29話
6月13日は雨であった。
そして高山右近率いる先鋒の千人が山崎村に差し掛かったところで戦が始まった。
「申し上げます!高山右近様より援軍の要請にございます!」
桂川沿いを進軍する信親に福留儀重が報告する。
「ふむ……向かいたい所だがそれは池田殿にお任せしよう」
「は?よろしいのですか?」
「感じるぞ……敵勢が近づいている。我らはそれを全力で叩く」
「まさかその相手とは……」
「申し上げます!先鋒の桑名様、敵と遭遇との事!相手は斎藤利三!」
「来たか、伯父上!!」
さて、長宗我部軍を攻める斎藤利三の軍勢は二千。
信親勢の三分の一程度であり突っ込んで勝てる相手ではなかった。
「内蔵助、本気で勝てると思うておるのか?」
利三の兄の石谷頼辰はこの無謀な突撃に疑問を抱いていた。
「兄上、長宗我部の強さをご存知ですか?」
「屈強たる一領具足では無いのか?」
「違いますな。一領具足の強さとは戦の号令がかかってからの動員の速さ。そして鉄砲が未だ広まっておらぬ四国での圧倒的な鉄砲の保有領とその練度こそが長宗我部の強さ。しかし此度は雨で鉄砲は使えず残ったのは半農のみすぼらしい鎧に一回りも小さい馬に乗った田舎侍のみ。あれを抜けば後続も乱れまする」
「お主が言うならば……」
(愚かな甥よ。上方の戦を見せつけてやろう)
「全軍突撃!先鋒を崩して土佐守の首を取れぃ!」
利三が突撃するとそれに続くように斎藤勢は全軍が動き始めた。
そして利三の想定通り、長宗我部軍の足並みは一気に乱れた。
指揮官である桑名親光や久武親信、本山親茂らの器量の問題ではない。
騎馬戦は巨大な馬に長宗我部軍の馬が恐れて戦にならず槍の長さは斎藤軍の方が圧倒的に長い。
鎧の防御力も本土のソレを長宗我部軍は遥かに下回っていた。
そして何より、主光秀の思いに答えんとする斎藤利三の気迫に両軍の兵士が飲み込まれているのだ。
逆に信親はと言うと。
「申し上げます!堀様、織田様が後詰を送りたいと申されておりますが!」
「いらん!俺たち長宗我部軍が片付ければ良いのだ!」
「やはり強行軍で兵たちも疲れております」
「黙れ小太郎!(三好親長)。我らは織田の兵とは違い土佐の強兵なるぞ!」
と、言いつつも長宗我部軍も羽柴軍同様に凄まじく疲労しておりかなり厳しい状況であった。
(早く晴れんかのぉ)
信親はそう空に願うのだった。