敗者の戯言
翌日、敵の巣窟こと生徒会室に梨咲は足を踏み入れる。
「のこのこと1人でわざわざ来たか…!」
ディランが迎え入れる。
「私の言いたい事はおわかりでしょうか?」
梨咲は腕組をし、ディランの出方を窺う。
「そうだな。梨咲の勝ちだ。見事だったよ。
実に惜しい…。私の元へ嫁いでくれば、地位も名誉も保証された安泰な生活を約束したのに。」
梨咲は両サイドと頭上に潜んでいた3人とディランからの攻撃を防御魔法で弾き、素早く4人を地魔法で拘束し、絞め上げた。
床に座り込むディランの肩を足蹴に、壁に押し付ける。
「本当に、卑怯過ぎて反吐が出ます。よくも私の記憶を捨てましたね!」
そうして拘束した上から封術の札を貼り付ける。
これでディランは何も出来ない。
「卑怯はお前だろうが!記憶に防御を施し、手元に帰る様に細工していただろう!!」
「当たり前じゃないですか…。相手は かの有名な権力者、ディラン・アンドレア・カルサスですよ?策無しで挑む程、怖いもの知らずではありません。」
「お前…!こんな事をしてタダで済むと思うなよ?私に盾突くとは、後悔しても許されないぞ?」
ディランが喚くその様を見て、梨咲は眉毛を下げる。
「ディラン先輩には素敵な婚約者がいるのに…。
そんなに私との愛の無い結婚を望み、権力を振りかざしたいのですか…。救いようが無いですね…。」
しゃがみ込んでディランの眼を見る。
「良いですよ?後悔させられる前に…私が傷めて差し上げましょう。回復魔法で回復出来るギリギリまで傷めつけて、何度も、何度も…ね!後悔させられるのはどちらでしょうか?」
梨咲はディランの首に氷の短剣を当て、口角をあげて不気味に笑った。
梨咲の目には光が無くて、ディランは背筋が凍る。
「今までの数々の仕打ちを考えたら、妥当だとは思いますけどねぇ?」
ディランは生まれて始めて恐怖を感じていた。
こんな年下の小娘に…!
以前はもっと弱々しくて、白猫が邪魔ではあったが、梨咲自身は操作しやすかった。
特に権力をチラつかせたら、大人しく言う事を聞いたものだ。
「最後の最後にこんな悪足搔きをされなければ、私も手荒な事はしないでおいたのですが…非常に残念です。記憶を消して差し上げますので安らかな生活をお送りください。」
梨咲がディランの目の前に手を翳す。
「は?記憶を消すとは重罪だぞ?保管ならまだしも、自ら罪人に成り下がるのか?」
「その言葉、そっくりそのまま返しますわ。レイドリュー先輩の記憶を権力で消し去った貴方に言われたくありません。それに、理由が正当なものは罪に問われません。」
「正当な理由…だと?」
「先輩との賭けの模様は録画して、すでに提出してあります。そして今のこの状況も、国際魔法局の裁判所に送られています。」
ディランの顔が青ざめた。
「国際魔法局…!ルイスか!」
「このまま貴方を見過ごし、放置する訳には行きません。」
『ディラン・アンドレア・カルサス から
英梨咲の記憶を抹消する事を許可します』
部屋の何処からかアナウンスが流れた。
「ま…待て!梨咲…!お前は勘違いをしている!俺は梨咲が好きなのだぞ?!だからこそ、お前の能力を活かしてやりたいと…」
梨咲はディランの言葉に怒りを覚える。
この期に及んで好き等と…
貴方は最初から私を人質という名の玩具にしか見ていなかった。
私にどれだけの恐怖と悲しみを与えたか…
ネファ先輩にだって…
「私の事をしっかり忘れて、ネファ先輩を幸せにしてあげて下さい…。」
しかし、いざ記憶を消滅させるとなると…
手が震える。
決して後味の良いものではない。
梨咲は息を吐いて 気を入れ直す と、
横からルイスに手を掴まれた。
「… いつの間に…。」
毎回気配を感じなくて驚く。
「俺がやる。」
ルイスが前に進み出た。
「え…っ?」
「根こそぎ奪ってやるよ。梨咲さんの記憶…!」
ルイスがディランの目の前に手を翳して記憶を抜く。それから強い光を放って消滅させた。
その顔は無表情だった。
ルイス?
梨咲はルイスのその表情が心配になった。