38話
あれずっと思ってたんですがメイトリクスに腕切り落とされた人って生きてたんですかね?
「義父上!義父上!怪しき男を捕まえました!」
そう言って満面の笑みで直孝がやって来る。
「ああ、なんでそれを俺に連れてきた?見ての通り長宗我部軍は真田のせいでかなりボロボロなんだが」
「それが義父上の弟……盛親叔父上を名乗る男を捕まえたのです!」
「何!?すぐ連れて参れ!」
直孝によって連れてこられた男は間違いなく盛親だった。
なんで捕まったかは知らない直孝が気づかない理由も分からなかったがとにかく捕まったらしい。
「割と最近あったな。右衛門」
「ははっ、そうですな。実は最後に兄上にお願いしに参りました」
「何を申すか!今まで義父上がどれほど苦心されたと思うておられる!」
と怒る直孝だが信親が睨みつけたのですぐ大人しくなった。
「なんじゃ」
「治長よりこれを預かって参りました」
大野治長の書状には自身の命と引き換えに淀殿と秀頼の助命するようにと書いてあった。
「お主的にはどうだ?」
「むしろ治長と女狐を交換してくだされ。この戦はそもそも女狐のせいで起きたのでございます。潜伏場所を教えますゆえ、何卒女狐の首を!」
「それで秀頼が死んでもお主は恨まぬか?」
「それが兄上の為ならば致し方ありませぬ……。不出来な弟をお許し下され。上様の居場所は山里丸です」
「承知した。ではいけ!」
そう言うと信親は直孝にそっと菓子折りを渡した。
「おお、菓子ですか。有難く頂きます……って!!」
「頼む、それをやるから此度の事は黙っていてくれ」
「……私も幕臣です。例え義父上のお願いとはいえこればかりは……」
「じゃあわかった、秀頼の居場所を特定したのもお前の功績だし女狐を打ち取ったとしてもお前の功績にしよう。それでどうだ?」
「……ならば仕方ありませぬ。とにかく山里丸に向かいましょう」
信親は大坂城の火が治まると直ちに井伊直孝と共に兵を率いて山里丸を包囲した。
流石に全軍を連れていくのも大変だったので200人の鉄砲隊を用意した。
「ああー、こちらは土佐藩の長宗我部土佐宰相である。各々方と交渉する用意がある。応じるなら誰か1人でも良いので出てこられよ」
間もなく扉が開き一人の男が出てきた。
「おお、治長では無いか。随分と久しぶりじゃない」
一切触れて来なかったが信親は大野治長と歳も近く石田三成を通じて割と仲良くしていた。
「久しぶりだな、宰相殿。右衛門殿からの書状は大御所には見せたか?」
「いや、ここに来たのは俺たちの判断だ。俺としては淀殿さえ自害してくれればそれで構わぬ」
「……断る」
「よく考えみろ。その蔵は完全に包囲されておる。お前たちを200丁の火縄銃が狙っておる。お前達はもう散々いい気分をしてたんだ。もう良いでは無いか」
「何も良うはないわ!何も!我らにとっては豊臣はまだ続いたままなのじゃ!お方様に頼まれて必死に戦った!そして豊臣を守るため奔走していれば実の弟に刺された!浪人共は私を卑下し弱腰と称した!ワシはそれを言われようとも豊臣を守らなければならぬのだ!治部様や刑部様が居られた頃はこのような事は無かった!徳川の世にはそれが無い!」
そう言うと治長は刀を抜く。
「構え!」
「やめろ直孝!落ち着け!治長よう聞け!おまえも秀頼君も助命するように俺が説得する。とにかく女狐の首を差し出さねば弟に顔向け出来ぬのだ!」
「もはや話にならぬ!お方様がそれを受けられる訳が無い!御免!」
そう言うと治長は立てこもってしまった。
「うーむ、義父上。これはなかなか大変ですなぁ」
「どうしたもんじゃろなぁ」
そうこうしていると蔵の中から悲鳴が聞こえてきた。
「まさか……。見てこい、カルロ」
信親が命じると黒母衣衆のカルロと数名の足軽が鉄砲を構えて蔵に近づいた。
ドォンっ!
すると轟音が鳴り響きその辺にいた者は吹き飛ばされた。
「ええぃ!してやられた!これでは上様に顔向けできぬ!」
「かなり不味いですぞ……上様も大御所様も秀頼には同情的だったという噂も」
「あぁ、終わった……。これはかなり危うい」
その後、信親は直孝と共に髻を落として家康と秀忠に謝罪した。
血縁関係があるとはゆえ戦中であったので2人を死なせた事は咎められ無かったものの報告せずに動いた事については叱責を受けた。
信親は直孝の分も責任を負ったため、真田信繁を討ち取ったにも関わらず加増はなく恩賞は鼻くそ程度だった。
ともかく大坂夏の陣はこれにて幕を閉じ、戦国時代が終焉を迎えたのであった。