10話
直ぐに岡豊城の本丸大広間に重臣達が集められた。
信親も元親の横に控える。
「ふざけやがって!直ぐに人質の首を突っぱねて覚養の元に届けてやれば良い!」
「左様、耳と鼻をそいで別々に送り付けるべきじゃのう」
家老の桑名太郎左衛門、中島大和が上野介を非難する。
上野介はただ平伏しているだけだ。
「何か申し開きは無いのか……」
ただ黙り込む上野介を不憫に思ってか親信が聞くが上野介は何も言わない。
さて、ここで信親が口を開く。
「お前らさぁ……殺したところで覚養が驚くとでも思うか?寝返ったって事は上野介は見捨てられたのだろう?」
「若君……!」
大人の話し合いに子供が首を突っ込むのは正直良くない。
直ぐに横に控える本山親茂が小声で止めるように促す。
「むしろ考えろ?白地は天然の要害で守りやすいから攻めなかった。俺達に地の利が無かったからのう」
「なっ!若君は上野介殿を家臣にしようとお考えですか!?」
信親の意図を察知した親信が前に出る。
「よう分かったな。無駄に殺すより上野介に案内役として先鋒を務めてもらう方が良い。寝返れば後ろから銃撃を浴びせれば良いしの」
つくづく親信は幼少の頃から信親の言動が恐ろしいと思っていたが今回の軍議の場で確信した。
夢の話も現実になりうると……。
「ようし、弥三郎の策を取ろう。上野介はそれで良いか?」
元親に言われ上野介の体がプルプルと震える。
「この上野介……土佐守様と若様の器量に感服致しました……ッ!もはや覚養を兄とは思いませぬ。私に先陣をお申し付けくだされッッ!」
「よう申した!すぐに一領具足達に触れを出せ、白地を我らの手で攻めとる!」
「おう!!」
家臣達もそれに応える。
「此度の戦にて弥三郎も初陣じゃ。新たな長宗我部家の船出となる戦よッ!」
遂に信親の初陣が認められた。
父の元親が23歳で初陣したことを考えれば13歳で初陣というのはとんでもなく早い。
しかし家臣達も先の軍議での信親の振る舞いもあり初陣には一切異を唱えなかった。
3日後、元親は四千の兵を集めて白地への進軍を始めた。