賭け
ディランは幻影魔法を使って現実世界から梨咲を引き離す。
ディランと梨咲の2人だけ。
これで余計な邪魔者は入って来れない。
ディランは梨咲に向き直ると腕組みをして説教を始める。
「全く、梨咲よ。ここ最近のお前は自分の立場を忘れているだろう?!お前は人質だ!幽閉の身だぞ?」
梨咲の顎をガッと掴み顔を近づけてくる。
「人質らしくこちらの指示には素直に従え!」
ディランは梨咲を睨むが、梨咲もディランを睨む。
その眼に光が無くて、ゾッと感じたのはディランの方だった。
ディランは梨咲を離す。
「…まぁ いい! 今日は梨咲に選ばせてやろうと思って呼んだ…。」
「?」意味のわからないディランの言葉に梨咲は警戒を強める。
「どうだ 梨咲。私と結婚する気にはならないか?」
「はい。」即答する。
「俺とルイスの決闘で、勝った方と結婚するのはどうだ?」
その提案も梨咲は頭を横に振る。
ディランは卑怯だ。どんな手を使ってくるかわからない。そんな危険な戦いにルイスを巻き込みたくない。
「では…お前からルイスの記憶を消してみようかな?梨咲が再びルイスを婚約者と認めたら、今後一切手出しをしない、というのはどうだ。3択で選ばせてやる。」
梨咲は考える。
①ディランと結婚する
②ディランとルイスが決闘し、勝った方と結婚する
③ルイスの記憶だけを抜き、婚約者を選び直す。
この中での選択なら間違いなく3番目。記憶を消す方だ。
だが、相手はディラン。そんな簡単にホイホイと話を鵜呑みにしていい筈がない。
慎重に、ありとあらゆる角度から検討するためディランに質問する。
「その記憶は返して頂けるのでしょうか?」
「梨咲が返して欲しいと俺に言ってきた時には返してやろう。」
まず怪しい!梨咲は思ったが次の質問に移る。
「記憶を消すのはルイスの事だけですか?」
「そうだ。婚約者である立場ごとだ。コレでフェアに婚約者について、梨咲も考えられるだろう?」
ディランの言葉に疑問を覚える。どこがフェアなんだ?
「え?ディラン先輩の記憶は消さないんですよね?全然フェアじゃないじゃないですか…。」
「俺はいいんだ。今のこの状態から、梨咲が俺を選ぶようにする。俺は俺でお前を手に入れる事に必死なのだ。それほど梨咲を欲しているのに…。お前はまるでわかろうともしない。ルイスの事を忘れ、少し冷静になって考えろ!」
滅茶苦茶だな…と梨咲は心の中で呆れた。
いや、寧ろその方が好都合だ。
小学校や中学校の時にディランにされた仕打ちが記憶にあるのなら、この人を選ぶ事は100%ない!
それに、ルイスが例え婚約者だという記憶がなくても、私は絶対にルイスに注目する。
高い技術と大胆な魔法。
魅力的で…時に羨ましく思わせ、私を嫉妬させる。
私を喜ばせ、温かく、幸せにする魔力…
あんな思いをさせてくれるのは 今の所この学園内ではルイスだけだ。
しかも凛がいなくて自分の心に制限が無い今、絶対に気になるに決まっている。
好きになって心を開くかどうかはルイス次第だけど…。
…いや、やるな。あいつなら…
梨咲は思い返してふっと笑った。
「相変わらず卑怯ですね…。多分1ヶ月以内に先輩に記憶を返して、と、言うと思いますよ?」
眼中に無い。ディランに忠告する。
「大した自信だな。私も梨咲に相当傾倒しているよ?」
「そうですか…。この選択を全て断ったらどうなりますか?」
「お前を無理矢理手に入れるだけだ。荒い方法でな。お前の周りも母国もどうなる事か…。」
「それは困りますね…。拒否権はない訳ですね。」
梨咲の心は決まった。
全く不安がない訳じゃない。
でも… 私はきっと…
また ルイスに惹かれる…
梨咲は婚約指輪に触れる。
「その婚約指輪も預かろう…」
ディランが手を差し伸べる。
「いいえ。この指輪はルイスに外して貰って下さい。本来の持ち主に返すのは当然の事でしょう?」
梨咲はディランに悟られないように、素早く微弱の結界を張り、思いをこの指輪に託した。
確実にルイスの手元に戻る様に…
「賭けは成立だな…?今から記憶を抜く。ここにおいで。」
梨咲はゴクリと生唾を飲む。
ルイス… 凛… マリー…
私… 無事にみんなの元に 帰るからね …




