3-2 一騒ぎ
占星術を得意とする人間の占い師。
実際には、現実から魂を飛ばし、魔力で形成した肉体を持って活動している。
外との境界を任意で自由に越えられる数少ない存在。
執念深く強欲な、今は亡き国の帝の娘。
元は人間だったが、誤った選択をした。
永い時が経った今、死ぬ事も仲間を作る事も許されず、終わりなき孤独を味わい続けている。
南へ向かうと、すぐにその占い師を見つけられた。
道端で店を構える易者。
あれが、そうなのだろう。
「お、いたいた」
近づくと、それは二人にすぐ気づいた。
「お待ちしておりました」
「えっ?」
「私は、この世界で占い師をやっている蓮子と申します。
あなた達が来るのを、待っていました」
「待ってた…って?」
「あなた達は、いずれこの異変を解決する存在。
しかし、それが実現するかはまだ明らかではありません」
「えーっと、つまり…?」
「私の役目は、あなた達が異変を解決する、という結末に到るための助言と案内をすること。いずれあなた達がここに来ることも、知っていました」
よくわからないが、とりあえずこいつは預言者的な存在なのか。
「じゃ、俺達がこれからどうすればいいかわかるのか?」
「ええ、既に占っています。
町の北通りへ向かって下さい。そこで、次のステップへの扉を開けるでしょう」
「北、だな?」
「はい。あなた達なら、あの怪物達とも渡り合えるでしょう」
「言ってくれるな。…よし、行こう」
北の通りへ来た。
特にこれと言った事はない…
と思いきや、突然甲高い悲鳴が響いた。
「何だ!?」
悲鳴の方を見ると、一人の男が女に噛みついていた。
さらに、他の所でも同様の事が起きていた。
「始まったか…」
姜芽は武器は抜かず、手に火球を産み出した。
そして、人を襲う化け物めがけて飛ばした。
化け物は吹っ飛び、炎に巻かれて動かなくなった。
同様に龍神も、手を突き出す。
一筋の電撃が放たれ、人間を追う化け物に刺さる。
化け物は痺れ、倒れた。
「生き残ってるヤツは逃げろ!化け物は俺達がやる!」
姜芽が声を張り上げた。
それに反応したのか、化け物達はみな人間を貪るのをやめ、姜芽達の方を見た。
その姿は、まさしく異形の怪物の群れだ。
「さて、やるか」
ここで、二人は武器を抜く。
最初に向かってきた化け物に、
「斧技 [スーパーターン]」
姜芽は強力な薙ぎ払いを決める。
続けて襲ってきたものは、斧を振り上げて斬り裂いた。
「斧技 [チェストベルト]」
さらに、遠くにいる化け物にも斧を投げる。
「斧技 [スロウホーク]」
回転する斧で、化け物を真っ二つにした。
龍神も負けてはいない。
「刀技 [レッドスライサー]」
刀を振るい、化け物の首と腰を斬り裂いて倒す。
さらに、
「刀技 [水月斬り]」
向かってきた化け物を正面から斬り殺し、
「刀技 [波動返し]」
振り向きつつ、後ろにいた化け物を倒した。
残る化け物は2体となった。
これらは…
もう、言うまでもない。
「斧技 [レイドスレイヤー]」
「刀技 [一文字斬り]」
二人が、それぞれ1体ずつ倒した。
「さて、終わったかな」
姜芽は斧を納めたが、龍神はまだ、何かが潜んでいる気がした。
「いや…たぶん、まだいる。今の化け物どものボスが…」
彼が言い終わる前に、それは現れた。
「!」
どこからともなく火の玉が飛んできた。
龍神はそれをしゃがんで回避し、声を上げた。
「誰だ!」
声に応えるように現れたのは、やたら長い白髪に赤いリボンをつけた、背の高い女。
二人を睨みつけるように見てきたそれを見て、龍神はつぶやくように言った。
「妹紅…?なんでお前がここに?」
「お前らこそ何者だ。
なんでこの世界にいる?そして、なんで私の名前を知ってる?」
「俺はお前の事は知らない。そして、この世界に来たのも偶然だ」
姜芽はそう釈明したが、まああまり意味は無いだろう。
