40話
1617年、伊達政宗の娘婿で越後50万石の松平忠輝が突如改易された。
「父上!これは義直(義利)殿も危ういですぞ!」
「相変わらず声がデカイな家親。そんな訳ないだろうがよ」
歳をとるにつれて耳が悪くなっていた信親だが嫡男の家親の声の大きさには飽き飽きしていた。
「何故にございますか!忠輝卿が追放されたのはどう考えても伊達政宗殿に対する警告としか思えませぬ」
「それはそうだ。されどだから何故義直が改易されることになる」
「それは義直殿の姑が父上だからです!父上は今や伊達と並ぶ天下の大大名。謀反の疑いを持たれてもおかしくはありませぬ」
「アホ抜かせ。伊達の所領は江戸に近く周りの最上、佐竹らは伊達の縁戚じゃ。だから警戒されておる。しかし我らはどうじゃ?江戸からは遠く京、大坂とは海で隔てられ土着勢力は尽く滅ぼし周りに縁戚の大名もおらぬでは無いか?」
「しかし義直殿は江戸にも京にも近く……」
「お前は地図を見た事がないのか!高田と仙台は距離も近くその間の最上は政宗の従弟。それに対して尾張と土佐は遠く離れその間におる井伊も藤堂も…………あっ……」
「ほら見たことか。藤堂は父上の元与力で井伊殿は父上の婿、それに越前の義父上も加わりこれらが一気に兵を挙げれば京、大坂など瞬く間に制圧できますぞ?」
「いや、それでも播磨の本多、岡山の池田、大坂の松平忠明が許すまい。あとは山内と蜂須賀も前におる」
「池田を除けばほとんど30万石未満でござる。大した驚異ではありませぬ」
「そもそもな、忠輝は松平だが義利は徳川。そこの時点で格が違う。アホな考えはやめて吉成と政親に政と武芸を学んでこい」
面倒くさくなってきた信親はさっさと家親を追い出すとタバコを吹かした。
「あーあ、千王丸は物分りが良いのにあいつはなんであんな強情なんだよ……」
千王丸は信親の次男でまだ10歳ながら聡明で文武に優れ正に信親か元親の生き写しであった。
対して家親は気が短く頭も固く信親は正直嫌っていた。
「そうやって次男ばかり褒めていると御家騒動になりますぞ」
「分かってるわ政親。でもお前も千王丸付の家老なら鼻が高いだろう?」
「そっ、それは……」
千王丸の守役の福留政親がちょっと嬉しそうにする。
「まあ筋目は守るさ。余程あいつがバカやらかさん限りはな。それであいつの妻だが細川忠利の娘から取ろうと思っておるがどう思う?」
「おお、細川様の御母上はかの明智日向守の娘。となると当家と明智家にも血のつながりが出来ますな」
「うむ、せめてもの弔いじゃ。明智の伯父上には悪いことをしたからのう」
(勝手に信親が伯父上と呼び光秀もそれを許したのでこう呼んでるだけで別に血の繋がりは無い)
「話は蜷川に進めさせてあるから楽しみにしておけ。元服の際には細川殿から忠の1字を頂けるそうだ」
「おお、では忠親殿ですな」
「うーむ、良い名だ。いずれは将軍と親友になり天下を取り仕切ってくれそうだ」
この信親の千王丸への溺愛具合が後々揉め事になるのは誰もが目に見えた話である。