私はお前達の強さを知っているし、認めている。

そこでだ…一度だけ、機会をやる」


女は、優しい口調で喋りだした。

「これから100年間、私の下僕となりなさい。

そして、有能だったら、私と同じ存在にして自立させてあげる。無能だったら…」


一度言葉を切り、その紅い瞳を光らせ、牙を覗かせた。


「私の糧となってもらう。…どう?

この話を受けるなら、少なくとも今後100年はあなた達の命は奪わないし、生活も私が保証する。

悪い話ではないと思うのだけど?」


「…」

姜芽は、考えるフリをした。

なぜなら、答えは始めから決まっているからだ。


「断る」


「あらそう。なら…」


女は、不気味に笑った。


「最初の予定通り、あなた達を死なせてあげる」


「上等じゃねえか。やってみろよ」


姜芽は武器を構えようとしたが、どうやら違うようだった。


「…そうじゃない」


「え?」


「私は、お前達と戦って殺すつもりはない。

もっと、私の恐ろしさを誇示できる方法で殺す」


「どういう事だ」


すると、龍神が口を開く。

「そうか、能力…だな」


「その通り。

…姜芽、だったな。最期に教えてやる、私は運命を操る能力を持っている。

故に、お前達の死に様も容易に決められるのよ」


「…俺の名前をご存知だったか」


「当然だ。…さて、まずはどちらから殺してやろうか」


女はじろじろと二人を交互に見、龍神を捉えた。


「…よし、まずはお前からだ」


すると、館の住人二人が騒ぎ出した。

「来ましたね…」


「これで、あいつも終わりね」


(大丈夫…なのか…?)

姜芽は、龍神の身が心配だった。


さて、蝙蝠女は宙に浮き上がり、目を光らせて龍神に語りかける。

「龍神…それがお前の名だったな。

私の言葉を、よく聞くがいい…」


「ああ、聞いてやるさ。

けど、あんたみたいなへなちょこの予言なんぞ当たるもんか」


すると、女は翼を大きく広げて龍神に突っかかり、

「な、なんだと、へなちょこだと…?私の力を知っているなら、私の予言が、当たるか当たらないか…」

とすごんだ。

「聞いてやるって言ってんだろ。けど、もし予言が外れたら、素直に言う事を聞けよ、このお子ちゃま吸血鬼」


女は恐ろしい目で龍神を睨みつけ、今にも飛びかからんばかりの形相をした。

しかし、龍神は構わず続ける。


「その代わり、まあそんな事は万に一つもないだろうが、もしあんたの予言が当たったら、俺はあんたの望みをなんでも聞いてやる。

わかったか、このアホンダラのかりちゅま小娘!」


「き、貴様…言ったな…?

…よし、もし予言が外れたら、貴様らの望みを聞いてやる。だが、もし予言が当たったら…貴様は、半永久的に私の部下としてくれる。いいな…?」


「なんでもいい。ほら、早くやれよ」

女は怒りに震えながら、深呼吸して予言を始めた。


「龍神よ…お前は、この後この館の屋上に出る。

そして、この館の時計が8時を指す時…地上へ飛び降りて生を終えるのだ…」


女が予言をしている間、龍神はポケットに手を入れてじっとしていた。

そして、予言が終わった後もそのままだった。


「おい、龍神?」


姜芽に揺すられ、龍神ははっとしたようだった。

「…あっ。姜芽、終わったよな?」


「ああ。8時きっかりに屋上から飛び降りる、って言ってたよな…」


「屋上のどこでだ?」


「そこまでは言ってなかったよな?」


「…そうか。よし、行こう」


向こうの3人は、不敵に笑いながらも手は出さずに屋上へ登らせてくれた。


そして…




「ここにするか」

龍神はサングラスとイヤホンを外し、時計台のすぐ後ろの所で止まった。


「ここで、8時きっかりに飛び降りる、だよな?」


「あいつはそう言ってたな」


二人がそう話している間、メイド達はニヤニヤしながら話していた。


「これで、奴らもお嬢様の力を思い知りますね…」


「私達に勝てても、お嬢様には勝てなかった、って訳ね。いい気味だわ」


正直、姜芽は不安だった。

本当に、予言は外れるのか?

龍神は、生き残れるのか?


8時まで、あと1分。

姜芽は、心臓をバクバクさせながらその時を待った。




そして…


時針が8時を指し、時計が鳴り響く。

それと同時に、龍神は飛び降り…







なかった。


「…」

皆は黙っていたが、分針が1分を指しても龍神が動かないのを見て、喋りだした。


「龍神!よかったよ…!」


「はは、ヒヤヒヤさせて悪かったな、姜芽。…さて」

龍神は、領主の方を見た。


「残念だったな。ご覧の通り、あんたの予言は外れた」

女は、悔しさと怒りの入り混じった、複雑な表情を浮かべた。

「な、なんで…?どうして…?」


「そんな事は、後で"ゆっくり"考えるんだな。

とにかく、約束通り話を聞いてもらうぞ」


「…!」

女は、驚きを隠せず、口をあんぐりと開けた。





「…」

彼女は黙り込み、考えた。


そんなはずはない。

今まで、私の予言は全て当たってきた。

こいつにだけ通じないなんて、そんな事があるはずない。

これは、何か…何かある。




…そう言えば、奴はなぜかサングラスをかけていた。

しかも、私の予言が終わっても微動だにしなかった。


…もしや。



なるほど。

そうか、そういうことか。








「…!!」

女は、手を握って震え出した。


「ん?どうした?」


「やったな…」


「え?」


「お前…私を騙したな!」


「あんたと魅魔と青娥には言われたくねえなあ!」


「貴様ぁ…!!」


女は飛び上がり、槍を抜いた。


「二人まとめて串刺しにしてくれる!

