バケモノ
ルイスの家の応接間
ルイスとマリー、友人達は思い思いに席につき、近況を報告し合う。
「最後に会ったのは…中学入学前?」
「だね。2人は元気だった?」
ルイスは幼馴染の2人の顔を見る。2人共、それぞれ大人になったけど、中身はまるで変わってなさそうだと安心する。
「元気!元気! ルイスこそ、婚約者はどうよ?お迎え留学!うまくやってるか?」
幼馴染、カデルの言葉にさっきまでの外交を思い出して気が重くなる。
「…そうだね。」
「元気ないな!政略結婚はやっぱ大変か…。可哀想に…!」
「ルディアなんてまだルイスが好きみたいだぞ?一層の事、(ルイスの)兄ちゃんみたいに駆け落ちしちゃえば?」
もう1人の幼馴染、ルキが面白半分に言ってくる。
「それは(周りに)殺されるな…。」
カデルとルキはルイスに笑いながら同情する。
「…ルディアか!懐かしいな…。」
ルイスは小学校の同級生を思い出す。
「ルディア、めちゃくちゃ可愛くなってるぞ!今度会ってみ?」
「可愛いと言われると、ちょっと興味湧く…♪」
「だろ?あと…ルナにレイラにイリス!エイミもか?お前が唇を奪った女はみーんな可愛いな…。」
「へぇ〜♪…ってマリーの前で止めてよ!!(マリーは知らないんだから!!!)」
ルイスはルキの言葉に慌てた。
「…お兄様! そんな事を…!」
マリーがルイスをジロリと睨み、ルイスは青ざめた。
「いや…みんな、向こうからお願いしてきた事だし…。俺が好き放題唇を奪った訳では…」
「そうそう♪超モテてたからな、ルイス!ソフィア先生とも…ってのは伝説だな♪」
「…先生…まで…?」
マリーが青ざめた。
「ちょっと!2人共!本当に止めてよ!!可愛い妹を汚さないで!!!」
「お前がした事を言ったんだろ…。誰が汚すって?」
2人はルイスに呆れた。
「でも…心にずっと好きだったのはマリーだけだったよ?」
ルイスはマリーに抱きつき、宥めようとする。
「それはそれで、何か…嫌です…!」
マリーは背を向けてルイスを否定する。
ルイスはその様にショックを受けた。
「相変わらずシスコンだな!ルイスのファーストキスはマリーちゃんだからな。」
「ええっ?!」
初めて知った事実にマリーは唇を押さえて後退った。
「マリーちゃんが3歳で〜、ルイスが6歳?寝込みを襲ったんだよね♪何かリアルだよね~(笑)」
マリーは震えた。
スキンシップの多い兄とは思っていたが、知らぬ間にファーストキスを奪われていたなんて…!
ルイスは幼馴染2人の頭に、よいよ拳を落とした。
それからマリーに振り返ると、ルイスはうっとりとした顔をしながらマリーの唇に触れる。
「俺がキスしたいのはマリーと梨咲さんだけだよ…?」
覆い被さってくるルイスに、マリーは真っ赤な顔をして怒った。
とそこへ父親が入ってきた。
「お帰りルイス。 カデル、ルキ、久しぶり。」
幼馴染はそれぞれ父に挨拶をした。
「今凛から連絡があってな、梨咲さんがフォーストラム大学の進学を望んでいるそうだよ?」
『え…?』
父の言葉にその場にいる全員が固まった。
フォーストラム大学と言えば母国1 頭が良く、入学が難関な有名な大学だ。
「え…、進学?決めたの?」
ルイスは心配になった。離れているから梨咲の考えがわからない。
本当に…梨咲さんが望んだ事なのだろうか?
「お前の婚約者?スゲーな!めっちゃ頭いいな!」
幼馴染2人が盛り上がる。
「薬学科を希望だ。A級水魔法の認定があるから、推薦で余裕だな。」
ルイスの父の言葉に幼馴染2人はまた騒ぐ。
「A級って… 難易度A指定の水魔法って事?!認定持ってるの?!ヤバくない?!」
「フォーストラム大学を推薦で行けるってどんなバケモノだよ…!」
2人の言葉を聞きながら、ルイスは表情が沈んでいく。
何で俺の居ない間に…
相談ナシに進路を決めちゃうなんて…
ルイスは寂しい気持ちになった。
それから 各国の反応に心を痛めて帰ってきたルイスは、カデルとルキのバケモノ扱いの表現にも敏感になった。
2人の反応は最もだ。ハタから見たらバケモノの様に見えるのが普通だろう。それだけの、凄い能力…。
でも…
梨咲さんはもっと繊細で、本当は弱くて臆病だ。
努力、努力の人だし、バケモノなんかじゃない…!
そんなに…好奇な目を向けないで…!
ルイスの静かな反応に気がついた父はそっとルイスの肩に手を置き、笑った。
「ふふっ。ルイスの婚約者は本当に勇ましいお嬢さんだね。進路を妨害しようとしたお父さんに激しく抵抗したみたいだよ? 凛と私が何とかするから大丈夫だけどね。」
父親の言葉にルイスは顔を上げた。
梨咲の父、英長官に、どこか怯えながらも屈しない梨咲を簡単に想像する事が出来た。
『もう、決めた事なの!ココを卒業した後の私の道は自分で決めるわ!誰にも邪魔させない!』
強く、美しく宣言したに違いない。
ソレはもう、ルイスも出る幕が無い。
ルイスは梨咲のあの鋭い眼を思ってゾクッとした。
そっか。
梨咲さん… 自分で進路を決めたんですね。
誰にも委ねない 何者にも屈しない…
自分が歩いていく道。
それは弱さからくる虚勢なんかじゃない。
本当はその決断を、誰よりも近くで見守りたかったけど…
「梨咲さんに合った良い進路だ。凛のアドバイスは的確な様だ。花嫁修業は順調だな…。」
父とルイスは顔を見合わせて、それから笑った。
「…バケモノならココにも1人、居ますけどね?」
ルイスが自分を指す。
「え…?まさかルイスもフォーストラム大学を推薦で…?」
カデルとルキは震えた。
「2人もフォーストラム大学にしなよ!あと1年あるんだから余裕だろ?」
ルイスが微笑む。
「え…、まさかお前、飛び級?」
「うわぁ…!更にヤバいバケモノがいた…!」
幼馴染2人の言葉にルイスは笑う。
バケモノ扱いも、2人一緒なら悪くない。
好奇の目に晒されようと、梨咲さんなら力に変えて突き進むか…。
ただ守られてるだけの 大人しい人じゃないのに…
俺は 何を臆病になっていたんだろう…?
俺は梨咲さんが決めた道を 一緒に歩きたい。




