プロローグ・始まり
その世界は、他の世界とは隔離され、孤立した独自の世界だった。
人間界とも異次元世界とも違う、独特の文化があり、人間も暮らすがよく似て非なる、人外の存在が多く暮らす世界。
しかしながら、忘れ去られた者を中心として誰でも受け入れる、美しくも恐ろしい、恐怖に覆われた楽園。
この世界はとりあえず平和だった。
しかし、その平和はある世界から来た1人の女によって根底から壊される事となる。
幻想郷周辺 スキマにて
「…?あれは…?」
スキマの妖怪は、「それ」を見て、目をつけた。
そこにあったのは、見慣れぬ形の飛行船。
近づいてみると、「それ」は明らかにこの世界のものではなかった。
(外の世界の物か…。でも、こんな物は見たことがない。自力でここに入ってきたのだろうか…?
忘れられるようなものではなさそうだし、何かあるかもしれない…)
そう思い、とりあえず船の乗組員に話を聞いてみる事にした。
入り口らしき場所は直ぐに見つかったが開かなかったので、スキマを通じて入る事にした。
船内にて
歩きつつ内装を見てみると、一見どこにでもある飛行船のように見えるのだが…
「内装自体は特に変哲はない。普通の船に見えるけど、自分でスキマに入ってきたくらいだから、ただの船ではないはず」
そんな事を呟きながら、歩いていく。
暫く歩いていくと、妙に大きな扉があった。
近づくと、自動で開いた。
その奥には制御室らしき部屋があった。
制御装置らしき機械と椅子がある。
そして船長とおぼしき者ー女性に見えるがーがモニターの前にある一番大きな椅子に座って、何やら慌てていた。
早速声をかける。
「ねえ、貴女がこの船の船長?」
「!?」
その女は酷く驚き、振り向いた。
「な、何者だ!?どうやって入ってきた!?」
「あ、心配しなくても大丈夫。
私はこの空間の主で、いつも通りこの空間を見てたら貴女の船を見つけたから、気になって声をかけただけ。今あなたがここで何をしてたのか、教えて?」
「そうか…」
女は、項垂れた後にぱっと顔を上げた。
「よかった!なら、私を、この船を、ここから出してくれないか!?」
「?どうしたの…?」
「私は凛央、ここではない世界の科学者兼司祭だ。
この船はベイトーアと言って、私が7年かけて作り上げた、空間と時空を越える事ができる船だ。
それで試運転も兼ねて様々な世界への旅をしていたのだが、突然ワープ機能が暴走して闇雲にワープを繰り返しまくった挙げ句、ここにワープして止まった。
しかもその後見たら、船自体が完全に壊れてしまっていた。
それで、この薄気味悪い空間で立ち往生していたという訳だ」
凛央はそう語った。
「へえ…」
スキマの妖怪は、その話を聞き終わると、そう呟いた。
(空間と時空を越える船…ねえ。
そんな代物があったのはびっくり。でも、確かに見たところ動けそうな雰囲気じゃなかった。
多分、この人が言ってる事は本当で、偶然ここに来てしまったのね…。
まあ、このままじゃ流石に可哀想だし、何よりこんな所にずっと居座らせる訳にもいかないし…)
妖怪の賢者はそう考え、凛央に言った。
「なら、貴女、幻想郷に来る?」
「げんそう…?なんだ、それは?」
凛央は知らないようだった。まあそれは仕方ないだろう。
「この空間のそばにある世界。そこに私も住んでるの。
あなたは悪者には見えないし、帰るのを手伝ってあげる。
うちの庭で、船の修理をなさい」
「本当か!?それは実にありがたい、感謝する!」
「お礼はいいから。さあ、行きましょう」
そして、妖怪はその船を幻想郷に招きいれた。
「おお…これが…。
素晴らしい…なんと美しい世界なんだ…。
そうだ…あ、名前は何と…?」
「私は八雲紫。さあ、こっちよ」
こうして、異界からの旅人·凛央は受け入れられた。
ーしかし、この時は誰も気づかなかった。
凛央が幻想郷に来たのは決して偶然などではなかった事、これが元で、この世界が地獄へと変わってゆく事に。
それから月日は流れー