第1話 それは唐突に。
「この世界は非情だ。」
生後たった"6年と4ヶ月"人生という長いレールにおいて、生まれて間もない私でさえそう思ってしまう。川に囲まれた中枢国の一端、その東側にある何の変哲もない普通の一軒家に私は暮らしていた。変わり映えしない何気ない日々。そう、思っていた。だが、いつも通り本を読んで、寝て、目覚めたとき、いつも必ず居るはずの両親がいなかった。でも理由はなんとなくわかる。
「ドラゴンと人間の戦争」
少し前にお母さんから聞いた事がある。数年前からこの世界に、度々"ドラゴン"と言う生物が現れていると。そして、彼らとの戦争を行う日が近い事を。急に両親が居なくなり、家族が1人になった訳だが、別になんだか寂しい気も湧かない。分かっていたことだ、何時かはこうなると。ただ"今日がその日"だっただけだ。起きてしまったことはもうしょうがない。
「これから……どうしよっかな。」
私は暇だった。いや、実際は、その身を覆い被すかのような恐怖から、ただただ逃げようとしているだけなのかもしれない。とはいえ、やることも無ければしたいこともない。その時、なぜだかなんとなくで考えついた結果が言葉として現れた。
「そうだ、旅に出よう」
突拍子もない返答。私は、それが本当に自分の物であるか耳を疑った。でも、私が言っているのだから実際にそうなのだろう。そう思おう。
ところで、"旅"といっても目指す場所が無ければそれは形無し。ということで、とりあえず戦争の中心地。そこを目指すことにした。それがどこかなんて知らないが、別にもう心残りなんてない。
「それでは、出発~!」
私は、適当な大きさのリュック1つと水、食料等を持って爽やかに勢いよくドアを開けた。外は何だか寒い。暗雲が垂れ込める鉛色の空を尻目に、私はその一途をたどり始める。
「うーん……とりあえず、あそこに行けばいいのかな?」
私は、この国で一番大きな"ギルド"というか"案内所"?みたいな所を最初の行き先に決めた。いつも賑わうそこに行けば、まだ誰か居るかもしれない。"最悪"戦争の中心地さえ分かればいい。そう考えたからだ。
「すると・・・あっちだ!」
家と家が左右に等間隔で並び続け、ずっとずっとずっ~と家だらけの道。その道を進んだ先に、私が目指す案内所がある。見たところ、他の家に人影はない。幼なじみのあの子も、いつも馬鹿にしてくるあの子も。
「みんな避難でもしたのか?」
もし、そうだとしたら「両親は私を捨てた」ということになるのだろうか?それは……なんだか少し悲しい気になる。別に、"仲が良かった親子"という訳でもないが、特別悪い訳でもない。"普通"って感じの関係だった。だからこそ、なのか、ちょっとだけその子達に嫉妬でもしているのかもしれない。私が持っていなかったであろう"愛"というものを持っているから。
「いや、もうやめよう。」
この際、そんなことを考えていてもどうしようもない。一歩ずつ、前を向いて歩こう。そこに希望なんて無くても。
「ひぃやぁう!?!?」
地面にうにょうにょと動く謎の白い物体。それを見て、私は悲鳴じみた甲高い変な声を上げてしまった。
「ところで……なんだこれ???おーい、生きてますか~?生きてたら返事してくださ~い。・・・・・食べるか。」
触った所、"ぷにぷにでもちもちだ"ということだけは分かった。でも、一番驚いたのは、よく見てみると道の至るところに落ちている。ということだ。
「う~ん微妙!こりこりしてて、歯応えはいいんだけどな。でも、当分ご飯には困らなそうだしいっか!もってきた食料もそんなにある訳じゃないし~。」
私は、そこら辺のぷにもち物体を何個かリュックに入れ、また歩き始めた。もうすぐ終わるだろう、この世界の一辺を。
ーーーーー
「ん?」
何か上から風を切るような、よく分からない音が聞こえる気がする。まぁここら辺はそんなものないし、大丈夫でしょ。
「あぶない!」
完全に気を抜いていたその時、いきなり誰かが私を押し倒した。
「うわ!なんだ!?突如上空から謎の岩が!?!?っていうか今の声……は一体?」
「いてててて……何してるの?気をつけないと死ぬよ?今がどういう状況か分かってる?」
先ほど甘んじた空中の音。どうやら本当に岩が降ってきたらしい。その時、私は助けられたのだ、同い年位の見ず知らずの女の子に。
「あ、ありがとう。あと、ごめん。」
「分かったならもういいよ。ごめん、こっちも強く言い過ぎた。怪我ない?」
「うん」
「じゃあ、少しあっちの家で話しましょ」
そうして彼女の提案に乗り、知らない人の家の中で少し話をした。助けてくれた彼女の名は"ルーミア"と言い、国の北側に住んでいて迫り来る戦争の波から逃げてきたらしい。そうして、だんだんと身の上話をしていく内に、何だか馬が合い、あだ名で呼び合うほど仲良くなってしまった。そして、お互い気がついた頃には、もう時間は夜になっていた。
ーー夜ーー
「ねぇミーちゃん?」
「どうしたのルーちゃん」
「今日は……もうこのまま寝ようよ。もう夜だし、外は危ないよ。」
「うーん……じゃあ、そんなルーちゃんに1つ提案があります。」
「……なに?ミーちゃん」
【明日から、一緒に旅しませんか?】
「……旅?」
「うん。」
「もう終わるかもしれないこの世界で?」
「うん。」
「なんで私と……?もっといい人だって居るだろうに。」
「今日分かった、ルーちゃんがいい。いや、ルーちゃんじゃないとダメ。」
「ホントに……?」
「ホントに。」
「・・・・・いいよ。」
「やったね」
ミーナはルーミアを仲間にした!
