15話
土佐に戻った信親は元親と母の菜々に初を紹介した。
ちなみに菜々は斎藤利三の義妹である。
「お初にお目にかかります、初でございます。弥三郎様と共に長宗我部家を支えてまいりますので何卒よしなに」
そう言って初が頭を下げる。
「その歳で親許を離れてさぞ寂しいでしょう。私を母と思うて頼りなされ」
「うむ、ワシの事も父と思うが良い。それにしてもお主はワシや父上と違うて嫁を取るのが早いのう」
元親が菜々と結婚したのは25歳の時、その元親が産まれた時に国親も25歳と嫡子に恵まれるのがかなり遅かった。
だからこそ元親も菜々も信親が早くに嫁を取ったことを大いに喜び初は長宗我部家に歓迎された。
さて、それから半年ほどが経過した。
信親は降伏した阿波の武田信顕の人質として土佐にいた武田信定を小姓としていた。
一応彼は武田勝頼の従弟にあたる。
「近頃、武田は調子が悪いらしいな。何でも高天神城が落ちたとか落ちてないとか」
「武田勝頼がどうなろうが知った事ではございませぬ。あれは爺様を追放した信玄坊主の子にございます」
「ふむ……恨みとは恐ろしいものよな。孫の代まで引き継がれる」
「若君も恨まれなければ良いですな。西園寺の遺族とか」
「西園寺は根絶やしにしてやったが……そういえば1つ不安分子があったな。久武親直をこれに」
この当時の久武親直は親信の弟ではあったが岡豊に在城し元親の側近として仕えていた。
「久武彦七、お召により参りました」
親信が典型的な武士顔だとしたら親直は典型的な官僚顔である。
常に表情を変えず何を考えているか分からない。
「急に呼び出してすまないな。お前にしか頼めない事がある」
「ククク、私にしか頼めない事。若君もそちら側に参られましたか」
「左京進や隼人は異を唱えるやもしれぬが俺はこのやり方も好きだ。暫く一条内政を監視していて欲しい」
一条内政は一条兼定の子で元親の娘を娶り名目上の土佐国主の形を取っていた。
あくまで世話になった一条家に対する元親なりの配慮であったが信親からすれば自分に取って変わろうとしかねない存在であった。
「仮にあれに翻意があれば俺に伝えろ。連座するものがいればそれもな」
「ククク、よろしいのですか。織田様に初めに接触した時は一条家を補佐する形となっていましたが」
「既に親父は土佐守護。それに一条の処遇について織田家の津田七兵衛殿と堀秀政に問い合せたがこちらに一存するとの事だ。ただし親父には内緒で頼むぞ」
「お任せ下さい、必ずや若君の期待に応えてみせまする。ククク」
それから年が明けて天正9年。
信親の元に許し難い報告が入るのであった。