雷
遠くで 雷が鳴り始めましたね…
凛はルイスの傍らに立ち、持っていた書類から顔を上げた。
梨咲様は… ご無事だろうか…?
「凛…どうした? 報告の続きは?」
ルイスは前の書類に目を通したまま、凛に次の報告を促した。
凛はハッと我に返る。
「あ…っ! すみません!」
ルイスは顔を上げて凛を見た。
「…珍しいな! 何か心配事か?」
「いえ… 雷が…」
「雷?」
ルイスの反応に凛は確信する。
ルイス様はご存知ない…!
梨咲様が 雷が苦手な事を…。
梨咲様は隠しているのか?
だとしたら… 余計に心配だ…
「いえ… 何でもありません。失礼しました。」
次の書類をルイスに差し出してから、凛は梨咲の居場所を探知する。
学校の図書室…
寮にまだ帰っていない?
凛はよいよ落ち着かなくなった。
そうこうしている内に雨足が強くなり、雷がゴロゴロと近づいていた。
「凛?顔色が悪いぞ?」
「あの…ルイス様…お願いがあります。梨咲様の事ですが…」
その時、ドォンッ と凄まじい落雷の音がした。
「…っ!」
マズイ!! 凛は焦る。
「梨咲さんがどうかしたの?」
ルイスの声を聞きながら、凛は魔法陣を描く。
「説明は後にします。一緒に来てください。」
そうして凛は魔法陣の中央にルイスを招く。
魔法陣は強い光を放つと、凛とルイスの姿を飲み込んだ。
「…っ!」
学校の図書室。 梨咲は震えていた。
雷… 苦手…!
不意打ちで不規則な爆発音は心臓に悪い…。
昔から嫌いだった。
凛が克服出来るようにと、ありとあらゆる特訓をして、結果…もっとダメになった。
「っ ふ…っ 」 耳を押さえて縮こまる。
コレだけは… 雷だけは… ダメなの…
そこへ
「梨咲様?」
聞き慣れた凛の声がした。
凛はいつも雷が過ぎるまで一緒にいてくれた。
どんな特訓をしてもダメだとわかってからは、雷が鳴る時だけは優しかった。
大人しく、私の気が済むまで抱かれていてくれた。
離れていても、必ず駆けつけてくれた。
「…っ! 凛…」
弱々しく返事を返して、梨咲は凛を探す。
「! 梨咲様!」
凛が梨咲を発見して駆け寄ってくる。
梨咲は凛にしがみついた。
ぎゅうううっ!
凛の長袖に皺が付くくらいしがみつき、震えた。
「…っ! 怖い!凛!や…!」
ルイスは取り乱す梨咲を見て驚いた。
震える梨咲を抱きしめながら凛がルイスに話し出す。
「梨咲様は…不意打ちが弱点だとお話しましたよね?」
「ああ、それは5番勝負の時に聞いた。」
「梨咲様は予測出来る時は大丈夫なのです。例えば自分で落とす雷。あと、1回や2回の雷なら耐えられるのです。 ですが…今日の様に激しい雷雨になると…ご覧の通りです。」
梨咲は目を瞑りカタカタと震えている。
「先程言い掛けたお願いですが… これからはこのお役目をルイス様に代わって頂こうかと…。」
凛はそう言うとルイスに梨咲を預けようとする。
梨咲には2人の会話が聞こえていない。
凛から離されたと勘違いして梨咲はパニックになった。
「や…!凛!凛!そばにいて! 凛!!」
梨咲は手を伸ばして必死に凛を引き留めようとする。
ルイスは凛を必死に呼ぶ梨咲に苛ついた。
梨咲の手を取って引き寄せると、梨咲にキスをした。
「…?」
梨咲は突然の事に驚いて大人しくなった。
な…に ?
朦朧としながら目を開ける。
「…。 ルイス?」
涙で滲む景色に心配そうなルイスの顔が写り込んだ。
ルイスは優しく梨咲を抱きしめる。
「凛じゃないですよ…。梨咲さん…。」
梨咲はぶあああっと顔を真っ赤にして、涙が溢れる。
「ルイス…!何でっ、いるの?!私が…雷…が怖いだなんて、楽しんでるんでしょう?!知られたく…なかったのに…!今まで…隠してきたのに…!」
梨咲は泣きながら喚いた。
絶対に面白がってる!ルイスは絶対にこんな私を見て嬉しがる。弱点を知って…喜んでいるに決まってる…!
ルイスはちょっとショックを受けた。
知られたくなくて、隠してた…!?!
今までの…意地悪が響いてるのかな…?
改めて反省する。
「楽しんでないです。 …可愛いな…って思ってます。」
ルイスの言葉に梨咲はプチッと切れた。
「それが嫌なのよ!!!可愛いって何!! 完全にバカにしてるじゃん!!!(怒)」
泣き叫ぶ。
ドォンッ!!落雷の音がする。
「ひ…っ!」
梨咲は小さく悲鳴を上げてルイスにしがみついた。
「バカになんて…する訳ない…。」
ルイスは梨咲のおでこにキスをする。
それからそっと梨咲の涙を拭う。
「?」
梨咲はルイスを見上げた。
青い瞳が どこまでも 優しかった。
「雷が鳴る時は… 一緒にいようね。しっかり抱きしめていてあげるから…。」
「…っ///」
ルイスの言葉に梨咲はときめいてしまった。
何でこんな… 意地悪だと思うのに… 反則的に優しい… ルイスは…ズルい…!
梨咲は大人しくルイスに抱かれて、雷雨が過ぎるのを待った。




