6話
白地城を制圧した事で一帯に対して睨みを効かせられるようになった長宗我部家は一気に四国内での立ち位置を上昇させた。
そして年が明けて1577年。
元親の土佐守への任官が認められ長宗我部父子は上洛する事になった。
だがまずは信長への挨拶をするために安土城へと向かう。
ついでに信親の元服も行われる。
「此度は右大将様の御推挙により土佐守へと任官すること相成りました。右大将様にはお骨をお折り頂き感謝の言葉しかございませぬ」
そう言って元親が平伏する。
実質的に長宗我部家が織田家の支配下に入った瞬間であった。
「遠路はるばるよう参られた。今宵は両家の同盟を盛大に祝おうではないか」
その日の夜、後に江土同盟と呼ばれる織田・長宗我部間の軍事同盟が正式に締結され信親も元服、将来的に信長の娘を娶る事が約束され、長宗我部弥三郎信親と名乗るようになった。
「おい、久武。あのお方はどれだ?」
宴の場で信親は筆頭家老の久武親信に織田の重臣を見渡しながら質問する。
「うーむ、居られませんなぁ。出立する前に書状は出しておいたのですが……」
「左様か、残念じゃの」
信親が探している男は羽柴筑前守秀吉。
後の天下人であり信親が媚びを売りまくりたい相手だ。
親信は以前、有馬温泉で湯治中に偶然秀吉に会い2人は意気投合したそうだ。(史実ではこの年だが気にするな)
「後でお屋敷にも行ってみますかね。いつでも会いに来いと申されておりましたから」
「いや、さすがに方便だろ。うーむ、天明には逆らえないか?」
そうこう話してると1人の青年が近づいてきた。
「こうしてご挨拶させて頂くのは初めてでございます、堀久太郎秀政にございます。先年の摂津での御無礼をお許しくだされ」
去年の謁見の席で信親の真意を見抜いた堀秀政である。
そういえばあれから信親への謝罪は無かった。
「これはわざわざご丁寧に。むしろ話を切り出し安くして頂いて感謝しておるくらいでござる」
信親の方は別に腹が立っていた訳では無いし怒鳴り散らした柴田勝家の怒号の方が鬱陶しかった。
「実のところ、幼子に詰め寄ったことを後悔しておるのです。しかも御相手は御館様の同盟相手、しかし御館様によからぬ事を考えている可能性のある相手と思い警戒してしまいました」
「流石は織田家の御奉行。見事な忠誠心にござる、そなたも見習えよ」
信親が言うと久武は困ったように頭を下げる。
内心そう言うのは自分の側近の本山・福留辺りに言えよと思ってそうだ。
「それで羽柴殿がどうこうと話しておられませんでしたか?聞き耳を立ててしまいました」
羽柴秀吉と堀秀政は密接な関係にある。
これは思ってもないチャンスだ。
「この久武が以前有馬温泉にて羽柴殿にお世話になったようでお礼を申し上げたいのだが……。貴殿は羽柴殿とは親しいと聞いたがお取次ぎ願えないだろうか?」
「おお、そのような事でしたらお任せくだされ。あの御方は単純に今日の宴に呼ばれてないだけですから」
「呼ばれてない?何かされたのですか」
そんな訳あるかい、そんな顔で信親は聞く。
「明智様の嫌がらせですよ。お互いに最近は陰湿な嫌がらせばかりされる」
「なるほど、お互い立場が似ておられますからな。とにかく羽柴殿へのお取次ぎ、よろしくお願い致す」
信親がそう言って軽く頭を下げると秀政はキョトンとしている。
「お取次ぎなんて必要ありはしません。あの御方と私はもう20年の付き合いですから。宴が終わったら行きましょう」
「へ、今日でござるか!?」
てっきり元親が京に向かう明日以降かと思っていた。秀政のフットワークの軽さに信親も親信も驚いている。
「あの御方、どうせ今ごろ女でも呼んで憂さ晴らしをしておる頃ですから。話し相手が来てむしろ喜ばれますよ」
こうして宴が終わると信親と親信は秀政に連れられ秀吉の屋敷へと向かうことになった。