私をバカにしたこと…後悔させてやる!!」


今度こそ、武器を使う時だ。

「やってみな!」


「スピア・オブ・オーディン!」

女の槍技を見て、龍神はほえ?ととぼけた声をあげた。


「十八番の技じゃないのな。…もしかして、名前変えたか?」


「…!!」

女はもはや返答すらせず、彼に噛みつこうとした。


「おっと」

姜芽が女の手に斧を振るい、それを阻止する。


女は手を引き、その甲から赤黒い血が飛び散る。



「変な色の血してんな」

女は、姜芽の首に槍を突き立てようとした。

姜芽はそれを躱し、女の首に炎を纏わせた拳を入れた。


女は姜芽の肩を掴み、牙を剥く。

「[ファイアガード]」

火のバリアを張って防ぎつつ、斧を振り上げる。


そして、女と姜芽は睨み合う。


「俺が相手だ。…吸血鬼って聞いたが、あんた、どれくらい強いんだ?」


「…」

女は、姜芽を見る目つきを少しだけ和らげた。


「そうか、あんたは私を知らないんだっけ。

…まあいいわ。これから身をもって知る事だし、言う必要はないわね」


「確かに俺は、あんたの事は知らない。

けど、強い奴だってことはなんとなくわかる」


「…へえ、多少は見る目があるのね。あんたに関しては元々欲しかったけど、尚更欲しくなったわ」


「なんで俺を欲する?」


「外来人、あるいは男。どちらかだけでも貴重なのに、その両方となれば、希少価値も当然高い。

そして、そんなものを欲しいと思うのは当然でしょう?」


「…そうか。つまり、あんたは俺達をモノとして見てる訳だな」


姜芽は斧を火で包む。


「俺はモノじゃない。そして、あんたのものになるつもりもない。[ロードスフレイム]」


そして斧を振りかぶって高く飛び上がり、

「斧技 [アクスインパクト]」

女に斧を叩きつける。


槍で受け止められたが、火が武器を伝って女の手を燃やした。

女が手を離したその隙に、燃え盛る斧を振り上げて切り払う。


「奥義 [炎斧残月]」



女の体を縦に一直線に斬り裂いた。


「…っ!」


女は一瞬怯んだが、すぐにまた突っかかってきた。




少しの間やり合って、姜芽は直感した。

こいつは、かなりの使い手だ。


回復力も高いようなので、長期戦は分が悪いと判断した。

そこで…


「…そうか、あんたは運命を操るんだな…」


「そうよ。でも、あんたには未来はないけどね」


「どうだろうな…」

自身の体を火で包み、この場所に残る女の力と自身の力を組み合わせた、術を放つ。


「[運命ヲ焼キ払ウ炎]」


猛々しく燃え盛る炎が、女とそのまわりを包む。


女はしばらくもがいていたが、やがて倒れた。






タネあかし



龍神「さてさて、今回のレミリアお嬢様は、なかなかの相手だったな」


姜芽「あいつそういう名前だったのか。

で、今回はどういうトリックを使ったんだ?」


龍神「その前に、今回のキーワードだ。

『未来の事は誰にもわからない』」


姜芽「どういう事だ?」


龍神「そのままさ。だいたい、予言なんて十中八九インチキさ。

もし予言が当たったら、考えられるのは2つ。

一つは、『ただの偶然』。

そしてもう一つは、『当たるように小細工している』」


姜芽「えーと、つまり?」


龍神「レミリアの能力は、相手の運命を見て、それに向かわせる事だと言われてる。

でもな、実際はちょっと違うんだ」


姜芽「どう違うんだ?」


龍神「あいつの能力は、正確には、自分が相手に辿らせたい運命をイメージして、それに相手が意図せずして向かうように仕向ける、って能力なんだ」


姜芽「つまり、なんだ…要は催眠術みたいなもんってことか?」


龍神「そんな感じだ。

ただ、あいつの場合は…まあ、妖術みたいなもんだ。

あいつは目を光らせてただろ?あれがヒントだ。

あいつの目を見て予言を聞くと、無意識に奴が言った通りの運命を辿るように行動してしまうのさ」


姜芽「ほぼほぼ催眠術だな、それ」


龍神「だから、俺は予言が始まってすぐに目を瞑って、音楽を聞いて妖術をシャットアウトしたんだ」


姜芽「予言が終わってもじっとしてたのは、そういう事だったのか。

なら、あいつをボロクソに言ってたのは何か意味あるのか?」


龍神「あいつは気が短いし、プライドが高い。しかも、長年生きてる割には煽り耐性が全然ない。

だから、わざとバカにしまくってキレさせて、冷静さを欠かせたのさ。万一細工に気づかれたら、何もかも台無しだからな」


姜芽「なるほどな。

てかあいつ、もしかしたら結構強いんじゃないか?

やり合ってみた感じ、かなり手慣れの槍使いだったぞ」


龍神「確かに、こっちの連中の中では強い方だとは聞く。

だがなあ…まあ、俺としては正直、相手には不足があると思うよ」


姜芽「あんたにとってはそうかもな。

けどよ、俺からすりゃあいつも十分おっかなかったよ」


龍神「慣れないとそうかもな」


姜芽「てか、音楽聞いてた…って何の曲聞いてたんだ?」


龍神「ん?そんなの決まってるだろ。『Bad Apple!!』さ」


姜芽「…」


龍神「…あ、そうそう。これから先、もっともっとおっかないのとかグロいシーンが多々出てくるから、耐性ない方はご注意下さいですだぜ」


姜芽「今回の話は、今までの投稿分より長めになってしまいましたが、これからもこういう回がちょくちょくあるかと思いますので、ご了承ください。

それでは、また来週〜」


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