姉妹
梨咲は珍しく自分から父に連絡を取っていた。
「なぁに、梨咲ちゃん…。珍しく自分からなんて。どうしたの?」
父は先日レスカーデンを出た後の進路について激しく抵抗してきた娘とのやりとりに疲弊していた。
「美花(妹)と話したいんだけど。」
「えぇ~ 何でまた… 美花はあれから梨咲がトラウマですっかり怯えているよ?こっちも困るんだよ−、すっかりやる気無くしちゃっててさ。もう、刺激しないでよ~」
父は珍しく泣き言を言った。
「悪い様にはしないから…。ちょっと美花の力を貸して欲しいんだよね。」
そうして翌日、美花はレスカーデンにやって来た。
顔を俯かせカチコチに緊張し、冷や汗をかいて顔色が悪い。
改めて…申し訳ない気持ちになったが、元は美花が仕掛けて来た事。
梨咲は淡々と今回のお願いを口にしてみる。
「来て貰って悪かったわね。」
「…いえ…。」
「この前会った時に思ったんだけどさ、美花のスピードがすごく速くて!あの速さ、どうやって身につけたの?教えてくれないかな?」
梨咲はココ(レスカーデン)を出た後、いつどこで誰に狙われてもおかしくない状況だという事を知り、自分の防御力を上げる事を考えた。
その時に真っ先に浮かんだのがスピードと察知能力の向上。
ルイスのスピードに追いつけず、ルイスの気配に気がつけない。そんな程度では先行きが心配だ。
上には上がいる。 完璧でなくても、日々実戦に備えておく事が大事だと考えた。
そこで、自分と同じ女性で、年下なのに、もしかしたらルイスよりも速いスピード力を持つ妹の美花がどうやってスピード力を身につけたのかが知りたかった。
ついでに姉妹間の拗れも解消したいと望んだのだが…。
美花の表情を見ると絶望的…と、梨咲の方が諦め掛けていた。
「…。」
青ざめてなかなか話せない様子の美花に、梨咲は小さく溜息をついた。
「この前はそんなに怖い思いをさせたのね。悪かったわ。飲み物でも飲もうか?」
梨咲が顔を覗き込むと、怯えながらも少しだけ顔を見てくれた。
それから梨咲は寮の自室に美花を招き入れた。
借りてきた猫みたいに大人しく、美花はちょこんとソファーに座る。
梨咲が作ったレモネードを一口飲むと、「…!美味しい!」と思わず声を出した。
「良かった…!」
梨咲が微笑むと美花はまた俯いた。
「美花はすごく魔力の習得が早いよね!羨ましいよ。私は不器用だからさ…」
梨咲が話すと、
「やめて!」
美花が声を上げた。
「私は…お姉様に何1つ勝てない。いくら自国では優秀と評価されても、お父様はいつもお姉様を褒める!梨咲の方が優秀だ!悔しくないのか?って。私だって…努力してるけど…」
梨咲は美花の言葉に溜息をついた。
そして同時に心の中で苛つく。
やっっぱり父が拗れさせたのか…!
怒りで周辺を凍らせると、美花が怯えた。
梨咲はハッとし、ごめんごめん!と笑顔を作る。
「美花は私が嫌いだよね? …私は美花と…妹と仲良くなりたいなぁ…。」
梨咲は心の底から呟いた。
ルイスとマリーが羨ましかった。あそこまでの仲良しは難しくても、せめてわだかまりなく話すくらいになれたら…と願う。
「 …。 私の事が嫌いじゃないの?」
美花は初めて梨咲をちゃんと見てくれた。
「うん。仲良くなりたい。ただそれだけだよ?
美花は…ルイスへの想いもあると、そんな簡単には思えないのかな?」
梨咲は苦笑いした。
「ルイス様には完全にフラれました。お姉様以外、考えられないのだと。ルイス様への未練はありません。想像していたより…怖カッタ…し…」
美花はガタガタと震え出した。
ルイスまで…!美花に何やったんだ!
梨咲は自分の事を棚にあげて、心の中でルイスに怒った。
「ちょっとずつでも…仲良くなれたら嬉しいなぁ…」
梨咲は握手を求めて手を差し出す。
美花は差し出された手と梨咲の顔を戸惑いながら交互に見つめる。
「私は美花の能力は凄いと思って尊敬してるよ?あそこまで強い魔力を操るのはさ、努力しないと出来ないじゃん?」
自分も努力してきたからわかる。だから美花がどれほど努力しているのかもわかる。凄さもわかる。
「…私、水魔法の融合が上手く出来なくて、ずっと悩んでたの…。教えてくれる?お姉様?」
「お姉ちゃん って呼んでくれたら教えてあげる。」
梨咲が笑いかけると、美花も笑った。
「私のスピード力はたまたまなんだけど、ルビ鳥に興味を持ったせいだと思う。」
「ルビ鳥…?」
「私、小鳥が好きで、ルビ鳥をこの目で見てみたくて、追いかけてたらスピード力がついてた…って感じなの。」




