32話
これが俺の答えや!
入ってきた女子は秀吉と同年代くらいだろうか。
しかしかなり若くも見える。
「羽柴殿、なぜ十兵衛様を殺したのですか!」
「ちっ、いちいちうるせえ女子だな。まだ明智が死んだとは報告を受けてないぞ」
いきなり秀吉に詰め寄るので信親が刀に手をかける。
「そちらの方は?」
「長宗我部土佐守信親である。いきなり羽柴殿に詰め寄るとは無礼千万!」
「あなたも十兵衛様にどれだけ助けられたと思っているの!?十兵衛様が四国から戦を無くすためにあなた達と織田様を近づけたのに!」
「黙らっしゃい。平民がそのような大層な口を効くでないわ」
「その平民があなた達、武士のせいでどれだけ酷い思いをしてきたと思っているのです!家を焼かれ家族を殺され財産を奪われ……。十兵衛様はそれを哀れに思って戦のない国を目指されたのに!」
秀吉の方はめんどくさいのか全く話を聞いていない。
信親の方はどんどんヒートアップしている。
「はぁ?ならばお前らも武士になればいいだけの事だろ。自分の力不足を我らのせいにするでは無いわ」
「その様な事がこの戦国の世で通るわけが無いでしょう!少し近づいただけで斬り捨てるような乱暴な人間達なのに!」
「ならばここにおられる筑前殿はなんといたす。筑前殿とて農民の産まれであるが今となっては織田家筆頭家老であらせられるぞ」
それを言うとまこの言葉が詰まる。
「それに我ら長宗我部は農民の中でも戦に参加するものは武士として年貢を免除しておる。お前らの努力不足なのだよ結局は」
プルプルと震えるまこの目が潤む。
「女子は都合が悪いと泣けば良いと思うておる。筑前殿、この者もしかすると明智様を唆したのやもしれませぬ。切り捨ててよろしいな?」
「うむ、子奴は足利義昭とも関わりがあった。斬り捨てよ」
秀吉の許可を経た信親は震えで動けないまこの首に信長より賜った刀を振りかざした。
さて、その後まもなく明智光秀が野武士に討ち取られたとの報せが入った。
坂本城も落城し畿内が安定したのを確認すると信親は石谷氏の一族を連れて土佐へと帰国した。
「しかし誠に若君が申されたことが現実になるとは思いませなんだ。こうなるのも全て仕組んでいたのですか?」
帰路、福留儀重が感心したように言う。
「うむ、上手いこといったわな。ここから暫くは国の発展に努めようと思う」
「そうですな。河野家も我らに従属することを了承したようにございます。四国統一、おめでとうござりまする」
「まずは河野の反長宗我部の家臣を彦七に始末させる。それと同時に小笠原、細川ら阿波の有力勢力にも消えてもらう。小太郎に既に命じてある」
「流石、抜かりない。とりあえず一段落ですな」
「うむ、そろそろ世継ぎも作らればならぬしのう。ホッホッホッ」
7月に入ると信親は1ヶ月ぶりに土佐に帰るのだった。