ーーーーー
ーー翌日ーー
「じゃあ、改めて旅に出る訳だけど……ミーちゃん?」
「んにゅむにゅぅにゅ~zzz」
「寝てる・・・」
「おーいミーちゃん!起きて~!」
「もう食べられないぃ~屠れない~……」
「はぁ、しょうがないなぁ。まったく……」
"昨日聞いた話"が本当だとしたら、この子はとっても疲れている筈。だから、もう少しだけゆっくり寝させてあげよう。そう思った。それにしてもよく見てみると……すんごくかわいい。ぷにぷにほっぺにくりくりの目、色白の肌がまた。。。
「少しだけなら……いいよね?」
そうして、私は眠る彼女の頬に指を伸ばした。
なぜだか胸の高鳴りが収まらない。張り裂けそうなほどの鼓動が打ち付けて来る度に、「大丈夫、友達ならこれくらい普通」と自分に言い聞かせ、どうにか理性を保とうとする。そして、とうとう彼女に向けたその指がその頬に触れる。
【ぷにっ】
「ふぅぁんあっ!?!?」
柔らかすぎるその頬に触れた時、咄嗟に変な声が出てしまった。私の魂が告げている。"叫べ"と。
「・・・起きて……ないよね?」
「すぅ~すぅ~zzz」
「よかった~。危ない危ない、バレるとこだった……。」
「んぁむぃ~zzz」
「寝てるし、もう一回位……いいよねぇ・・・。あっやば!」
もう一度ルーミアがミーナを堪能しようとしたその時。ベッドから足を踏み外したルーミアは、床に足を叩きつけ、鈍器で殴ったかの様な大きい音を出してしまった。
「んぁ?ルーちゃん……どうしたの?」
「お、起きたの、おはようミーちゃん……」
「おはおぁ~」
大きな欠伸をしながらミーナは旅の準備を開始する。その時、ルーミアは先程の事が気づかれていないことを悟り、安堵の気持ちを浮かべていた。
「よかった~。気づかれてなかった~。」
「ん~?ルーちゃん今何か言った~?」
「何でもないよ~!」
ーーーーー
「ルーちゃん!それじゃあ準備は出来た?」
「出来たよ~!」
「OK.それじゃ、この世界の終焉にモモンゴと血肉と花束を添えて……出発~!」
?????……ミーナが突如発した意味がわからない言葉の羅列に、ルーミアは頭を傾げた。
「ミーちゃん、なにそれ。」
「どれ?」
「さっきの、あの掛け声?みたいなの」
「あ~!あれね。あれは、さっき止まってた家にあった本に書いてあったから。その乗りで……」
「まぁ……色々と突っ込みたい所はあるけど、いいや。それで、どこに向かうつもりなの?」
「案内所だよ。国の一番大きいとこ。」
「あぁ、あそこね。」
「ルーちゃん知ってるの?」
「まぁね。でも、あんなとこ行ってどうするの?多分今誰も居ないよ?」
「私ね知りたい事があるの。」
「知りたい事?」
「うん。"戦争の中心地"」
「戦争……の中心地・・・???」
その言葉を聞いた時、ルーミアの顔から血の気が引いていった。病気でもないのに青ざめてしまったその体から、ルーミアはミーナに問う。
【それ、本気で言ってるの?】
ルーミアのその問いに対し、ミーナは即答した。
「うん。だってそれがこの旅の目的地だし。」
ミーナ、やっぱり……この子は壊れてしまっている。そうひしひしと感じる。私がどうにかしないと。そうやって本能が示してる。
「や、やめようよそんなこと。死にたくなんてないでしょ?」
「まぁ確かに、そりゃそうだけど……」
「な、ならさ、このまま真っ直ぐ行って一緒にこの国を出ない?」
「ルーちゃんはそうしたいの?」
「・・・・・」
私は、その問いに答えられなかった。答えなんて決まっていると思っていた。でも、それじゃいけない気がする。何だろう、この感覚……。
「ルーちゃん……ルーちゃん!」
「あ、ミーちゃん。」
「よかった。いきなりどうしたのかって思ったよ。」
「ごめんミーちゃん。ちょっと考え事をしてて……。」
「うん。大丈夫だよ。」
「ありがと。」
