3話
「ええい!何故十河は倒れぬか!」
馬上に跨る香宗我部親泰から不意にそんな言葉が出た。
戦が始まり3時間。
福留勢の猛攻を十河勢は耐えつつ更に襲いかかった香宗我部の先鋒を追い返した。
十河存保からしてみればこの戦に負ければ全てが終わりなので必死だった。
そして信親も。
「ええい!福留に鶴翼の陣にて包囲殲滅するように伝えよ!親茂は援護を続けワシも加わる!」
信親の指示が飛ぶと福留勢は二手に分かれて空いた中央に信親の兵千五百が入った。
しかしこれが失敗であった。
総大将が見えたと気づいた十河存保は一気に信親の陣に襲いかかった。
「怯むな!押し返せ!土佐の兵はその程度か!!」
信親は必死に激を飛ばすが十河勢五千が修羅となって突っ込んできたので信親勢の先鋒は突き崩され第二陣も飲み込まれつつあった。
福留、香宗我部、本山の軍勢が止めようとするもののそれは全て跳ね返された。
否、正確には足止めされたのだ。
それを見た瞬間に信親は気づいた。
「捨てがまりだと…………!??」
そう、即ち一点突破のみを狙いとし兵の損傷を考慮しない島津家が関ヶ原の戦いにて使った戦法である。
つまり十河存保は確実に信親の首を狙いに来ているのだ。
「ここでは死ねぬぞ!十河なんぞ跳ね返してくれるわッッッ!」
左文字を抜くと信親は立ち上がった。
「なりませぬ若!お逃げくだされ!」
「逃げるものか!ここで逃げれば末代までの恥!この逆境をはね返してこその武士であろうが!」
家臣たちが呼び止めるのを無視して信親は馬上に跨ると十河勢を待ち構えた。
「長宗我部弥三郎信親!その首貰った!」
ふと1人の騎馬武者が突っ込んできた。
「じゃかましいわッッッ!」
武者の槍を交わすと信親は左文字を振り下ろす。
武者の兜が真っ二つになり先程まで人であった物体が血しぶきを上げながら真っ二つになる。
「ええぃ!俺が仕留める!」
そう言いながら鉄砲を構える足軽に信親は近くの騎馬武者から奪った槍をぶん投げ足軽の頭蓋骨を粉砕する。
「その程度か雑魚どもが!!ワシはまだまだ戦えるぞ!」
「その心意気や良し!ここでそなたを討ち我が四国の王となろうぞ!」
そう言いながら恐らく長宗我部軍の血で染ったであろう甲冑を身につけた男が現れた。
「三好河内守存保!推して参る!」
「真打登場か!覚悟せい!」
そう言って信親が刀を構えるやいなや存保の強烈な一撃が信親を襲いかかった。
刀で防ぐものの槍の連続攻撃に信親はぐらつき明らかに存保が有利であった。
「その程度で四国の王になろうなど笑止千万!中富川に沈むが良い!」
存保の突きを信親は咄嗟に交したものの落馬してしまった。
強烈な激痛が体中を走り起き上がることが出来ない。
しかし存保はジリジリと信親に近寄ってくる。
もはやこれまでか……。
そう信親が目を閉じた時である。
「若!」
聞き覚えのある声……親茂の声だ。
横を見るといつでも撃てる状態の鉄砲が宙を待っていた。
「遅せぇよ!」
すぐに鉄砲を手に取ると信親は照準を合わせ引き金を引いた。
乾いた銃声とともに存保の動きが止まる。
ガタンッ!
甲冑の金属音が地面に響き仰向けになった存保の頭部から赤い液体が流れていた。
信親はすぐに小太刀でその首を切り取ると大きく掲げた。
「十河存保殿、討ち取ったり!三好の兵共よ、降伏せよ!」
こうして戦場の流れは一気に変わったのだった。