「お前はそうかもしれない。だが、そっちの男が私の事を知ってるのは事実だ。私の事を知ってる奴、しかもよそ者、ってなると、放ってはおけない。
生憎だが、お前らにはここで消えてもらうよ」
そう言って、女は手に火を灯した。
「へえ、火属性か…」
姜芽はつぶやきながら、火球を交わした。
すると、女は技らしきものを詠唱した。
「炎符 [ヘルズフレア]」
紫色の炎が現れ、瞬時に広がった。
龍神は結界を張って防いだが、姜芽はそんな事はしなかった。
その様子を見て、女は察したようだった。
「…そうか、お前も火か」
「正解だ。…まあ、まずまずってとこか。
けどな、この程度じゃ俺は傷つきやしないぜ」
そして、姜芽も術を唱えた。
「炎法 [溶岩大洋]」
煮えたぎる津波のような溶岩が女に襲いかかった。
「ふーん…溶岩か」
女は、今度は炎の鳥を召喚してきた。
その鳥が羽ばたくと、強烈な熱風が吹いた。
「熱波か。それなら俺だって使えるよ。
炎法 [ヒートスウォーム]」
無数の小さな高温の波を召喚し、飛ばす。
女は若干ダメージを受けたようだったが、それでもさして表情を変えたりはしなかった。
「全然じゃんか?これなら、私の技の方がまだ…」
そこまで言いかけたが、女は最後まで言い切れなかった。
龍神が、強烈な電撃を浴びせたのだ。
「ぐっ…」
女が電撃を受けてもなお生きていたことに、姜芽は少しばかり驚いた。
「龍神の電撃を受けても生きてられるとは…お前、人間じゃないな。妖怪の仲間か?」
「違うね…私は、妖怪じゃない。私は…」
「元人間の化け物、だよな」
龍神の言葉を聞いて、女は顔を上げた。
「お前は、元々は人間だった。だが、ある選択をして人ならざるものになった…。俺達に、ちょっと似てるよ」
「…私が、お前らに似てるだと?」
「ああそうだ…俺達は元々人間だったが、ある時選択をして、自ら人ではない存在になった。
俺達はお前とは違う存在だが、似てるのは確かだ。
…ま、言っても無意味か」
そして、龍神は刀を納めた。
「なんで俺達を襲う。そもそも、お前はここにいるべき奴じゃないだろう」
すると、女は意外にも素直に話し出した。
「私はな…お前らと同じ、外来人と契約してるんだよ」
「契約…?」
「そうだ…あいつは、素晴らしい考えを持っている。
私は全面的にあいつの考えに同意した…だから、こうしてあいつとの契約を果たしているんだ」
「どういうことだ」
「あいつは、計画の妨げとなるものは全て排除しろと私に言った。だから、それを果たす。
そして…」
「そのために人間たちを化け物に変えた、ってか」
「…。
いいこと教えてやるよ。あの化け物共は、あいつが作り出したモノの副産物に過ぎない。
あいつが本当にやりたがってるのは、もっともっと強くて、凶悪な怪物の軍隊を作ることだ。もう、ある程度はできてるはずだ。そしてそれは、やがてこの世界を埋め尽くす。そして、やがては外の世界も…」
ここで、龍神は女の顔を踏みつけた。
「私を殺したければ、殺せ。たとえ私が死のうと、私達は不死だ。お前らごときに、私達を殺せるものか。
く、く、く…」
そして、龍神は女の顔を踏み潰した。
おびただしい血を浴び、龍神は一言言った。
「…殺してみせるさ。お前も、あいつも」
「ありゃま。あんたのニセモノさん、死んじゃったみたいだねえ」
死者を操る力を持つ化け猫…火燐は、そう言った。
「いやいや、ニセモノなんかじゃあない。
あいつは、私の欠片の一人。私達はみんなで一人だ」
「そうかい。てことは何だ、あんたもニセモノなのかい?」
「さあてな。私も忘れちまったよ」
「…はあ。ま、とりあえずあたしらは撤退しなきゃね。
この事を、あの方に伝えないと」
「ああ、そうだな。
…あいつら、なかなかやるな。次に会う時は、欠片を全員連れて来てやる。
本物の私と、私の欠片が、奴らを殺す。
その時まで、せいぜい生かしといてやろう」
火を操る元人間…妹紅は、そう言って笑った。