「でも、無理してついてこなくてもいいよ?私の考えは変わらないし、このまま案内所に行くから。ルーちゃんが嫌なら・・・」
"あ、これまずい流れだ。"ルーミアはそれを直感的に悟る。このままだと、私がミーちゃんと別れてしまう。別に一緒に行きたくない訳ではない。でも、"それ"を考えると、体が震えて言うことを聞かない。
「じゃあ、もう行くね。ルーちゃん。」
「まっ!まって……わた、しも……行く。」
その時、ルーミアは己の心の中で葛藤していた。
「外れろよ、私のリミッター!おい!ここで行かなかったら後悔じゃ済まないぞ!」
「やめなさい。」
「これは……私か!うるさいぞ、私!」
「ここで行けば、貴方は"約束"を果たせませんよ?」
「そんなもの……もうどうだっていい!私は、ミーちゃんと、行くって、決めたんだぁ!!」
「そうですか……愚かな私よ。ならば止めません。行きなさい。そして、悔いなさい。」
「そんなことするもんか!」
ーーーーー
「ルーちゃん?」
「ミーちゃん。私、ミーちゃんと行く!そして、ミーちゃんを助ける!」
「うん。ありがとう。」
ルーミアは意思を固めた。ミーナと行くと、ミーナと生きると、そう決めたのだ。
「じゃあ行こう!案内所は右だよ!」
「ルーちゃん。」
「……どうしたの?」
「さっきの言葉さ、とっても嬉しかったんだけど……ちょっと、そのテンションはやめてほしいな……なんて。」
「え・・・・・あ、いや、ごめん」
「あ……うん、ありがとう。」
2人はぎこちない会話を挟み、それぞれがまた、頭のなかで状況を整理し始めた。その時、ミーナはあることに気がついた。それは……「自分の頬についていた、謎の跡」の事である。
「ねぇルーちゃん。」
「なに、ミーちゃん。」
「私に何かした?」
「あ……その・・・はい。ほっぺツンツンしてました。」
「そっか……。よかった。そんなことで。」
「許してくれるの?」
「いいよ、そんなこと。そんなんじゃ誰も怒らないよ。」
「じゃあ……今もやってて……いい?」
「それはだめ。」
「そんなぁ……」
ルーミアはがっかりしながらも、少し仲直りできたことに内心喜んでおり。満更でもない気持ちであった。
ーーーーー
目的地まで後一キロほど。あれから、2人で協力し合い、順調に目的地へ着こうとしていた。
「それにしても、何でミーちゃんは"そんなとこ"行きたいの?」
「"家族"を探す為だよ。」
「家族……?」
「うん。」
「それって……まって!!!!!」
「ルーちゃん。いきなり大きい声出さないでよ。一体どうしたの……え?」
彼女らが話をしながら歩みを続け、とうとう目的地へとたどり着こうとしていたその時。2人は、自分達が向いている方向の奥に、何か動いている物を見つけた。
「ルーちゃん……あれ・・・」
「うん……ば、ばけもの・・・」
目指していた国一番の案内所、そこで2人が見た物は……"異形の生物"だった。
「やばい!やばいよ!なにあの尻尾!なんか先っぽがいちごみたいだし、体なんかでかいし、キモいし~!」
「ここはとりあえず落ち着いて、ミーちゃん!なんとかなるよ!え~と、あのその、そう!肘とかでドンッとこう一発~」
「ルーちゃんこそ落ち着いてよ!そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
「ごめんミーちゃん、ちょっと取り乱した。」
「大丈夫だよ。でも……」
「うん」
ここはとりあえず……【逃げよう】
Next time.「本当の私」
つづく。
どうもこんにちは、神無月です。
今回の作品、いかがでしょうか?いろいろと作品を書いてきて学んだことが生かされていればな、と思います。
これから毎週火曜。2月終わりまで3週間連続であげますので。どうか、ミーナとルーミアの物語を。最後までご覧いただけたらなとおもいます。
では、またどこかで。