用心棒
「じゃあ、早速だけれどルイス…。暫く護衛をお願い出来るかな?」
梨咲は言いながらドキドキする。
誰かと組んで「何か」をした事がない。
まして、こんな用心棒という、命を預けるお願いなど…。
「勿論、喜んで♡」
ルイスは一定の信用を得た様で嬉しかった。
張り切って護衛を引き受ける。
「あ、そうだ!何かその記憶に関して、思い出深いモノはないかな?今から私の記憶を呼び戻すから…。」
ルイスは驚いた。
「え!記憶って呼び戻せるんですか?!」
「いやぁ、わからないけど…。私の読みが全て正しければ…。あと記憶の存在する場所がそんなに難しくなければ、ね。」
そう言いながら梨咲は実践室に移動する。
「ごめんね。記憶を呼び戻すのに結構な魔力を使うから、結界はお願いします。」
梨咲に頭を下げられてルイスは不思議な気分になった。
こんなお願い、されたことない… ///
なんか… イイ !!(笑)
「あ、梨咲さん。記憶を呼び戻すのに、重要なモノです。」
そう言うと、ルイスは梨咲の左手を取って、掌に婚約指輪を乗せた。
「え…!」
梨咲は驚いて、固まった。
婚約指輪?! 手が震えた。
「ふふっ。また固まってる…(笑)」
ルイスは婚約指輪を渡した時の事を思い出す。
「俺達の大切な記憶です。無事に取り戻せます様に…」
ルイスは梨咲の左手を両手で優しく包んだ。
「うん…。 そうだね…。」
梨咲は指輪を握りしめると教室の中央に移動した。
ルイスは実践室に結界を張り、不意の攻撃に備え警戒する。
梨咲は魔法陣を描いていく。
足元から次々に描かれる、複雑で美しい幾何学模様…。
ルイスは梨咲が魔法陣を描いていくその様をうっとりと見ていた。
なんて…美しいのだろう…。
そして、なんて複雑な、難しそうな模様…。
幾何学模様、という時点で、普通の召喚術とは違う事がわかる。
つい、1年程前は魔法陣を描いた事が無いと話していた梨咲…。
それから精進をしてきた事がよくわかる。
一体この人はどこまで進化するつもりなのだろう…。
梨咲は魔法陣を完成させると左手を前に掲げ、目を瞑る。
私の「記憶」はどこに居る?
気の探知を悟られない様に、力を小さく抑え、ディランの位置を確認する。
それからその周辺の「気」を感じ取り、「記憶」を探す。
「…やっぱり捨てたな(笑)」
「記憶」を感じ取る事が出来ない。
梨咲は薄く笑って他の場所を探す。
まずはレスカーデン内…
高校の敷地には…無い。
ピクッ
指輪が浮き上がり反応する。
ココは…レスカーデンの東の深い森の谷間…
「! 居た!」
梨咲は右手を翳してその「記憶」を引き寄せる。
左手掌の上で浮く指輪と共鳴する。
「…っ!」
梨咲の周りが渦を巻く。
集中を切らさない様にしないと弾き飛ばされそう…
その魔力は強大な存在感を放つ
ふと、ゾクッと寒気が走った。
「! 気づかれた…!」
ディランに… ネファに… !
ルイスもその気を感じ取って応戦に備える。
早く… 早く来て!! 手元に!!!
「記憶」!!!
そうして右手に引き寄せられた「記憶」
梨咲は浮いていた指輪を握り戻して「記憶」と指輪を胸に抱き寄せる。
フッと「記憶」が消え、梨咲の中に戻った。
「ルイス!!!」
嗅ぎつけたディランの刺客とネファの遠隔攻撃に応戦していたルイスを呼び寄せる。
ルイスは梨咲の声を聞いて駆け寄る。
「逃げるよ!!」
中央の魔法陣の光に飲み込まれ、梨咲とルイスはその場から移動した。