お願い
色々あった1年ではあったが…
何とか無事に終える事が出来そうな兆しが見えて来た。
あと3ヶ月で… 先輩達は卒業する。
そんなある日、梨咲はネファに呼び出された。
あのルイスとの1件から、梨咲とネファは落ち着いた関係になっていた。
高校校舎の中庭園には噴水があり、魔力で管理されているため1年中美しく花が咲いている。そんな景色を愛でながら、2人でベンチに座って話をする。
「卒業式典での神事の祈祷舞があるでしょう?是非、梨咲にお願いしたいの。」
ネファの言葉に梨咲はフリーズする。
神事の祈祷舞とは…
つまり神様に捧げる舞の事。
卒業生の門出を神様に感謝し、前途のご加護をお願いするもので、卒業式典の中で1番厳かで、神聖なものだ。
小学校でも中学校でも行われ、選ばれた在校の代表生徒が先輩達の為に舞う。
梨咲も過去に何回か務めた事があった。
名誉な事なのだが、周りの期待も大きいし、卒業生の父兄も見ている。後々まで出来栄えを語り継がれるので、そのプレッシャーと戦う事は決して容易ではない。
本番直前まで逃げ出したい自分の気持ちと何度も戦う事になる。
過去の重圧を思い出すと梨咲は震えた。
「もっと適した人材がいる様な気がしますが…?」
「中学の時に、舞ってくれたでしょう?梨咲の強くて美しい舞をもう1度見たいわ…!」
基本、「先輩にお願いされた事には従う」のがこのレスカーデンでの常…。
他でもない、中央政府最高顧問の御令嬢の希望とあれば、断る事などあってはならない。
「…そうですか。では…頑張らせて頂きます。」
梨咲は覚悟を決めた。
引き受けたからには中途半端な事はしたくない。
完璧主義、英梨咲のプライドに火がついた。
「パートナー(讃美歌担当)はどなたなのでしょうか?。」
「それは私が務めるわ。」
「え…!先輩自らですか?」
梨咲は驚いた。普通は在校生が務めるものだ。
「だって…適任者を探していたら、みんながルイスがいいとか言い出すんですもの…!」
ネファの言葉に梨咲は納得する。
確かに…ルイスは歌がうまい…。
低い声も高い声もとてもきれいに出すし、声量もある。
以前音楽の授業で聞いたが、先生を含め、その場にいた全員が感動の涙を流した、という伝説を作り出した。
礼拝堂で歌ったら…
みんな、本当に昇天してしまうかも…(笑)
一方のネファも、その道でプロになれると言われる程の実力者。
どちらの歌声でも、舞う身としては気持ち良く舞えそうだ。
「ルイスの歌声に身を委ねて舞う梨咲を見るなんて嫌よ…!」
プイッと顔を背けてネファは膨れた。
「ふふっ。そうですね…!ネファ先輩とは色々ありましたから…。最後は素敵な思い出で締め括りましょう…!」
そうして梨咲とネファによる、2人3脚での祈祷舞の練習がスタートする。
今回の祈祷舞での賛美歌をネファが目の前で披露してくれる中、梨咲は舞のイメージを膨らませていく。
このタイミングでターンして、ステップの多い切り替えに入ると…なんだかバタついて見えるな…。
賛美歌なんだから、もっと優雅に…
神々しさを感じて貰える様な壮大な舞にしたいな!
ネファとも相談しながらどんどん舞を完成させていく。
「ねぇ、梨咲は体がよく動けるから即興パートも作ったら?」
「即興…ですか?!」
「その時に感じるままに舞うのよ!」
「…本気ですか? 難易度上がりますね…(笑)」
そうして舞の全体が確認出来ると、今度は体を実際に動かして、どんどんと動きに体を馴染ませていく。
1ヶ月後には何となく舞える様になり、ネファとの息も、どんどん合ってきた。
「即興もいけそうじやないの!私自身、当日が楽しみだわ!」
ネファ微笑んだ。
「こんなに楽しく歌えるのは、梨咲がパートナーだからよ!本当に、ありがとうね!」
「お互いに楽しい時間にしましょうね!」
重圧のかかる御役目の筈が、いつしか2人は楽しみな時間になっていった。




