8話
北条家相手に余裕を見せるために行われた大名家別相撲大会。
面白がった秀吉は重臣若しくは大名本人に参加させるように命じ福島正則や池田輝政など武断派の諸将は本人が出てきた。
さて、言い出しっぺの信親は秀吉に言われたこともあり本人が参加する事になった。
前世において彼は喧嘩がとんでもないくらい弱く小柄だったがこの世界では美丈夫である。
しかしその背丈には似合わぬほどビビっていた。
「あの……殿下の前でそんなこと提案するってなんすか……」
と呆れる本山親茂。
「おっ、俺がやれって言われるとは思って無かったんだよ!どうすんだよ……本多忠勝やら立花宗茂やら明らかに戦ってはいけない連中まで居るんだぞ!」
「いやいや、パッと投げれば何とかなりますよ」
「パッと投げて何とかなる相手じゃねえ!どうやって勝つか……いっそ負けるか……」
「いや、そうはいきませんよ。初戦の相手は先程殿下に降伏した伊達左京大夫の家臣の伊達兵部成実。これに負けては当家は末代までの恥にございます」
「あの百足の兜のやつ相手なんて俺死ぬよ?真剣に死ぬよ???」
「うーん、でも殿って諸大名の中でもかなり大柄な方……というかめちゃくちゃ大柄ですよ。1発ぶてば大体の方はかなり痛いかと。その後に連続でぶてば勝てますよ。何せ殿は叔父上の自慢のご嫡男ですから」
「クゥン……。仕方ない、やるしかないかぁ」
と、嫌がる信親を他所に相撲大会当日。
第一回戦では徳川家が上杉家を、立花家が毛利家を瞬く間に破り2回戦へと進出。それ以外にも福島家など武断派諸侯、そして豊臣家に仕えたばかりの佐竹家なども2回戦へと足を進めた。
そして1回戦最終対決、言い出しっぺの信親VS東北最強の伊達成実である。
「やぁやぁ伊達殿。まあ優しくいきましょうや」
そう言って宥める信親だが相手は獲物を見つけたティラノサウルスのような目でこちらを睨みつけてくる。
ああ、こりゃ無理だな。と確信したところで石田三成が軍配を振り下ろす。
「うぉらァァァァァァァっっっっっ!!」
と成実の張り手が信親に直撃する。
「いっ!!!!!て痛くない……?」
悲鳴をあげようとした彼だが何故か痛くないし全く動いていない。
(俺……もしかして屈強なのか!)
それに気づいた信親は連続で成実の腹にパンチを食らわせ動きが鈍ったところで土俵の外に押し出した。
半分ボクシングみたいであるが気にしない。
こうして案外楽勝に2回戦へと進んだ信親であるが次の相手が最悪だった。
「続いて、東、福島左衛門大夫!西、長宗我部宮内少輔!」
どうして厄介なのか……まず福島正則が凶暴なのは誰でもわかる話。
次に福島正則は伊予11万石の大名であり朝鮮征伐においては四国勢の総大将を務め尚且つ関ヶ原の重要人物である。
つまり今後信親が豊臣政権で立ち回る上で増田長盛の次くらいに仲良くしておかねばならない相手である。
しかし正則はプライドが高く自分の負けを絶対に認めようとしない性格なのは何となく察せる。
勝てば正則に嫌われ負ければ長宗我部の恥。
どう転んでも最悪な戦いなのだ。
「ふっ、福島殿。仲良くいきましょうっ!なっ!?」
「問答無用じゃァァァァッッ!」
といきなり正則がぶつかってくる。
しかしやはり信親は動かない。
「くっそぉぉぉぉぉぉっっっ!なぜ動かない!!!」
「だから言うたではありませぬか……」
と結局家名を取った方が良いと考えた信親は正則をひょいと持ち上げて投げ飛ばした。
これには武断派諸侯や秀吉もびっくり。
こうして2回戦に勝ってしまった信親だが3回戦で本多忠勝に瞬殺された。
まあ徳川家康に対する気遣いもあったのだが……。
そのまま本多忠勝が優勝した。
めんどくさい事になる前にさっさと船に帰ろうとしたところで信親は案の定、福島正則に呼び止められた。
「暫し待たれよ」
「ふっ、福島殿……。お怪我はありませぬかな?」
「ふむ……貴殿に投げ飛ばされたところがズキズキと痛むが……見事であった」
「はっ???」
ぶっ殺されるかと思いきやのまさかの言葉に信親は困惑する。
「ワシを投げ飛ばしたのは貴殿と同じくらい大柄の虎(加藤清正)だけじゃ」
「そっ、そういえば加藤殿と福島殿は幼なじみにございましたな」
「左様、されどあそこまで綺麗に投げられたことは無い!あっぱれにござる!!この正則、失礼ながら貴殿の事を所詮は田舎武士だと舐めてござった!」
いきなり膝を着いて謝罪する正則。
「頭をお上げくだされ、福島殿!貴殿は殿下の……」
「ワシが殿下の何であろうとワシが愚かであったのには関係無い!どうかこの通りじゃ。許してくれ」
「いっ、いえ……そのような事は信長公に散々言われてきた故慣れております」
いや、お前は農民出だろとツッコミたくなったがどうやら正則は単純な男のようだ。
良く言えば仲良く出来る、悪く言えば操りやすい。
そんな感じである。
「さっ、左様であるか……。しかし貴殿のあの投げっぷり!誠に素晴らしい!どうじゃ、今日ワシの陣で1杯!」
「それは有難い、馳走になろう」
案外チャンスというのは簡単に掴めるものである。
武断派筆頭格の福島正則と親しくなればいずれ東軍に加わるのは容易いことであろう。
これで長宗我部も安泰だー!と思いながら気分良く正則と酒を飲んだはずの信親だったが……。
「なんだあの男は!!!」
大黒丸に戻るとブチ切れていたのだった。