1日目
はぁ〜〜〜〜〜
梨咲は深い溜息をついた。
今日もまたディラン先輩に呼び出されて、ネファ先輩に絡まれる…。
凛のいない今、自分でしっかりしなきゃ…!
クラスに入って席に着く。
ふと窓際に座る男子が目に入る。
後ろ姿だが、きれいなブロンドヘアー。
あんな子いたっけ?
さほど気にも留めずに1日を過ごす。
「ね〜梨咲。まだルイス君と仲直りしてないの?
今日は1回も喋ってないんじゃない?」
昼休み、クラスメイトがこっそり聞いてくる。
ルイス?
「誰?それ?」
梨咲は首を傾げる。
「誰って…! 梨咲ったらまだ怒ってるの?いい加減にしてあげないとルイス君もかわいそうだよ?」
「え? 何の話?」
クラスメイトの言っている事がわからない。
「え?指輪まで外してるじゃん。そんなに大喧嘩したの?」
左手を握ってクラスメイトが青ざめて心配する。
「ねぇ、さっきからわからないんだけど… 何の話? ルイスって誰?」
梨咲もクラスメイトの目を見て聞く。
「…梨咲、大丈夫? 梨咲の婚約者でしょ?」
クラスメイトが肩を掴んで聞いてくる。
婚約者?私に?聞いた事がない。
「またまた! 何の冗談よ! そういうウソ、私、嫌いよ?」
梨咲が笑い飛ばす。
「どうしたの?梨咲…!…っ!」
クラスメイトが泣きそうな顔をする。
私、何か変な事、言ってる?
尚も首を傾げる梨咲に、クラスメイトは無言で離れていった。
「梨咲〜?♡」
クラスの扉にはネファが来ている。
梨咲は小さく溜息をついてネファの前に進み出る。
「なんですか?」
「梨咲♡一緒にお昼を食べましょう?♡」
ネファは梨咲に抱きつき、頬擦りする。
「申し訳ありませんがネファ先輩、私にはそういう趣味はありませんので…。」
梨咲はうんざりして誘いを断る。
「あら、嫌だった?ごめんね?お昼を一緒に食べたかっただけだったんだけど…。」
ネファはしゅんと明らかに悲しげな表情を見せる。
梨咲は冷たい目で淡々と告げる。
「そう言って、惚れ薬を盛っていたのはどこのどなたですか?ある時は痺れの魔法で身を拘束…。ネファ先輩は私を玩具にして遊びたいだけでしょう!現に今も…」
梨咲は咄嗟に防御魔法を張る。
カカッと蔦や枝が弾かれた。
「こうやって無理矢理に、人を拘束しようとする!
私は貴女のモノにはなりません!ディラン先輩との喧嘩に巻き込むのもいい加減にして下さい!」
梨咲のよく通る声はクラス中に響き、注目をあびる。
意志のある強い眼差し。
何者にも縛られないという強い姿勢。
この気高い存在感こそが皆を惹きつける。
ネファもそのファンの1人である。
「ふふっ♡梨咲はそうでなくっちゃ♡だから美しいのよ♡」
但しネファは梨咲を手懐けて、ディランより優位に立ちたい。そこに愛情があるのかは不明だ。
「また誘いに来るわ♡」
「捕まえに来る…の間違いでしょう。いい加減にしてください。」
梨咲は苛立ちで周辺のモノを凍らせ、ネファを威嚇し、追い返した。
梨咲は漆黒の髪を払って自分の机に戻る。
クラスメイトは久々に見る迫力満点の梨咲様を若干怯えた目で見守っていた。
「どうしたんだ?今日の梨咲様は…。ここの所、親しみやすかったのに…。」
「最近はあんなに苛立った事、無かったのに!」
「ルイス君との喧嘩で?」
梨咲はそんなクラスメイトの目線をいちいち気にしない。気にした所で自分が傷つくだけだ。
不機嫌な面持ちで席に戻ろうとすると、
「相変わらず勇ましい…♡ 美しいですね…」
くすっと笑って1人の青年、ルイスが近づく。
誰? 警戒心剥き出しで梨咲はルイスを睨む。
大抵の者は皆、梨咲を怖がってわざわざこんな機嫌の悪い時に接近してきたりしない。
「誰だ?」
梨咲のその言葉にクラスがざわつく。
「貴方の婚約者です。」
「は? 聞いた事がないぞ。何の冗談だ?」
クラスのざわつきを感じながら梨咲はルイスに噛みつく。
「貴女には冗談の様な話でも、私は至って真剣です。」
重苦しい場の雰囲気に合わない、にこにこ笑顔で話す中性的な美青年に、梨咲は胡散臭さを感じずにいられない。
また何か頭のおかしいヤツが近づいてきたな…
梨咲は溜息をついた。