初恋
レスカーデン高等部の中庭園。
クラスメイト達と梨咲はベンチに座り談笑していた。
そこへ、
「梨咲君!」
慌てた様子のレイドリューが梨咲に声をかけた。
やっぱり来たか…。と、梨咲は思いつつ、クラスメイト達と離れ、レイドリューと話し出す。
「レスカーデンの大学に特待生で進学、って来たけど、どういう事? こんな事するの、梨咲君しかいないでしょ!」
「まぁ…。余計なお世話でごめんなさい。でも、先輩の能力は活かさないと勿体ないと思ったし…、先輩が嫌だったら断れると聞いたので…一応お願いしてみました。」
「それは… 有り難いけど…」
レイドリューは複雑な気持ちでいた。
去年父親が急逝し、母子家庭となってしまったので、幼い弟妹の為、レイドリューは進学を諦めていた。
「でも、私の力じゃないですよ?先生方が先輩の能力を認めていないとそんな話は出来なかったですし…、だから先輩の実力です。」
梨咲はにっこり微笑んだ。
「先輩は水魔法が好きでしょう?好きなモノを諦めて欲しくなかった。でも、それを掴むか掴まないかは先輩次第。かつて先輩が私を助けようと、余計なお節介を働いたのと、同じです♪」
レイドリューはまだまだ複雑な顔をする。
「じゃあ、1つ、私の夢を聞いてくれませんか?」
「夢?」
レイドリューが首を傾げる。
「大学を卒業して、将来私と一緒に仕事をしてください。」
「え…! 梨咲君と?! ソレは…相当頑張らないと…。」
レイドリューは全く予期していなかった梨咲の夢に狼狽えた。
「夢、叶えてくれません?先輩の温かい魔法は多くの人を幸せにします。ね?私と約束したら、大学に行かない訳に行きませんね♪」
梨咲の言葉にレイドリューは声を出して笑った。
「随分強引な事を言うようになったね!ルイス君の影響かな?」
「えぇ〜! すごいイヤ…(笑)」
梨咲はうんざりした顔をした。
「いや、凄く良いよ!本当に…!ルイス君が婚約者で良かったね!」
レイドリューは涙目になって笑う。
「もう、ルイスの話はいいですよ…。結局進学はどうするんですか?」
「ふふっ。他でもない梨咲君の夢。叶えられる様に努力させて貰おうかな…?」
レイドリューの言葉に梨咲は喜んだ。
「本当?!絶対ですよ?先輩!私も頑張らないと…!」
無邪気に笑う梨咲を、レイドリューは眩しく見つめる。
「あの頃からは…考えられない様な良い笑顔!」
梨咲はハッと我に返って急に恥ずかしくなった。
「…先輩、小学校の時、助けて下さってありがとうございました。私…ずっと先輩を巻き込んだ事を後悔していました。先輩の大事な記憶を消されて、本当に心が潰されそうでした。ディラン先輩が乗り込んで来た時、立ちはだかって助けてくれたんです。先輩は記憶が無いけど…すごく、格好良かったんですよ。」
梨咲はその時の事を思い出す。
きっと私はレイドリュー先輩が大好きだった。
先輩の優しさが嬉しくて、温かくて、居心地が良かった。でも、私のそんな感情は、結果、大好きな先輩を傷付ける事になった。
ディラン先輩と、政府の大人達が突然乗り込んで来て、レイドリュー先輩を連れて行こうとした。
「お願い!酷い事をしないで!」
大人達にしがみつくと、私はディラン先輩に無理矢理引き離されて唇を奪われた。
ディラン先輩は笑っていて、凄く怖くて、動けなくなった私を、レイドリュー先輩が外に逃してくれた。
自分だけ鍵を閉めて戻って、そうしてレイドリュー先輩は記憶を無くした。
「お前が俺の言うことを聞かないから、レイドリューは可哀想な被害者だな…!」
そう言い捨ててディラン先輩は出て行った。
「そうだったんだ。きっと梨咲君を守る事に必死だったんだね。」
「あの時、先輩が居なかったらと思うとゾッとします。確実に今の私は居なかったでしょうね。だから、私も先輩の力になりたかった。…夢、約束ですよ?」
梨咲はレイドリューに手を差し出して握手を求めた。レイドリューがしっかりその手を握り返す。
「わかったよ。お互いに頑張ろう!」
笑いあって、中庭園を後にする。
庭園の入口にいたルイスは、つまらなそうに腕組をして梨咲を見た。
「梨咲さんの初恋は レイドリュー先輩ですか…。」
「ふふっ。バレた? もう、だいぶ前の話だよ…。」
梨咲は不機嫌なルイスにそっとキスをした。
ルイスはその不意打ちのキスにすぐに機嫌を直した。




