17話
長宗我部元親は目の前に並べられた首桶をただ呆然と眺めていた。
「謀反人、一条内政とその郎党。皆討ち取りました」
「……勝手にやったのか?」
「ええ、父上の手を煩わせる訳にも参りませぬゆえに」
ニコニコする信親に対して元親の顔は暗い。
「それにしても愚かな。織田様と当家は今や親戚。大友が出てきたところでどうとなる話ではありませぬ。このまま伊予に潜伏しておると噂と一条兼定も討ち取りましょうか?」
「このたわけが!!」
元親の怒号で室内の空気は凍りついた。
周りにいた家臣達も皆驚く。
元親が声を上げることなど滅多にない。
「ワシはお前の好きにやらせてやりたい。だが道理を外す事だけはせぬと思うておったがそれもいちいち教える必要があったか!!」
「何を申される!こやつらは父上に刃を向けようとしたのですぞ!」
「御家を取り戻そうとするなど武士なら至極当然の動き。こやつらが決起したところですぐに鎮圧できる。それを許して一条の旧臣や伊予の国衆に我らが如何に寛大かを示せば良いのじゃ!だから内政を取り込んでおったのを貴様は!」
「甘い!父上は甘すぎる!逆らうものは斬る。それはこの世の常にござる。そのような弱腰だから姫若子と罵られるのじゃ!」
「若君!」
家臣達が信親を必死に引き止める。
しかし信親からすればせっかく父の為に謀反人を討伐したのにこの言われよう。
既に謀反でも起こしてやろうかと考えているくらいである。
「暫く浦戸にて蟄居しておれ。この痴れ者が!」
「待たれよ!まだ話は終わっておらぬわっ!!」
吠える信親を無視して元親は奥へと下がっていくのだった。
結局元親、信親双方の怒りは収まらず信親は浦戸へと引きこもった。
「いやぁ、ちと言い過ぎですぞ若君」
浦戸には毎日のように儀重がやって来て信親の様子を見ていた。
「黙らっしゃい。土佐守への任官は誰のお陰と思っておるのだあの御人は」
この頃信親はひたすら弓の練習に励んでいた。
「蟄居中であれば弓の鍛錬などする意味はありませぬぞ。いつまでもそこで引きこもっておられるおつもりですか」
「親父殿の方が俺に謝罪するまでは岡豊には出向かんよ。決してな」
「はぁ……」
強情な主人を持ったと儀重はため息をつくのだった。




