11話
「それにしても何故、大西は寝返った?三好は今グダグダだろ」
信長より与えられた馬に揺られる信親には今回の寝返りは疑問があった。
ちょうど長宗我部父子が上洛していた頃、阿波では三好長治が家臣の謀反によって討ち取られている。
その状況下で三好に寝返るメリットがあるのだろうか。
「讃岐の十河孫六が白地まで来たそうです。しかしそれで弟を見捨てるとは情けない……」
福留儀重は古き良き武士だ。
自分なら決して家族を見捨てたりしないという断固たる意思が感じられる。
「十河孫六はそこまで恐ろしい男なのか?」
十河孫六……俗に言う十河存保は三好長治の弟で実質的な三好家の当主だ。
しかし長治が討ち取られてから数ヶ月でそんな事が可能なのか?
少なくとも令和の世での存保の評価はそこまで高いものではなかった。
「さあ、ワシの親父の方がよっぽど怖いですぞ」
「間違いない、爺は何を考えているか分からぬ」
談笑しながら歩いていると伝令が走ってくる。
「申し上げます。上名、下名、西宇、国政の地侍、全て上野介殿の手引きでこちらに降伏致しました」
それだけ伝えると伝令は後ろの中島・本山勢の元へ向かっていく。
「ほお、難所を攻めるのは大変ですからこれは助かりますな。若君もよう上野介殿を助けられた」
「いや、どうせ父上が助ける事は分かってた。だがあの御方は俺が言うまで何も仰られなかった。きっと俺を試しておられたのだよ」
「成程、それで若君は見事に大殿の期待に応えられた。お見事にございます」
この辺りは史実を知っているので家臣からの信用に答えやすい。
転生の1番のメリットともも言えるだろう。
翌日、長宗我部軍先鋒と大西軍が睨み合った。
先鋒を率いるのは谷忠澄と大西上野介である。
「向こうは千人、こちらは八百。ちと都合が悪いのう」
谷忠澄は元々は神官であったが元親に招かれて長宗我部家に仕えている。
元親が初陣する前に世話になっていたため、それに酬いるための誘いであったが忠澄は元親の想像を超える以上に活躍し弟の非有とともに長宗我部の政治の中枢を担っている。
「問題ありませぬ。見て下され」
上野介が指さす方向の大西勢が怪しい動いを始めた。
「あとあちらも」
さらに奥の軍勢がなんと撤退を始めた。
それに続くように他の軍勢も逃げ出し始める。
「ほお!家老にまで調略の手を伸ばしておられたか!」
「兄が寝返ると大殿は予知しておられました。その上で私に調略をお命じに」
してやったりの上野介を見て対岸の大西覚養は顔を真っ赤にしていた。
「おっ、おのれぇ!このままでは十河様に何と言われるか!」
「殿、如何しますか!」
「決まっておろう、逃げるが勝ちじゃ!!」
こうして大西覚養は城を捨てて讃岐国へと逃亡し、元親は白地をほぼ無傷で手に入れたのだった。
十河存保ですが今後は改名して三好義賢になるので以降は三好義賢名義で登場します。




