14話
翌日、信親は祝言を挙げるため安土城に登った。
まずは信長への挨拶を済ませる。
「ご無沙汰しております、弥三郎にございます。上様の麗しきご尊顔を拝謁し恐悦至極に存じ奉ります」
「遠方からよう来た。四国の方は順調らしいな」
「はっ。上様のご威光に四国の者にも聞こえておりまする。これほどまでに四国制圧が順調なのも上様のおかげにございます」
「うむ、それと娘の件は悪かったな。だが初はあれよりも気量が良いので安心致せ。これへ」
信長が扇子を床に叩きつけると隣の障子が開く。
その中には信親より少し歳下の少女が居た。
「ほお……なんと麗しい。この御方が初殿」
「左様、ワシの養女じゃ。これよりはお主もワシの親族。期待しておるぞ」
「ははっ!」
信長に一礼すると信親は初の方を見る。
「これからそなたの夫となる弥三郎信親じゃ。よろしく頼むぞ」
「はい。こちらこそふつつかものですが宜しくお願い致します」
ぎこちなさそうに頭を下げる初。
やはりまだ子供のようだ。
その後、2人の祝言が執り行われた。
信長を初め信忠、お市の方ら織田家の親族も多く参加し長宗我部家は織田家の準一門格として扱われるようになったのだった。
祝言が終わると下戸の信親も割と酒を飲まされヨレヨレになっていた。
初夜は土佐に帰ってからの方が良いとして一旦、初は家に帰らせたのだが信親が帰れるかが問題となっていた。(福留、本山らは浴びるほど飲んでる)
「はぁ……土佐の者はもう少し酒が強いと思っていたが……。七兵衛殿、手伝ってくだされ」
見かねた秀政が信親を支える。
「すまぬ……。どうも親父と違って酒が弱い。そちらの御方は……?」
「ああ、これは紹介が遅れて申し訳ない。某、織田七兵衛信重と申す」
秀政に呼ばれてきた男が軽く頭を下げる。
信親の方は早速誰か分かったので彼よりも深く頭を下げる。
「七兵衛殿は上様の甥御にして側近衆筆頭の御方。仲良くしておいた方が良いぞ」
「はっはっはっ、やめておけ久太郎。長宗我部殿が困っておられる」
さて、信重と秀政に介抱され翌朝に何とか調子を取り戻すことが出来た。
「すまぬな、久太郎。迷惑をかけた」
「いや、貴殿に酒を飲ませた上様も悪い。気にするな」
「七兵衛殿は?」
「摂津にて用事があるために早朝に向こうに。それよりもお主に頼みがある」
先程まで姿勢を崩していた秀政が改めたように言う。
「なんじゃ。初はやらんぞ」
「私は幼子に興味はない。だがその幼子とお主の間に娘が産まれれば私の息子にくれぬか?」
「ほう。つまり俺に娘が産まれればそれをお主に渡せと」
堀秀政の嫡男、堀秀治は史実では同じく織田家側近衆の長谷川秀一の娘を妻にしている。
しかし秀政と豊臣政権で似たような立場であった蒲生氏郷の息子の秀行が徳川家康の娘を妻にしていたことを考えれば少し各落ち感はあるが……。
「私は上様の一門では無い。重臣を見て見よ。丹羽殿、明智殿、筑前殿、池田殿、瀧川殿。皆どこかで一族が上様と繋がりがある。若手衆も前田、中川、筒井、蒲生ら多くが上様の娘婿。側近衆も筆頭格の七兵衛殿は言うまでもなく次席の菅屋も元は織田一族。私もそれに加わなければならぬ」
「政争か……。既に10年先のことを考えておるな?まあ良い、娘などいくらでもくれてやる。だが俺も幼子に興味は無いゆえ暫し待てよ」
「感謝する」
信親としても堀家はどちらにしろ強大になるのでそれをコントロールできるとなると願ったり叶ったりである。
非公式であるが堀秀治と信親の未来の娘が婚約したのだった。
こうして信親の祝言は無事に終わり、信親は初らと共に土佐に帰るのだった。