21話
信親が出陣した頃、明智光秀は信長に呼び出された。
「おう十兵衛。忙しいところすまないな」
「はっ。徳川殿の饗応で何か至らぬところがございましたでしょうか?」
ちょうど光秀は上洛している徳川家康の饗応役を任されていた。
「いや問題はあるまい。ただその役目はこれより五郎左に任せる。お主は兵を率いて猿の援軍に備中へ向かえ」
「なっ!」
光秀と秀吉は経歴こそ違えど立場が近く2人はライバル関係であった。
しかしこの頃は秀吉が西国の取次全般を担っている事から光秀には少々焦りが出ていた。
「まあ驚くのも無理はない。そなたは家康の饗応役であったからのう。まあそれは五郎左に任せてお主は七兵衛と合流して備中へ向かえ」
「おっ、お待ちくだされ。急に饗応役を変えては徳川様が!」
「その程度でとやかく言う家康ではない。その代わりにお主には石見と出雲をくれてやろう」
信長のその言葉を聞いて光秀の顔も変わる。
石見は石見銀山のある重要国でありそこを任せられるのは大きい。
「但し近江及び丹波の所領は召し上げる。毛利征伐後1年の猶予をやるので国替えの準備をせよ。後任は七兵衛辺りに任せる」
「はっ……ははぁ」
不満に思う光秀だが秀吉も長浜を召し上げられるという話を聞いていたので特に反論しなかった。むしろ娘婿の信重が治めるなら良い話だ。
「国分はこのようにしてみた。如何思う?」
そう言って信長が満面の笑みで中国地方の地図を見せる。
しかしそれを見た光秀は驚愕した。
「おっ、お待ちくだされ……。中川清秀と宇喜多の所領が多いような気がしますが……」
見てみれば中国地方の中心地たる安芸・備後は光秀の元与力の中川清秀に、備前備中美作は先日降伏したばかりの宇喜多家に与えられている。
更に防長2カ国は既に大勢力を持つ大友家に与えられているのだ。
光秀の顔から汗がダラダラと流れる。
「瀬兵衛(清秀)は使える男じゃ。されど宇喜多はいずれ滅ぼす……大友もじゃ。島津も北条も……」
「そっ、それではいつまでも戦が続きますぞ?それに宇喜多も北条も大友も上様に忠節を誓っております」
「所詮外様の連中は信用出来ぬ。信ずに値するのは身内と譜代のお主らよ。いずれはお主にも九州を丸ごと与えてやっても良い」
「有り難き幸せにございます」
「お主ら重臣の子と身内に地方を任せワシもお主らと共に一線を退く。それが終わればゆるりと皆で茶を囲いながら昔話に話を咲かせようではないか。それまでは共に戦ってくれるな?十兵衛」
「ははっーー!!」
この信長の考えに感服した光秀は中川清秀に石高で抜かされている事も気づかず丹波に戻り出陣の準備を始めるのだった。