愛実視点 (時系列:64~65話、逃亡中のニナと愛実)
「ニナさんって、前は好きな人とか彼氏いたの?」
ニナの前世のことを聞く内にふと湧いて出てきた疑問を口にすれば、ニナは明後日の方向を見ながら首を傾げた。
「あー、初恋の人は覚えてるかな……彼氏の方は、あんまりそういうの縁がなくて……」
ニナはそう言って苦笑する。
「初恋の人って、どんな人?」
「兄の一人が通ってた剣道の道場にいたお兄さん……とってもストイックな人で、最初はちょっと怖そうだなって思ってたんだけど、さりげなく優しくて……」
兄を迎えに母親と道場に行った時にいつも見ていたらしい。
ある時、その青年の道を塞いでいたらしく、慌てて避けてびくびくと謝っていたら、思いもよらないほど優しい手付きでぽんぽんと軽く頭を叩かれたのが切っ掛けだったそうだ。
いつもより少女らしい顔付きになっているニナに、この人もこんな表情をするのだと愛実は思った。
「ギャップ萌え?」
「ギャップ萌えとは違うかなぁ……元々、戦隊モノで言うとブラックみたいなタイプが好きで、そのお兄さんのことも、ブラックみたいでかっこいい! って思った記憶はあるから……」
「ブラック……それって、いつぐらいの話?」
「小学校低学年かな。男兄弟ばかりだったから、テレビは全部そういう系統でね、かなり影響受けたと思う」
「そうなんだ……」
愛実が想像していた王女様よりサバサバしてるのもきっとその所為だろう。
(それはいいとして……)
「えっと、クロードって、そういうタイプじゃないよね……?」
愛実が思うに、クロードはかなりニナに好意を寄せているが、彼女の方はどうなのだろうか。
「クロード王子? うん、全然違うね。強いて言うならレッドだよね」
ニナはさらっと事も無げに言う。 先程、初恋の人のことを語っていた時の甘酸っぱい表情はどこにもなかった。
「レッド……」
正義感の強い熱血系キャラが多い色だ。それには愛実も同意する。
(でも、それって……)
ブラックとはよくライバル化することもあるキャラだ。
(クロード、頑張れ……!)
自身が未練を抱いていた相手なのに、思わず心の中でそうエールを送った。
前世でのタイプは全然違う系統だったという話。そういうタイプには今でも憧れるけど、昔を思い出して懐かしむ感情の方が強かったり。