25話
戦国の英雄、織田信長とその嫡子の織田信忠は本能寺にて散った。
そして彼らを討ち取った明智光秀は朝廷工作や近江の平定の最中に……何故か京の町屋敷にいた。
「おお、まこ殿。この頃は騒がしくして申し訳ない」
光秀はその屋敷の住人に頭を下げる。
まこと呼ばれた女の方はそっと茶を差し出す。
「十兵衛様、なにゆえ織田様を討たれたのですか?」
「ああ、上様は毛利を討った後に外様大名を尽く攻め滅ぼすおつもりであった。これでは戦無き世は永久に訪れぬ」
「ご立派にございます、十兵衛様。必ずや私との約束をお果たし下さい」
「うむ。その時にまた会おうぞ」
このまこという女は京の町医者に居候していた娘だ。光秀より少し歳下でその昔、光秀の父に火事場から救われた事がある。
それから光秀とは京にて知り合いその縁で一時期は足利義昭の妾ではないかと言われるほどに義昭とも親しくしていた。
現在はその医者が亡くなったので家を引き継ぎ薬を調合している。
彼女に光秀は弱き民のために戦の無い世を作ると約束していたのだ。
その後光秀は京での乱暴狼藉の禁止を兵士に厳命。朝廷のお墨付きを得て柴田勝家対策に動き出した。
対する秀吉達はと言うと。
「まっ誠に上様が討たれたのか……?しかも明智に!?」
堀秀政が声を震わせながら官兵衛に聞く。
「貴様!ホラを吹くのはやめよ!!藤吉郎の家臣とはいえ許さぬぞ!」
それまで丁寧口調だった蜂屋頼隆は口調が変わり官兵衛に掴みかかろうとしている。
「誠にございます!恐れながら今すぐ我らは毛利と和睦し畿内に引き返し明智を討つべしと心得ます!」
「血迷うたか!そのような勝手な事を軍監の私が言う訳がなかろう!」
「うるさい、久太郎。まずは状況を判断しその上で和睦し引き返すか毛利と戦を継続すべきかの判断をすべきであろう」
そう言う織田信重だが体は小刻みに震えている。
光秀の娘婿の彼にとっては他人事ではすまない。
そしてそれは信親も同じである。
「私は即座に引き返し明智を討つべきと存ずる。今ここで議論していては毛利も上様が討たれたとの情報を知って攻め込んでくるかもしれませぬ」
信親が言うと秀政が反応する。
「それもそうじゃな。おいそこの……浅野某。直ぐに毛利の陣へと向かおうとするものをひっ捕らえよ。誰であろうとな」
秀政に命令されて浅野長吉が退席する。
「申し訳ないが方々も自陣に戻ってくれ……。官兵衛と話がしたい」
総大将がそう言うので一同も頷く。
こうして陣に戻った信親の元に明智光秀の使者が訪れるのだった。